【巨大質量栄光弾】
我々の宇宙進出計画は冷戦を皮切りとして、今では少数の火星移住すらも実現した。
しかし、ここで過去の遺物がさらなる進展を妨害している。
地球を周回する大半の旧式人工衛星はデブリとなり、役目を失ったそれらはただの障害でしかない。
昨年度発生した初移民船のデブリ衝突事故を受け、国連宇宙開発・運輸委員会はデブリの収集計画を立てた。収集衛星は3機発射されることとなったが各大国の圧力により、それぞれ米、中、露が1機ずつ担当する事となった。
この作戦は大まかに3段階に分けられる。
1.各国発射台から3方向へ収集衛星を飛ばす
2.収集衛星が付近のデブリへ接近し、自機と接合を繰り返し、まるで惑星が成長するようにデブリや小惑星の塊を形成する。
3.回収を完了した衛星群はロケットエンジンにより第二宇宙速度まで加速、そのまま太陽重力圏まで移動し、太陽熱で焼却する。
これら計画はそれぞれの国に一任され、収集やロケット技術などは国ごとに異なり、全て非公開で進められた。
三国が共有するのは完成の期限と発射後の衝突回避のための飛翔ルート、そして発射日時のみであった。
研究と組み立ては大きな事故もなく順調に進み、規定日時には3国共に発射台へのロケット設置が完了した。
太平洋が昼になる時刻にカウントダウンが開始され、予定通りに同時発射が成功した。衛星群は第二段階へと問題なく移行し、3か月間の収集任務が始まった。
収集開始から2か月、EUと日本の観測衛星が収集衛星に異常を感知した。
三国全ての衛星から強力な放射線が検出されたのだ。日本及びEU諸国はそれぞれの発射国へ会見を求めたが、中国は宇宙線に晒された結果の数値であり、異常ではないと発表。アメリカは失敗の許されない計画の為、推進機関に核エネルギーを用いたが、核融合のため安全であるとした。ロシアは日本及びEUの衛星の旧式化を指摘した上で、経年劣化による観測ミスだと発表した。その上でそれぞれ外交官を通し、日・EUに対し、これらは我々の信頼を損ねる物であり、不安を煽るような発表は好ましくないと大きく圧力がかけられた。だが、EU・日本の研究チームは最悪の事態を考慮し、民間委託という形で解析を続けた。
第三段階への移行予定日まで残り1週間を切った時、解析の結果が纏められた。
どうやらあの放射線は衛星内部ある、何か膨大なエネルギーを消費するシステムを長期運用するための発電設備であるとされ。さらに、透過映像解析により内部にあるシステムは今各国が核ミサイルを運用する際に使用している着弾誘導機器に酷似しているとの事であった。
ここから求められる結論は、各国が地球外に放出する機関に手を加えた前代未聞の質量兵器であり。いつでも相手国はおろか、地球すら破壊する能力を持つ上、その性質は核ミサイルと異なり「迎撃不能かつ弾道を曲げることも出来ない」新世代の「きれいな大量虐殺兵器」であった。
この告発を受け、三国は互いに批判しあったが、それぞれ1発づつしか所有していないため、3すくみの状況が生まれた。関係は大きく悪化し、宇宙条約は破棄された。
それぞれ質量兵器の起動を妨害する軍事衛星が相次いで打ち上げられ、第二次冷戦が勃発した。各国の妨害電波により使用中の全観測衛星が使用不可能となった。だがこれが最悪の事態への引き金となるなど誰も思いもしなかった。太陽表面で大型フレアの予兆が起きるも、観測衛星の停止でどの国もその予測が出来なかったのだ。
巨大な太陽フレアは地球の磁気圏を大きく乱し、質量兵器の管理システムを停止させた。第一宇宙速度を保つためのエンジンが停止した3機は地球の重力に引かれながら、大気圏へと突入し始めた。断熱圧縮によって煌々と輝く「それ」は人類が今まで見てきた何よりも美しく。この世の終焉に相応しいものだった。
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