#021 ぼんやりと、少しずつ

#021-第1話「お義兄ちゃん♡」

 あの後のことは正直あんまりよく覚えていない。


 冴羅がすごく心配してくれたのは、なんとなく記憶に残っている。それだけ俺がやられているように見えたということだろう。俺、とことん情けないなぁ。


 とりあえず、休憩所でリオと冴羅の合作弁当を食べた。残念ながら、見た目も味も、記憶には残せなかった。それだけぼんやりしていたということだ。


 その後は近くの喫茶店に入って、カフェオレ一杯で三時間くらい過ごした。主に冴羅とリオが喋っていて、俺のことは基本的に放置しておいてくれた。でも、二人のアニメや小説の話を聞いているうちに、だんだんと気が紛れてきて、少しだけ俺にも余裕が生まれた。


 しかしながら、そのくらいの頃合で午後四時を回ってしまい、そのまま帰ることになったのだが。


「リオには、助けてもらいっぱなしだなぁ」


 地下鉄の車内で、俺は呟いた。車両はガラガラで、同じ車両には俺たち以外には五人しか乗っていなかった。なお、俺の右にはリオ、左には冴羅が座っていた。傍目には「両手に花」である。


「おやおや、妹の私がいるところでオノロケですか、お・に・い・ちゃん」


 多分、漢字を当てはめると「お義兄ちゃん」ということだろう。なんだか無性に気恥ずかしい。


「でもね、ハルくん。お姉ちゃんも、ハルくんには助けてもらってるんだと思うよ」

「うん?」

「冴羅、恥ずかしいからやめてくれない?」

「やだ」


 冴羅は「ふっふっふ」と不敵な笑みを漏らした。


「お姉ちゃん、すごく内気なんだよ、本当は」

「冴羅!」

「う、内気……?」


 それは意外だ。リオは誰とでも一瞬で打ち解ける特殊スペシャル能力スキルの持ち主だ。内気な人物にできる芸当ではない。


 冴羅は得意気に言葉を続けた。


「冬美先生の影響も大きいんだけど、中学入ってすぐくらいから、お姉ちゃんはすごく明るくなった。今思えば、ただの内気で陰気なアニオタ小学生だったんだけど、ハルくんのおかげで明るいアニオタになった」

「明るいアニオタ……」


 俺とリオの声が重なる。冴羅はまたニヤニヤと笑った。


「お姉ちゃんは元々すごく頭が良かったし、無難に人付き合いもできる人だったんだけど、友達を作ろうとはぜんぜんしてこなかったんだよ」

「そ、そうなの?」


 思わず訊いた俺に、リオはうなずいた。冴羅はそれを見届けてから、また口を開いた。


「それがハルくんと付き合い始めてから変わった。うちでも、学校であったこととか、友達の話題がたくさん出てくるようになった。お母さんなんか、信じられないって言ってたくらいなんだよ」

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