#019-第2話「ま♡」

「あれ、そういえば冴羅は?」

「ああ、友達と遊びに行ったわ。どうかした?」

「久しぶりにハルくんの顔見るかなぁ、と思ってて」

「春人さんは、凛凰の彼氏でしょ」

「そうだけど」


 柚子茶を隠し味にしたガトーショコラの美味さに感激している俺の横で、母娘がそんなライトな会話を交わしている。


「本当は高校に入ってからも冬美先生には家庭教師を続けてもらおうかと思ったんだけど」


 突然姉の話題になって、俺は慌てて紅茶を一口飲んだ。


「さすがに二人分は予算がねぇ」

「ちょっと、お母さん、その話今必要?」

「でも、冴羅のついでに凛凰の勉強を見てくれることもあって、本当に感謝しています」


 そうなんだ、という感想を抱く俺。気の利いた返しが思い浮かばない。


「春人さんは成績も優秀なんでしょう?」

「いやまぁ、そこそこ、でしょうか」


 適当に答える。そこにすかさずリオがフォローを入れてくる。


「ハルくんは私と同じくらいよ」

「まぁ」


 それはつまり、成績的には申し分ないと言ったのと同義である。それもこれも、テストの天才である我が姉のおかげである。参考までに言っておくと、クラスでも俺たちを安定して上回るのは、あの「彼女枠」大募集中の中林さんくらいだ。たとえちょっと変わっていても、さすがは学級委員である。恐らく来年か再来年には生徒会長でもやっているだろう。


 紅茶を飲んでから、リオが情報を付け足した。


「私が成績維持できてるのは、ハルくんのおかげなんだから」

「あらあら」

「いやー……リオが勉強にも付き合ってくれるから」

「勉強にも?」


 お母さんが鋭いツッコミを入れてくる。言葉に詰まる俺。


「お母さんってば!」

「若いっていいわね~♡」


 何を想像されたのか、少し怖いところである。リオは手を合わせて「ごちそうさま」と言ってから立ち上がり、俺の肩をつついた。


「ハルくん、私の部屋に行こうよ」

「え、うん? いいの?」

「せっかくきちんと片付けたんだから、見ていってよ」

「ま♡」


 お母さんは右手を頬に当てて、目を細めた。うう、なんか妙なプレッシャーが。


「お母さん、変な想像しないでよ!」

「し、してないわよぉ」


 お母さんは年齢不詳の美マダムである。これだけの雰囲気は、さすがの我が姉にもまだ出せていない。簡単に言うと、とても色っぽい。二十数年後のリオは、たぶんこんな感じになるのだろう。そんなことをうっかり想像してしまう。うむ、悪くない。むしろ、すごくイイ!


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