#029-第10話「軌道共鳴」

 ビキニ姿の三人は口を挟まなかった。


 俺はゆっくりと言葉を続けた。


「姉ちゃんへの気持ちを無理矢理切ってしまう事だって、不可能じゃないと思う。不可能じゃない、とは。でも」


 一度言葉を切って、一つ深呼吸をした。


「でも、そんなことしたら、多分俺の中に、一生、姉ちゃんへの想いがついてまわってしまう。それは、リオと結婚できたとしても、その後も永遠について回るかもしれない。そんなのは、俺はイヤだ」

「まさか、ハルくん」


 冴羅がカサカサの声を発した。


「そんなの、フェアじゃないよ!? アンフェアだよ!? だって、それじゃ先生があまりにもかわいそうだよ!?」


 冴羅の顔は濡れていた。それはプールの水のせいばかりではない。目が赤かった。

 

「お姉ちゃんもお姉ちゃんだよ! どうしてこうなるまで放っておいたの! こんなんじゃ、先生も、お姉ちゃんも、可哀想過ぎるじゃない。哀しすぎるじゃない!」

「私はちっとも苦痛なんかじゃないわ」


 リオはぴしゃりと言い切った。


「だって、ハルくんを心の底から信じているから」

「おめでたすぎるよ、お姉ちゃん。そんなの、何の確証もないじゃない」

「確証なんて要らないよ。私の目で見て、耳で聞いて、頭で考えて、私が信じると決めた。その結果、万が一にも裏切られたとしても、私は誰も恨まない」

「そんなの……私にはゆるせない」

「冴羅、ありがとう。でも、だいじょうぶ。大事な妹だからこそ、見ていて欲しい。この三角関係は、必ず冴羅が納得できる形で終わる。私にはわかってるんだから」


 冴羅の頭を撫でながらかなでられたリオの言葉には、一片の迷いもなかった。


 本当にリオは強く、迷わず、そして信じている。自分自身の描く未来を。そこにる、俺というどうしようもない男を。


「先生は。先生は何を得られるんですか? ハルくんも失って、お姉ちゃんに取られて、何が残るんですか?」

「違うのよ、冴羅ちゃん。あたしはね」


 不意に、姉は俺を見て微笑んだ。俺はそのあまりにも可憐な表情を受け止めきれず、胸まで水に浸かりながら、硬直する。


「あたしは、失わないために、今、こうしているんだよ」

「えっと……それはどういうことなんですか」

「緩やかに、気付かないくらいにゆっくりと、あたしとハルちゃんは離れていく。傷つけないギリギリの距離で、ギリギリの力で。そうすることで、あたしは、大好きな凛凰ちゃんと大切なハルちゃんがくっついても、なんとかの範囲にいられる気がするから」


 姉は静謐せいひつな口調で、そう言った。

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