#024-第2話「普通の、恋愛」

 その時、スマホから、LINEメッセージの着信を知らせる音が響いた。


『おはよー! 今日はデートだぞ。起きてるかー?』


 俺は慌てて返事をする。


『もちろん。準備万端、後は家を出るだけだよ』

『おういえ! なれば、札幌駅で会おうぞ! 待ち合わせは十時だからね!』

『わかってますって(笑) じゃ、後でね』

『はーい♡』


 リオ、相変わらずテンション高いなぁ。そのリオの表情なんかを想像したりして、一人でワクワクし始める俺である。笑うな、純粋なんだと言ってくれ。


 俺は部屋を出て、階下の居間へと移動する。出かける前には、親に一言言っておく習慣がないではない。


 が、居間の空気は最悪に近い黒さだった。不機嫌そうな母と姉、無関心を装う父。それぞれがそれぞれを牽制しあっているような、そんなイヤな空気だった。


「今日、リオの誕生日だから、ちょっと出かけてくる」

 

 それだけ言うと、返事の確認もせずに玄関へと直行。靴紐を縛りなおし、「行ってきます」と外へ出た。


 外はひんやりと寒かった。そういえば昨日の予報だと、今日の最高気温は二十四度で、最低に至っては十八度前後と予想されていたな。天気自体は悪くないが、風が吹くと少々肌寒い。たぶん現在の気温は二十度そこそこなのだろう。いくら札幌とはいえ、まだ一応は夏だぞ、勘弁してくれ。


 それからバスに乗って、地下鉄に乗り継いで札幌駅まで行ったわけなのだが、その道中、俺の頭を支配していたのは「姉がシスターになるかもしれない」という情報だった。


 恋愛も結婚も禁止――。


 当然といえば当然なのだが、そんなのはあんまりだと思う。


 姉だって、もしかしたら普通の恋愛をしたいかもしれない。俺にはそれを止める権利はない。


 「シスターになる」なんていう突拍子もない発想にしても、俺の存在のせいで生まれたモノなのかもしれない。いや、きっと少なからず影響を与えているに違いない。


 だとしたら、俺は、俺が、姉から「恋愛」を奪ってしまうということになるのではないか。


 俺の中では二つの気持ちが鬩ぎ合っている。


 姉がまっとうな幸福を得ることを願う気持ち。そして、姉が俺のことをこれまで通りに愛してくれる事を願う気持ち、だ。後者がワガママすぎる欲望なのだということはよくわかっている。俺にはリオがいるのだから。でも……。

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