第28話『繋ぐ手』

 あれから俺達も警察に行くことになり事情聴取を受けた。

 特に俺は浅沼達を捕まえた張本人であり、茜さんのスマートフォンに浅沼との会話を録音する指示もしたため、色々と話させられた。

 浅沼をコテンパンにしたことについては注意を受けた。さっさと1発殴って気絶させれば、後は警察に任せてくれていいのにと言われた。



 午後8時。

 取り調べなどの一通りのことが終わり、ようやく月原警察署の外に出ると、エントランスには彩花、渚、茜さんがいた。俺のことをずっと待っていてくれたのか。

 彩花はやっぱり元気がなくて俯いているな。助けることはできたけど、浅沼に誘拐されたことで彩花の心にまた1つ深く傷跡を残したのだろう。


「直人……」

「ようやく終わった。再犯ってこともあって、浅沼達は1年前よりもずっと重い罪で起訴されるだろうって。前回よりもずっと長い期間、檻の中に入ってもらうことになるだろうってさ」

「そっか……」

「これでまずは一安心だな」


 渚や茜は安堵の表情を見せるけれど、彩花は俯いたまま表情も何一つ変わらない。


「倍以上に返せたんだね、ちゃんと」

「ああ。その代わり、コテンパンにし過ぎだって怒られたけどな」

「完膚なきまでにやってたもんね。終始、直人は浅沼よりも上だったよ。香奈ちゃんの言う通り、直人に比べれば浅沼は小さい人間だって思った」

「気持ちさえ強く持っていれば、例え相手がどんなに人を周りに従え、罵声を浴びせ、武器を持って殺すと脅しても絶対に屈しない。それを信じていただけだよ」


 それに、渚や茜さん、香奈さんや一ノ瀬さんなど彩花のクラスメイトの協力がなければ、俺は浅沼の思う壺だったかもしれない。俺1人では彩花を助け、浅沼達を逮捕することはできなかったかもしれない。

 今回のことを通じて、改めて人の大切さや重みを知った。あの時もこうして向き合うことができていれば、少しは変わっていたのかな。


「彩花のことを助けてくれてありがとう、藍沢君」

「俺は自分のやりたいことをしただけです。それに、茜さんの協力があったからこそ、浅沼を逮捕することだってできたんです」

「……そう言ってくれると嬉しいよ」


 茜さんは照れくさそうに笑った。


「あと、私のことも守ってくれてありがとう。浅沼はやっぱり私にも復讐しようとしていたからさ」

「茜さんさえいなければ、1年前の計画は成功していましたからね。浅沼が茜さんに殺意を持っているんじゃないかとは当初から考えていました」


 むしろ、茜さんを誘拐しないことが不思議に思ったくらいだ。まあそれも、強姦された彩花の姿を見せてから殺したいという浅沼の趣味嗜好によるものだったけれど。


「私はそろそろ帰るよ、藍沢君。彩花とはもちろん一緒に帰るんだろう?」

「そうですね。一緒に家に帰ります」

「そっか。藍沢君がいるなら安心できるよ。でも、次にまた彩花を悲しませるようなことをしたら、そのときは許さないからな」

「はい、覚悟しておきます」

「……彩花のこと、守ってやってくれ」


 そう言うと、茜さんは笑顔で手を振りながら立ち去っていった。


「私もそろそろ帰るね。直人が出てくるまで茜さんと一緒に宮原さんの側にいようって話だったし」

「色々とすまなかったな。ここ何日かは、渚に迷惑かけっぱなしで」

「全然気にしてないよ。理由は色々とあったけど、直人と一緒にいられたことは凄く嬉しかったから……」


 渚は一瞬俯いたけれど、


「浅沼達も逮捕できたし、宮原さんもこうして助かったんだから、直人は宮原さんの側にいてあげて。花畑で宮原さんに向かって一緒に帰ろうって言ったんだから。男なら有言実行しなきゃダメだよ!」


 とびきりの笑顔を俺達に見せ、元気な声でそう言った。


「じゃあ、またね!」


 渚はすぐさまに走り去ってしまった。まだまだお礼を言いたかったんだけどな。それはまた後日言うことにするか。

 これで彩花と2人きりか。ここで突っ立っていても何にもならないし、


「彩花、一緒に家へ帰ろう」


 俺は彩花の手を掴む。

 突然手を握られたからか、彩花は驚いた様子で俺のことを見たけれど、すぐに微笑みを見せてくれたのであった。

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