第58話『告白』

 ――彩花のことが好きです。俺と恋人として付き合ってください。


 それが俺の出した答えだった。

 彩花の手をそっと掴んで彼女のことを見ると、彩花は目を潤ませながらもとても嬉しそうな表情をしていた。


「直人先輩に初めて好きだと言ったそのときから、ずっと待っていました。直人先輩、これから恋人としてよろしくお願いします」


 可愛らしい笑みを浮かべながらも、彩花は大粒の涙をボロボロとこぼす。


「どうして、私を選んでくれたんですか? 直人先輩のことが好きな人は渚先輩や広瀬先輩、椎名さんみたいに魅力的な人はたくさんいるのに。それに、私はみなさんの中では直人先輩と出会ったのが一番遅いんですよ」

「確かに、出会ったのが一番遅い彩花ちゃんを選んだ理由には興味あるかな。一時期、一緒に住んでいた時期はあったけれど」

「そうだね。なおくんが彩花ちゃんを選んだ理由が知りたい」

「理由を聞いた方がスッキリできるわ」


 渚は爽やかな笑みを。

 美緒は優しげな笑みを。

 咲は……今にも泣き出しそうな顔を。

 フラれても、俺が彩花を選んだ理由を知りたいよな。それで気持ちの整理ができるかもしれないから話そう。


「正直言って、本当に迷ったよ。みんなのことは本当に好きだし。1人を選ぶことも凄く辛かった。彩花の言うとおり、みんなそれぞれの魅力もあって」


 甲乙付けがたいくらいに。だから、本当によく考えなきゃいけなかった。


「それに、みんなから色々と教わったんだ。渚からは例え一度負けても、頑張っていくことの大切さを。咲からはどんなことがあっても、想いを強く持ち続けることの大切さを。美緒からは優しく寄り添える優しさを。そして、彩花からは人を好きになることを。みんなから色んなことを教わった」


 俺は色々な人から色々なことを教わった。それも答えを見つけていく一つの要素として考えていった。


「そんなことを思いながら、色々と考えていったときに、ふと、誰と一緒なら俺は互いに幸せになって、愛し抜けるのかなって思ったんだ。そう思ったときに、彩花の笑顔が最初に浮かんだんだ」

「私の笑顔……ですか?」

「ああ、そうだよ」


 悔しいけれど、決め手となったのは父さんと同じで勘だった。誰となら一緒に幸せになれる自信があるのか。愛し抜けるのか。それを考えたときに、彩花なら大丈夫だって思えたんだ。


「だけど、渚だって、咲だって、美緒だって。みんなとだって一緒に歩めるんじゃないかって思ったんだ。何度も何度も考えたけれど、やっぱり彩花が一番だっていう思いは一度も変わらなかった。色々とあったけれど、彩花と一緒に住んでいるときは楽しかったし、これからもずっと一緒にいたいと強く思って。だから、彩花と付き合おうって決断したんだ」

「誰とも付き合わないとは考えなかったんですか?」

「……それは考えなかったな。誰かと付き合うってことばかり考えてた。この4人以外と付き合うことはあり得ないっていう答えはすぐに出たかな」


 俺がそう言うと、渚、咲、美緒は頬を真っ赤にしながら微笑んでいる。さっきは泣きそうだった咲も何だか嬉しそうだった。


「そういう理由で彩花ちゃんが選ばれたんだったら、私は納得だよ。選ばれなかった悔しさはあるけれど、彩花ちゃんならきっと直人といいカップルになれる気がする」


 渚はいつも通りの爽やかな笑みを浮かべながら、そうはっきりと言った。


「そうね。悔しい気持ちはあるけれど、宮原さんなら直人と幸せになれるんじゃないかしら。まあ、あたしは一応、元カノだからね。直人との付き合った時間は僅かにあったから、それをこれからも大切にしていくわ」

「ふふっ、咲ちゃん強がっちゃって。私、なおくんと一番長くいたのになぁ。でも、なおくんの今の話を聞いて、何だかスッキリしてる。きっと、なおくんと彩花ちゃんが素敵な関係になれるって信じているからだと思う」


 咲も美緒もみんな笑顔だった。きっと、悔しくて、悲しくて、泣き出したいかもしれない。今まで俺のことを想い続けて、俺からの返事がなかなかなくて。待った結果が彩花と付き合うことなのに。3人は笑顔だった。本当に強い人たちだ。


「みなさん、私……直人先輩と幸せになります。そして、またこれからも……宜しくお願いします。特に渚先輩は」

「あははっ、そうだね。彩花ちゃん、これからも女バスのサポートを続けてくれるんだったよね。これからも変わらずよろしくね」


 彩花、これからも女バスのサポートを続けていくのか。6月から女バスのサポートを始めたけれど、彩花の気配りは絶妙だからな。インターハイ優勝の一因は彩花がサポートしたことだと思う。


「直人はどうする? 女バスのサポートをまたしていく? それとも、剣道を再開して来年のインターハイを目指す?」


 今まで剣道ができなかったのは唯への罪悪感があったから。でも、唯のことに向き合い、御子柴さんと剣を交わす約束もあるし。剣道を再開しようか迷っている。女バスのサポートもとてもやりがいがあっていいし。


「……ちょっと考えさせる時間をくれ」

「うん、分かった」


 剣道を再開するかどうかは問わず、今度、実家に戻ったら、竹刀を探しておこう。


「さて、あとは2人きりの時間にした方がいいんじゃない? あたし達3人はもうちょっとルピナスの花を見ていくけれど」

「ど、どうしようか、彩花」


 咲の提案を聞いて、俺が彩花にそう問いかける。すると、


「2人きりになりなよ。……ううん、なってよ」


 渚が涙を浮かべながら、震えた声でそう言う。


「早くいなくならないと、私……気持ちが収まらないんだよ。涙が止まらないんだよ。こんな姿、2人に見られたくないのに……」


 3人の中で一番強そうで、ずっと笑顔だった渚は涙をボロボロとこぼす。これ以上、笑顔で本心を隠すことはできなかったんだろう。

彩花は俺の着るYシャツの裾を掴んで、


「咲さんや渚先輩のお言葉に甘えたいです。直人先輩と2人の時間を過ごしたいです」

「……分かった。俺と彩花はここで」


 2人きりになることを伝えると渚は右腕で涙を拭って、


「絶対に2人で幸せになりなさいよ! 私を振ったんだから、幸せにならないと絶対に許さないんだからっ!」


 叫ぶようにして放たれた渚の言葉は、俺と彩花に対する嫉妬や激励……全ての気持ちが詰まっているように思えた。その気持ちは咲や美緒の伝えたい気持ちも代弁しているようにも感じたのだ。


「……もちろんだ。俺は彩花と一緒に幸せになる。それを約束するよ」

「みなさんに直人先輩と付き合って良かったと思っていただけるように頑張ります」


 俺と彩花が思いの丈を口にすると、渚はにっこりと笑って、


「分かった。……私、直人に恋することができて、とても幸せだよ。ありがとね、直人」


 渚にそう言われて、俺は渚、咲、美緒と過ごした日々を思い返す。

 決して笑顔ばかりではなかった。けれど、そうした時間を過ごしたことに渚が幸せだったと言ってくれたことに俺は幸せを感じていた。


「俺こそありがとう。そして、これからもよろしく」

「……うん、よろしくね」

「じゃあ、俺と彩花はこれで」


 俺は彩花と手を繋いで、渚、咲、美緒のもとから離れる。2人の時間を過ごしたい彩花の希望に応えるため、ちょっと早歩きで。


「まさか、先輩と一緒にここに来ることができるとは思いませんでした」

「彩花、ルピナスの花が大好きだって言ってたし」

「あっ、も、もしかして……私がルピナスの花が好きだから、ここで告白しようと思ったんですか?」

「……まあな」


 ちょっとかっこつけたかったんだよ。告白するんだったら、彩花の好きな場所で告白したかったんだ。

 すると、彩花は急に立ち止まった。

「どうしたんだ、彩花」

 彩花は俺のことを見つめて、にっこりと笑う。


「本当に直人先輩はかっこよくて、素敵な方です。これからずっと側にいてくださいね」


 そう言うと、彩花は背伸びをして口づけをしてきた。彩花と口づけをするのは久しぶりだと思う。記憶が戻ってからは初めてかもしれない。


「あの、直人先輩。これからどうします? 花畑を出たら……」

「決まっているだろ。これまでと同じように、一緒に俺達の家に帰ろう」

「……はい!」


 そう、これまでと同じように。一緒に帰るんだ。ただ、今までと違うのは、俺達が恋人という関係になったということかな。

 売店でルピナスの花を買って、俺と彩花は一緒に家に帰るのであった。

 久しぶりに、俺と彩花が一緒に住んでいる家に。

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