第4話『告白の告白』

 なおくんが泣き止むまでずっと側にいた。

 落ち着いたところでなおくんから1人にしてほしいと言われたので、私はリビングに戻る。


「美緒ちゃん、どうだった?」

「美月ちゃんの言うとおり、穏やかなんだけれど、何かあるとそれを自分のせいだと思っちゃうみたいだね。そうなると、負の感情がループしちゃう感じかな。話の流れで自分が悪いと思っちゃって、ずっと泣いてた」


 私にとっては小さなことや、今はもう大丈夫なことであっても、なおくんに罪悪感が生まれてしまう。それさえなければ、傷付くことなく幸せな時間をより多く過ごせたのではないかと。


「そうだったんだ。お兄ちゃん、時々……何かを思い出しているのか、突然泣き出すときがあるから。そのときもきっと、罪悪感に苛まれているんだろうね」

「……特に好きな気持ちに関しては敏感みたい。どうして、私がここに来たのか訊かれて。笠間君のことが好きじゃなかったのかって言われて、それで……」


 話の流れとはいえ、なおくんに告白をして、口づけまでしてしまった。今でも思い出すと体が熱くなってくる。


「どうしたの? 顔を赤くして」

「あっ、えっと……その……好きって告白して、口づけしたの……」


 事実を伝えているだけなんだけれど、本当に恥ずかしい。美月ちゃんだけならまだしもひかりさんもいるから。


「あらあら、ようやくって感じね。お母さんはずっと前から気付いていたけれど」

「笠間さんが好きなんじゃないかっていう話の方が驚いたくらいだよ」

「そうねぇ。昔から、美緒ちゃんは直人一筋って感じだったもんね、ずっと」

「そうですか……」


 驚かれたり、からかわれたりすると思ったんだけれど。ひかりさんと美月ちゃんには私がなおくんに恋をしていることを気付かれていたんだ。

 もしかして、なおくんのことが好きってこと、みんなに気付かれているのかな。笠間君もずっと前から分かっていた感じだったし。


「何であれ、好きな気持ちを伝えられて良かったと思うけどな、私は」

「……そうかな。私には告白されることが何よりも怖いように見えたけれど。だから、なおくんが落ち着いたときに告白しようと思っていたんだ」


 なおくんは紅林さんという女の子に付き合うかどうか判断を迫られ、断った際に自分の目の前で自殺を図った。そんなショッキングな状況を目の当たりにしてしまったら、好意を向けられること自体がとても恐いんじゃないかって。唯ちゃんのことがあっても、何とか感情をコントロールできていたけれど、紅林さんのことでハンドルが壊れてしまいコントロール不能になってしまった感じ。


「なおくんは私の気持ちに気付けなくて、ごめんって言ったの。なおくんの泣いている姿を見たら、流れでも告白したのは間違っていたんじゃないかと思って……」


 私自身も罪悪感に苛まれてきた。

 なおくんを救って、一緒に幸せになる。

 決意をすることは容易いけれど、それを実現することが難しいということを初日から痛感している。私の決意は軽かったんじゃないかと思ってしまうくらいに。


「何で、告白しちゃったんだろう」


 なおくんを苦しませて、泣かせてしまった。そんな想いをさせないために、彼に寄り添おうと決めていたのに。本当に、不器用だ。


「私は、直人に好きだって告白して良かったと思うけれどね」


 ひかりさんが私の頭を優しく撫でてくれる。


「気持ちを伝えることができないことが一番辛いと思うわ。それに、好きっていう素敵な気持ちを伝えることが悪いわけないじゃない。きっと、美緒ちゃんの気持ちは直人に届いている。美緒ちゃんの温かい気持ちが、直人の心を少しでも良くしてくれる。そう……信じよう?」

「ひかりさん……」

「私達にできることをやっていきましょう。そして、直人を信じましょう。そうすれば直人はきっとまた、元気になると思うから」


 そう言うひかりさんの笑みは、決して私を元気にさせるために笑顔を見せているのではないと分かった。なおくんのことを信じているから、笑っていられるんだ。これが親の強さなのかな。


「これまで、私が何とかするってことばかり考えていて、なおくんのことを全然考えることができてなかったのかもしれません」


 好きだという気持ちを伝えたら、なおくんを追い詰めてしまうに違いない。それは私の勝手な憶測であって、本当はどうなるか分からない。

 私はなおくんのことを信じることができていなかったんだ。いかに、自分勝手に物事を考えていたのか、ひかりさんの言葉で思い知らされる。


「何を言っているの。美緒ちゃんは直人のことを考えて、ここに来たじゃない。美緒ちゃんは自分のできることをもうやっているの。きっと、直人は美緒ちゃんと一緒に過ごせることを嬉しく思っているわ」


 ひかりさんの優しく温かな言葉に、何も反応ができない。きっと、ひかりさんがこのような言葉をかけてくれているのは、私を信頼しているからだと思う。


「……ありがとうございます、ひかりさん」

「ふふっ、それは私達の方よ。ありがとう、美緒ちゃん」


 ひかりさんと美月ちゃんは笑顔を見せている。

 昔は家族と一緒にたくさん笑っているなおくんの場面をたくさん見てきた。また、なおくんが笑顔になれるように頑張っていきたい。なおくんの気持ちに寄り添いながら。


「彩花ちゃんも、渚ちゃんも、咲ちゃんも……みんな、直人がまた元気になるって信じてるわ。直人は……強い子よ」

「……そうですね」


 なおくんが優しくて強い男の子だってことは、誰よりも知っているつもり。そうだよ、なおくんのことを信じないでどうするの。


「ふふっ、美緒ちゃん、元気になってきたわね。じゃあ、愛しの直人のために夕ご飯は頑張って作らないとね」

「愛しのって……」

「ふふっ、顔を真っ赤にしちゃって。若いわねぇ。お母さんも、若い頃はお父さんと一緒にいるとそんな風になっちゃうときがあったわぁ」


 若いときの日々を思い出しているのか、ひかりさんの頬がほんのりと赤くなっていた。嬉しそうだからいいけれど。


「お父さんが恋しいのかなぁ」

「そうかもしれないね」


 月原市に暮らし始めてから半月ほど経っているそうだし。浩一さんのことが恋しくなっていてもおかしくはないかな。


「さあ、今夜は直人の好きな料理を作らないと」

「卵は足りますか?」

「大丈夫よ。午前中にセールの特売でたくさん買ってきたから」

「それなら大丈夫ですね」


 なおくんは卵料理が大好きだから。玉子焼きに茶碗蒸し、今の季節だとゴーヤチャンプルもありかな。デザートにはプリン。下ごしらえとか考えたら、今から始めないと夜に間に合わないかも。

「私も手伝います」

「あたしも!」

 私はひかりさんや美月ちゃんと一緒に夕ご飯を作り始める。なおくんが美味しそうに食べている姿を思い描きながら。

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