#019-第3話「ずっとしたかったんだもん」

 未来に思いを馳せていると、リオが肩をつついてきた。


「ハルくん、行こう」

「あ、うん。ごちそうさまでした。美味しかったです」

「あらぁ、いい子ね~♡」


 マダムの色気に眩暈めまいがしてきたところで、俺は鹿師村邸のリビングを後にした。リオの部屋は二階にあった。隣が冴羅の部屋だというから、その配置は我が家とあまり変わらない。


 リオの部屋は「白」を基調とした、明るさを感じる部屋だった。机の上には姉とのツーショット写真も飾られている。ていうか、写真でも美しいな、姉。ああ、いや、違う違う。今見るべきはそこじゃない。


 机の下にはタワー型のPCが鎮座させられており、机の上にはペンタブの姿もあった。教科書の類もきちんと整頓されて置かれている。


 振り返れば大きな本棚も置かれており、そこには漫画や小説、そして参考書の類がきちんと分類されて置かれていた。リオの几帳面な性格を垣間見ることができる。


「漫画は冴羅の部屋にもたくさんあるよ。あとはお父さんの書斎に置かせてもらってるのもあるんだ」

「そんなに?」

「うん。お父さんもお母さんも漫画大好きだからね。理解ある家で助かってるよ」

「へええ!」


 うちの両親は漫画や小説には全く興味がない。それどころか、なんとなく軽視されているような空気を感じることが間々ある。正直、リオのご両親が羨ましい。


「アニメ枠もお父さんがチェックしてるしね」

「そうなんだ!?」

「ハルくん、いい反応するねぇ!」

「いや、親ってそういうのに興味ないのがデフォだと思ってたから」

「まーね、うちの親は希少種だとは思うよ」


 リオはベッドの上に腰を下ろした。そして手招きしてくる。


 えっと、女子のベッドの上に座るというのは、大丈夫なんだろうか。


 そんなことを考える。


 ……何がどう「大丈夫」なのかは、俺にもよくわかっていない。


「はやくはやく♡」


 リオの周囲にハートマークが浮かんでいるような気がする。気のせいだろうか? 


 とにもかくにも、俺は意を決してリオの隣に座っ……。


 腰を下ろすなり、いきなりキスされてしまった。しかも深いヤツだった。


 驚きの急展開に目を見開いた俺を見て、リオはケタケタと笑い声を上げた。


「そんなにビックリしなくてもいいじゃない!」

「いやほら、そのさ」

「だって今日一日ずっとしたかったんだもん」


 その躊躇ちゅうちょも容赦もない言葉の選択に、俺の本能の方が反応しかける。やめなさい、鎮まりなさい、


 なんとか精神の平穏を保とうとしている俺に、リオは手を握るという追い討ちを仕掛けてくる。


 危うい、危ういぞ、


 いや待て――大丈夫だ。


 この家にはリオのお母さんがいる。


 大丈夫、俺のリミッターはそこで止まる。


 止まるはずだ。


 止まってくれ!

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