第7話『カラメル-前編-』

 プールで遊び終わったときには、日が暮れ始めていた。たっぷりと遊んだので、もうお腹もペコペコだ。

 彩花もそうだったらしく、バイキング形式の夕食をたくさん食べていた。ただ、甘い物好きの彼女はフルーツやスイーツの比率が高かったけれど。

「いやー、海とプールで遊んだからか、たくさん食べちゃいました」

「夕ご飯、美味しかったな」

「美味しかったですね」

 海沿いの街ということもあってか、魚介類系の料理は特に美味しかったな。俺の故郷である洲崎町で食べるような料理もあって懐かしかった。

「お部屋の中で食べるお菓子もこんなに買っちゃいました」

「……4日かけて食べるんだよな?」

 夕食が終わった後に、売店でお菓子や飲み物を買ったんだけれど、お菓子の量がかなり多い。夕食でもあんなに甘いものを食べたのになぁ。本当に甘いもの好きなんだな。

「もしかしたら、今晩で食べてしまうかもしれません」

「……お腹を壊さない程度にしような。明日も海やプールで遊ぶんだろう?」

「そうですね。気をつけます」

 部屋に戻って電気を点けようとしたとき、

 ――ドーン!

 という音が聞こえ、窓の方からカラフルな光が。

「花火でしょうかね」

「多分、そうだろうな。バルコニーに出てみようか」

「はい!」

 夏といったら花火だよな。昔、家族で旅行に行ったときも、夏休みだからって旅館主催のミニ花火大会をやっていたな。

 バルコニーに出ると再び大きな花火が。部屋の中から見るよりも、外に出て見る方がやっぱりいいな。

 海沿いということもあってか、夜になるとちょっと涼しいんだな。潮風が気持ちいい。

「うわあ、綺麗ですね……」

「そうだな」

 スマートフォンで調べてみると、7月と8月の土日の夜は、ホテルのすぐ近くの海辺から花火を打ち上げることになっていたようだ。

「この時期の土日の夜は、花火を打ち上げることになっているようだ」

「そうだったんですか。直人先輩と一緒に見ることができてとても嬉しいです。一つ、素敵な思い出ができました」

「……そっか」

 花火を見ている彩花の横顔はとても綺麗だった。様々な色に光る花火によって、今まで見たことのない彩花の美しさを見ることができているような気がする。俺は花火よりも彩花の方に見とれてしまって、

「彩花……」

 彩花に口づけをしていた。

「せ、先輩! 突然でしたからビックリしちゃいました」

「花火を見ている彩花があまりにも綺麗で可愛かったから、つい……」

「ふふっ、直人先輩ったら」

 そう言うと、今度は彩花の方から口づけをしてくる。

「……なあ、彩花。浴室って広いんだよな」

「ええ、そうですけど……」

「……花火を見終わったらさ、今日は大浴場じゃなくて部屋の風呂に一緒に入らないか? それで、今日は……イチャイチャしよう」

 俺は彩花の手を握る。

 両隣の部屋とは仕切り板があるけれど、隙間もあるのでバルコニーに出ていたら、今の話を聞かれているかもしれない。それでも、今の彩花を見ていたら……どんどんと彼女のことを求めたくなったんだ。

「私はそれで構いませんけど、いいんですか?」

「せっかく、ふかふかの広いベッドがあるんだからさ」

「……分かりました。それにしても、先輩からイチャイチャを誘ってくれるなんて珍しいですね。これもプレ・ハネムーンの力なのでしょうか?」

「どうだろうな。でも、今日、色々とあったし、彩花が可愛いと思ったから……彩花のことを感じたくなったんだよ」

「ふふっ、他の男性が私のことを見ていたり、私が他の男性のことを見てしまったりしたときがあったからですか?」

「……そ、そ、そういうわけじゃない。まあ、不可抗力のときもあるからな」

 俺だって彩花以外の女性を見ていたり、彩花以外の女性から見られていたりしたときがあったからな。

「俺から離れるなよ、って言ったのはどこの誰ですか?」

「何を真似してるんだよ。ていうか、からかうなって言ったじゃないか……」

 俺から離れないでほしいというのは本音だけれど、声を真似てまでそのセリフを言われると凄く恥ずかしい。

 どうやら、彩花は俺をからかうことで楽しみを覚えてしまったようだ。

「ふふっ、だって凄く素敵だったんですもん。真似したくなっちゃいますよ」

「……そうかい」

 今後、何かあったときにはその度に俺の真似をしてからかいそうだな。

「今夜はイチャイチャしましょうね」

「はいはい」

「……今夜は寝かせませんよ」

 彩花はちょっと格好付けた表情をしながらそう言った。

「きちんと寝るつもりだよ。そうじゃないと旅行をたっぷりと楽しめないだろう? 何をするにしても健康第一だ」

「直人先輩の言うとおりですけど、先輩ったら現実的すぎです。そこは俺も今夜だけは絶対に寝かせるつもりはないぜ、くらい言ってほしかったです」

「……彩花はロマンチストだな」

 実のところ、海やプールでたくさん遊んで、夕ご飯をたくさん食べたからか結構眠気が襲ってきているんだ。花火の大きな音で若干飛んだくらいで。

 でも、彩花と旅行することはなかなかないので、たくさん眠ってしまうのがもったいないという気持ちもある。

 俺は彩花の頬に手を添えて、

「寝るかどうかは、彩花のイチャイチャ次第かな?」

「そうですか、分かりました。でも、今は花火をゆっくりと見ましょう」

「そうだな」

「たーまやー!」

 確かに花火大会であるし、その掛け声も合っているけれど、ホテルのバルコニーから言うのはちょっと恥ずかしいな。でも、花火の音で周りには聞こえないからいいのかな。

「せーんぱーい!」

「それは違うだろ……」

 恥ずかしいな。ただ、言っている本人は何とも思っていない気がする。その証拠に、とっても楽しそうな笑顔をして花火を見ている。

 俺は彩花の手をそっと握って、彼女のすぐ隣で花火を見るのであった。

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