#024-第3話「目の前にいる人」

「おっはよぅ、ハルくん!」


 背中をドンと叩かれて、俺は我に返った。振り返るとリオが俺を見て満面の笑みを浮べていた。


「おはよ、リオ。誕生日おめでとう」

「ありがとう! そして、ありがとう! そうそう! これでリオ、結婚できる年齢になりました!」

「俺はあと二年あるからね」

「そっかー……」


 リオは唇を尖らせた。


 今日のリオも可愛い。ベージュのTシャツ、白いオーバーオールと、それだけ見るとなんだかちょっとコドモっぽい衣装ではあった。だが、白いハットと、少しだけ厚底の白いサンダルで上下を固めていることで、全体的にはなんだかオトナっぽく見える。肩には白くて大き目のカバンをげていた。


「オシャレだね、リオ」

「へへん、気合入れた」


 リオはニコニコとしながらそう言い、俺の左腕を自分の右腕でがっちりとホールドしてきた。初めて腕を組まれた時には随分と挙動不審にもなったものだが、もう慣れた。むしろ離れていると物足りなく感じさえもする。うん、慣れって怖い。


「ハルくんのファッションは、うーん……無難?」

「無難で良かった」

「甘めでね」

「そこにきて辛口!」


 実に他愛もないやりとりである。が、俺にはこれが楽しくてしょうがない。


 そして俺たちは、ブラブラと街を歩き始める。目的地など特にない。土曜日ともなると、札幌駅から大通駅近郊は、かなり混雑する。ましてこの地下歩行空間はかなりの人口密度となる。今日は肌寒い天気も相俟って、普段なら地上を歩く人たちも地下に降りてきているようで、げんなりするほどの人の波が出来上がっていた。


 とりあえず目的地の確認でもしてみようかと、声をかけてみる。


「今日はアニメイトとか行くの?」

「鋭い! でも、惜しい! 今日はね、まんだらけに行きます」

「すすきのの?」

「そうそう、よく覚えてたね」


 「まんだらけ」は、観覧車のあるビルに入っていたはずだ。


「あ、でもアニメイトにも寄ろうかな」

「どこまでもお供します」

「うむ、ご苦労」


 リオは上機嫌で俺をぐいぐいと引っ張っていく。


「今日はね、服も見たいの。だから、ちょっと疲れると思うよぉ」

「リオはさ、アニメオタクだけどオシャレだよね」

「それはアニオタに対する偏見だよぉ。偏見ダメ絶対!」


 怒られてしまった。


「ネットとメディアの作り出したステレオタイプに誘導されてはいけないよ、ハルくん。君の目の前にいる人を信じるんだ!」

「ハ、ハイ!」


 目の前にいる人を信じる――か。


「さて、ハルくん。お願いがあるます」


 リオが俺の目をまっすぐに見つめて、そう言ってきた。

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