第46話『再決戦-Last Quarter-』

 第3クォーター。広瀬さん中心の攻撃に変わっていたけれど、緩急のあるプレーで予測のつかない試合運びが多いことが多かった。そのことで、金崎に逆転を許してしまう結果になってしまった。

 けれど、その差は4点差。十分に逆転できる範囲だ。


「凄いですね、金崎高校は。広瀬先輩中心の攻撃プレーなのに、私達が迷ってしまうほどの絶妙なパスワーク」

「そうだね、彩花ちゃん。おそらく、さっきのハーフタイムで考えてきたんじゃないかな。従来の広瀬さん中心の攻撃はしてくるけれど、私達の動きを崩すために周りの選手にも適度にパスを回す。それをしっかりとやってきたんだから、金崎高校の実力の凄いって分かるよ」


 それに、第3クォーターの最初の金崎高校の得点。予選の時に、広瀬さんから決勝点を奪われたときと同じ形だった。それを決められてしまったことがとても悔しい。


「吉岡先輩、最後……どうしましょうか。このまま攻めていきますか?」

「……どうしようかな」


 バスケットボールはチームで行なうスポーツだ。だから、チームプレーを基本として月原というチームを作り上げ、強くなってきた。そして、ここまで勝ってきた。

 でも、金崎のように変化をしていきながらも、チームプレーをしていく必要がある。今の私達にできる変化とは、何なのか――。


「あの、吉岡先輩。私、考えていたことがあるんですけど……」

「何かな、すずちゃん」

「最後は吉岡先輩中心で攻撃していくのがいいんじゃないかって思うのですが」

「えっ?」

「前から、部長や香奈ちゃんとたまに話していたんです。金崎と戦うなら、吉岡先輩中心で攻撃していくことが必要なんじゃないかって」

「正直言って、広瀬さんと渡り合えるのは渚しかいないと思っている。広瀬さんがああやって本気を出してきた今、最終クォーターは渚中心の攻撃でいきたいと思うんだけれど、どうかな」


 確かに、チームプレーを重視して、私はポイントガードやスモールフォワードでチーム全体を支えていく立場になることが多かった。私中心の攻撃というのは、実はあまりやったことのないプレースタイルなんだ。


「あまりやったことがない形だけれど、だからこそ金崎にとっては脅威になると思うんだ。それに、渚なら絶対に任せられるってチーム全体が信頼している。いざとなったら、私達が全力でサポートする。だから、最後……渚、思いっきり攻撃していかないか?」


 部長の温かな言葉。

 彩花ちゃんや真由ちゃんを含めたチームみんなの笑顔。

 正直、迷いはあったけれど、やらないで後悔するくらいなら、思い切りやって負けた方がいい。


「……いや、負けた方がいいわけがない。絶対に勝つんだ。金崎高校に勝ってインターハイを優勝するんだ!」


 色々な人のおかげで、月原は決勝戦の舞台まで辿り着いたんだ。

「直人……」

 直人は真剣な表情をして、こちらの方を見ている。

 そうだよ、直人にはたくさん迷惑をかけてきて、たくさん助けてもらったんだ。色々と悩み、苦しんでいる直人を元気にしたいんだ。


「分かりました。最終クォーター、私中心に攻撃していきましょう。みんな、サポートをお願いします」

「了解です、吉岡先輩!」

「みんなで優勝を掴み取りましょう!」

「任せたぞ、渚。そして、私達を頼りまくってくれ」


 どんな形でも、心さえ一つになっていれば、それはもうチームプレーなんだ。だから、最後は私が中心、というチームプレーで金崎高校に勝利してみせる。


「渚先輩、頑張ってください」

「頑張ってください!」

「任せて、彩花ちゃん、真由ちゃん。優勝、掴んでみせるから」

 2人も一緒にここまで戦ってきたんだ。私達は円陣を組む。


「最終クォーター、絶対に逆転して優勝するぞ!」

『おー!』


 今一度、気持ちを一つにする。


「間もなく最終クォーターを始めます! 出場する選手のみなさんはコートに入ってきてください!」


 審判の案内に従い、私達はコートに入り、それぞれのポジションにつく。

 金崎の選手はみんな凄い表情だ。もちろん、広瀬さんも含めて。


「吉岡さん、これで最後ね」

「そうだね。だから、絶対に逆転して優勝してみせる」

「そうはさせない。絶対に逆転を阻止する」


 金崎の方ももちろん、優勝に向かって気持ちを引き締めてきているみたいだ。金崎のメンバーの表情が凄い。

 そして、最終クォーターが始まる。


「さあ、みんなで優勝するわよ!」

『おー!』


 相変わらず、金崎高校のこの掛け声には圧倒される。今の金崎高校のチームワークの良さを象徴している。

 けれど、こっちだって負けない。


「大いに暴れてやるよ、広瀬さん」


 広瀬さんには感謝しているよ。最終クォーター、どうやって攻撃していけばいいのか、第3クォーターの広瀬さんを参考にするつもりだから。

 私中心の月原の攻撃が始まる。


「吉岡先輩!」

「渚!」


 みんなから私にパスが回ってきて、相手を切り抜け、私がどんどんシュートを決めて点数を重ねていく。

 そして、ついに逆転することに成功した。


「なるほどね。第3クォーターのあたしってことか」


 広瀬さんとすれ違うとき、耳元でそう囁かれた。さすがに、広瀬さんなら分かっちゃうか。今の私が第3クォーターのあなたに重ねてプレーしていることを。

 月原の選手とすれ違うときに、


「全員で攻撃しよう」


 そう伝えておいた。きっと、このままだと防御が手厚くなって、入れられるシュートも入れられなくなる。

 その後、点差を広げようと思ったけれど、金崎の逆襲が始まり、広瀬さんを中心とした攻撃が繰り広げられる。ついには再逆転されてしまう。


 月原 78 – 80 金崎


 最終クォーターも残り1分。まずは追いつかないと!

 月原のボールでスタートする。


「先輩!」


 香奈ちゃんからパスを受け取り、ゴールの近くまでドリブルする。


「おっと、通させないよ」

「……広瀬さん」


 やっぱり、立ちはだかるのは広瀬さんか。こうなったら、

「すずちゃん!」

 フリーになっていたすずちゃんにパスを回し、


「先輩!」


 私への守備が手薄となったところで、すずちゃんからパスされる。

 こうなったら、もうあの技を決めるしかない!


「いけええっ!」


 ゴールにめがけジャンプをして、そのまま押し入れるようにシュートを決める。そう、ダンクシュートだ!


『うおおおおっ!』


 会場が更に盛り上がったな。準決勝で広瀬さんが決めたときのように。無我夢中でやったけれど、決めることができて良かった。初めてできたよ。


「凄いよ、渚! こんな場面でダンクを決めるなんて!」

「思い切ってやっちゃいました。でも、まだ同点です」


 そう、今のシュートで、


 月原 80 – 80 金崎


 同点に追いついただけだ。勝つためには更なる得点が必要。

 試合時間も残り30秒。もしかしたら、残りワンプレーになるかもしれない。必ず点数を決める意気込みでいかないと!

 金崎のボールでプレーは始まり、さっそく広瀬さんにパスが回る。一気に点数を決めていこうという考えなんだろう。


「そうはさせません!」


 すずちゃんが広瀬さんからボールを奪い、香奈ちゃんにパスが回る。そして、香奈ちゃんはドリブルで一気にゴール手前まで突き進む。


「渚先輩!」

「OK!」


 香奈ちゃんからボールを受け取ったところで、


「吉岡さん。絶対にゴールさせない」

「……最後の壁もやっぱり広瀬さんか」


 やっぱり、最後に私の前に立ちはだかるのは広瀬さんなのか。しかし、ここを突破してシュートを決めないと優勝はできない。

 残り時間はあと僅か。冷静に、ただし、すぐにどうするか決めないと。

 周りを確認すると、さっきと同じですずちゃんがフリーになっている。よし、それなら――。


「吉岡先輩!」

「分かった!」


 私はすずちゃんにボールをパスする素振りを見せて、


「最後は私が決めるんだ!」


 広瀬さんがすずちゃんの方に体が動こうとした一瞬の隙を見逃さずに、彼女を切り抜けて、レイアップシュート!

 私の手から放たれたボールはゴールネットに吸い込まれていった。

 その直後、試合終了のホイッスルが鳴り響いたのだ。



 月原 82 - 80 金崎



「……勝った。勝ったんだ!」


 勝ったのは私達・月原高校。予選では勝つことができなかった金崎高校に勝つことができたんだ。ついに、インターハイで優勝したんだ!

 場内は歓声に湧き、拍手が鳴り止まない。


「渚!」

「吉岡先輩!」

「優勝ですよ! 優勝!」


 チームのみんなで抱きしめ合い、インターハイ優勝の喜びを分かち合う。ようやく、優勝の実感が湧いてきて、不思議と体が軽くなった。


「……おめでとう、吉岡さん」


 広瀬さんは涙を流しながらも、笑顔でそう言い私と握手をした。そして、静かにコートから離れていった。

 私はすぐに観客席の方を見て、直人の顔を見る。

 すると、直人は椎名さんや美月ちゃんと一緒に立ち上がって、こちらに向かって涙を流しながら拍手を送っていた。


「おめでとう!」


 直人からの賞賛の声ははっきりと聞こえて、僅かな彼の笑顔を見ることができたのがとても嬉しかった。


「おめでとうございます! 渚先輩」

「……みんなで掴んだ優勝だよ。彩花ちゃんや、真由ちゃん、そして……直人と一緒に掴んだものなんだと思うよ。だから、ありがとう」

「はい!」


 そう、これはみんなで掴み取ったものなんだ。インターハイ優勝という最高のものを最高の仲間と一緒に。

 私は彩花ちゃんや真由ちゃんとも抱きしめ合った。2人のサポートにとても助かる場面がたくさんあった。特に彩花ちゃんには。もしかしたら、彩花ちゃんに一番お世話になったかもしれない。直人のこともあるからか、その想いはとても強い。

 こうして、2目の夏の大会はインターハイ優勝という最高の形で終わるのであった。

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