#025-第3話「法律上の結婚できる年齢到達記念日」

「えと、それは」


 正直、そこまでは考えていなかった。大学には行こうと考えていたし、行くのならば一般家庭である我が大鷹家の場合は、予算的に国公立大学に限定される。そうなってくると我がT高校の方向性から考えると、天下のH大か、教員養成のHK大学ということになってくる。だが、T高校の学力レベルを考えると、現役合格は不可能ではないにしても、そこそこに難易度が高い話だった。最強のテスト軍師である姉の支援だって、その頃には受けられないと考えるのが妥当である。姉だって(どういう形であれ)社会人をやっているハズだからだ。


「お父さん、それはその時に考えるよ。私はHK大学が第一志望だけど、ハルくんはH大に行けるかもしれないし」

「そうかぁ」


 リオのフォローにも納得できていない様子のリオ父である。リオは軽く腕を組むと、少し語気を強めて言った。


「どっちにしても、私のために、ハルくんに妥協させたり我慢させたりはしたくないの。ハルくんが遠くの大学に行くならそれでも良い。私もついて行けるように頑張るだけだから」

「お姉ちゃん、かっこいい♡」

「でしょぉ?」


 冴羅とリオが掛け合いを演じている。その横で俺は、リオ母に寿司を勧められている。と、取りにくいな、この状況。


「ま、お父さん、その話はもうちょっと先の話にしようよ。今日は私の『法律上の結婚できる年齢到達記念日』なんだから」


 その瞬間、リオ父がビール(なぜかノンアルコールだ)を噴いた。


「さすがにそう露骨に言われると、なんかザワザワするなぁ」

「お父さん、自分で拭いてよぉ」


 冴羅がリオ父にタオルを手渡し、リオ父はとりあえずそれで眼鏡を拭いていた。


「いやー、悪い悪い。でも食べ物に被害はなかったよね。よかったよかった」


 リオ父はすぐに立ち直る。イケメンな上に精神的にもタフなようだ。どちらか片方だけでも見習いたい。


「まっ、確かにリオの言うとおりだな。この話は来年か再来年にしようか。今日はじゃんじゃん食べてくれよ。うち、男の子がいないから、どのくらい食べるものかわからなくて、とりあえず多めに用意したんだ」


 な、なるほど。そういうことですか、この分量は。少し引いた俺の耳に、リオ母からの心地よい声が届く。


「ということだから、ハルくん。いっぱい食べてね」

「ぜ、善処します……」

「たくさん食べる男性はかっこいいのよ」

「お母さんの言うとおり! ハルくん、男を見せてね♡」


 リオはドサクサに紛れて俺の肩を抱いてきた。ていうか、頬がくっついてますがな!


 焦りを取り繕うために、俺は慌ててオードブルに手を伸ばしたのだった。

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