第39話『再決戦の舞台へ』
月原高校と金崎高校。
優勝候補と言われている両校は順調に勝ち進んでゆく。
月原高校は定評のあったチームワークをさらに強化し、多彩なプレーで相手を翻弄。エースである渚ちゃん以外のも『小さな巨人』と言われている桐明さんや、いつの間にか『冷静なスナイパー』と呼ばれるようになったすずちゃんにも注目が集まるように。柱となる選手が複数人いるのが最大の強みとなっている。
金崎高校はこれまでの「咲ちゃんのワンマンチーム」というイメージを覆すチームワークの強さを見せている。もちろん、エースの咲ちゃんを初めとした個々の強さは凄い。時にはチームで、時には個で攻める柔軟性と判断力の良さが最大の強み。
両校とも試合を重ねていく中でどんどんと強くなっていっているように見えた。毎日試合があって疲れが溜まっているはずなのに。特に渚ちゃんと咲ちゃんは毎日の試合をとても楽しんでいるから凄いなと思った。
8月2日、金曜日。
午後1時。私は彩花ちゃん、渚ちゃん、美月ちゃんと一緒に準決勝第2試合の金崎高校の試合を観ている。ちなみに、月原高校は準決勝第1試合で勝利をして決勝進出を決めている。
「残り1分。このまま行けば、金崎高校は勝利するね」
渚ちゃんの言うとおり、残り1分の段階で金崎高校は30点以上の差をつけている。勝利はほぼ見えている。
そんな状況でも、金崎高校は積極的に得点を重ねていく。そして、
「うおおおっ!」
「金髪の子、ダンクシュート決めたよ!」
「この場でダンクが観ることができるなんて!」
咲ちゃんの豪快なシュートに大歓声。隣にいる渚ちゃんも、
「広瀬さん凄いな! 私、ダンクなんて一度も決めたことないよ!」
咲ちゃんの今のプレーを観て大興奮。それはライバルとしてではなく、憧れの選手を観ているように見えた。
「あんなのを見せられると、広瀬さんへの対策をもっと考えていかないとなぁ」
「凄いですよね。私も思わず興奮してしまいました!」
「あたしも! 咲ちゃん、ピョーンって飛んでた!」
「広瀬さんはやっぱり凄い選手だよ」
彩花ちゃんまで興奮してる。
私達の周りに座っていた月原高校のメンバーを見てみるとみんな興奮している。確かに今のシュートは豪快で凄かったなぁ。
「今のシュートってかなり凄いの?」
こっそりと渚ちゃんに聞いてみると、
「物凄いに決まってるよ!」
興奮が冷めないのか、渚ちゃんから物凄く大きな声で言われる。ビックリした。
「女子でも物凄く背が高ければやる選手は観たことあるけれど、私とさほど変わらないくらいの背丈の広瀬さんがダンクをするのは考えられない。でも、跳躍力も凄かったし、1つの可能性を見せつけられた感じだよ」
「そうなんだ……」
普通ならできないと思われていたプレーが成功したってことなんだね。それは渚ちゃんを含めて会場中が盛り上がるのも頷ける。
会場が興奮した空気に包まれたまま、試合は終了した。金崎高校が勝利し、決勝進出を決めた。
『明日の決勝戦は、私立月原高等学校と私立金崎高等学校による対戦に決定しました。試合開始予定時刻は午前10時となります』
そのアナウンスを聞いて、ついにこのインターハイで月原高校と金崎高校の試合が実現することを実感する。しかも、予選と同じ優勝決定戦で。
試合を終えた咲ちゃんは私達の方に大きく手を振っている。咲ちゃんに流れる汗がとても眩しい。
「咲ちゃん! 決勝進出おめでとう!」
「ありがとう! 美緒! みんなも応援ありがとね!」
咲ちゃん、両手を大きく振りながら凄く喜んでいる。その笑顔のまま、他のメンバーと一緒にコートから姿を消した。
「よし、これで舞台は整ったな」
渚ちゃんは漲った表情でそう言った。
「ついに、金崎高校と試合ができますね」
「そうだね、彩花ちゃん。インターハイの決勝戦の相手として申し分ないよ。あと、予選で負けた借りを返すチャンスが巡ってきたんだ」
「明日の試合、絶対に勝ちましょうね! 吉岡先輩」
「予選で負けた悔しさを明日、必ず晴らしましょう!」
桐明さんとすずちゃんも明日の金崎との決勝戦に向け、今からやる気になっている。予選で負けた悔しさもあってか、試合に勝ちたい気持ちはこれまで以上に強いと思う。
「渚ちゃん、桐明さん、すずちゃん……みんな頑張ってね。彩花ちゃんも」
「ありがとう、椎名さん」
金崎高校も応援しているけれど、月原高校に優勝して欲しい気持ちもある。優勝候補と言われていたくらいだし、決勝戦で戦うかもなぁと思っていたくらいだった。けれど、まさか本当にそれが実現するなんて。
「夢にも思わなかったよ。渚ちゃんと咲ちゃんが戦う姿を見られるなんて」
「私も、こんなに早く金崎と再戦できる機会が来るとは思わなかったよ。でも、金崎なら絶対に勝ち上がって、決勝戦まで来ると思ってた」
「そっか」
「決勝戦の相手が決まったから、さっそく学校に戻ってミーティングしないと。明日の金崎高校との試合の作戦を練ったり、参加選手を決めたり……しっかりと決めるべきことを決めていかないとね」
「そうなんだ」
決勝戦に進出した喜びにはいつまでも浸ってはいられないか。
きっと、金崎高校の方も明日の決勝戦に向けてミーティングがあるだろうから、今から咲ちゃんのところに行ってもまともには話せないかな。
「じゃあ、決勝進出の報告がてらなおくんのお見舞いに行こうか、美月ちゃん」
「そうだね。明日の決勝戦、お兄ちゃんを誘ってみようよ」
「うん」
今日の準決勝まで、なおくんは体調があまり優れないと言って、私達の誘いをやんわりと断っている。ただ、明日の決勝戦はできればなおくんと一緒に会場で見たい。決勝戦の模様はテレビで放送するらしいけど。
「じゃあ、私と美月ちゃんはなおくんのところに行ってくるね。明日、試合に来てくれるかどうか訊いてみるよ」
「うん、分かった」
「それでは、また明日です」
私と美月ちゃんは試合の余韻が残る会場を後にし、なおくんのお見舞いに行くのであった。
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