第24話『ナイトメア』
「面! めーん!」
剣道場で、唯は1人で素振りをしている。
体操着姿の唯の首筋には汗が流れる。その汗は外から入ってくる夏の日差しで煌めいている。唯は誰よりも早く部室に行って、自己練習していたなぁ。
「……あっ、直人。来てたんだ」
「ああ。唯は今日も自主練か?」
「うん。あたしはまだまだみんなより下手だから、みんなよりも練習しないと」
「そんなこと……ないと思うけれど。大会でも結構いいところまで行ってたじゃないか」
「それでも、直人や笠間君には敵わないし……もっと強くなりたいんだ」
「……そうか」
唯は素振りを再開する。その時の彼女の表情は真剣そのものだった。
男子である俺や笠間には及ばない部分はあるけども、女子の中では一二を争うほどの強さだと思っている。
「ねえ、直人。あたしと一緒に……練習に付き合ってくれないかな」
「いいけれど、どんな感じで練習しようか」
「……あたしと剣を交わして欲しい」
剣を交わす……それはつい最近、聞いた言葉だ。
「できないわけないよね」
そう言う唯の目つきはとても鋭いものになっている。
「……直人。あたし、全部知ってるんだよ。あたしが死んだのに、他の女の子と一緒に剣道をする気なんだ」
「そ、それは……」
今、俺の目の前に立っている唯は、唯じゃないのか? あの夏の俺の知っている彼女じゃないのか?
「あたしから剣道を奪ったのに、今さら……直人に剣道を楽しむ資格なんてないんだよ。ううん、あたしが絶対に楽しませない」
「けれど、御子柴さんと……」
「それは彼女のわがままでしょう? 直人がそれに付き合う必要なんてないの。そんなに剣道がしたいなら、天国で私と一緒にすればいいよ」
すると、唯は竹刀を手から離し、体操着のポケットからナイフを取り出す。
「突きいいい!」
唯がそう掛け声を叫んだときにはもう、逃げる暇なんてなかった。
俺に迫ってくる唯の笑みは狂気に満ちていた――。
*****
「うわああっ!」
見えているのは、月灯りでぼんやりと見えている病室の天井。
「夢、だったのか……」
途中までは本当にあったことだけど、剣を交わすと唯が言ったところから、今の俺が抱いている彼女への罪悪感を映し出しているようだった。
「……本当のところ、唯は天国で今の俺のことをどう思っているんだろう」
夢に出てきたように、俺が剣道をすることに嫌悪感を抱いているのか。絶対に分からないこそ知りたい。絶対に教えてもらえないからこそ、教えてほしい。
息苦しくて。
身が震えるほどに寒くて。
眠ることがとても怖くて。
未だに俺は2年前の事件に囚われている。だから、こんな夢まで見てしまうんだ。本当にあの日の出来事も夢だったらいいのに。それを何度思ったことだろうか。
眠れない夜はとても長く思えた。夜が明けても眠れなかったのであった。
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