#017-第11話「嫉妬してる、から」

「ハルちゃん?」


 姉の呼びかけで、俺の思考は現在の時間軸へと引き戻された。


 俺の手を握っていたはずの姉の手が、いつの間にか俺の肩を包んでいた。両肩が、姉の白い掌に包まれていた。俺の動悸が激しくなる。


「キス、していい?」

「昼間から――!?」

「じゃ、夜ならしていい?」

「いや、そうじゃなくて……」

「でも、あたしの手、振り払わないんだ?」


 全てを見透かす姉の目は、正直怖かった。深淵を覗いている気分にもさせられるが、決して不愉快さも不安さも感じない。不思議な気分だった。いや、これは魅了チャームの魔術なのかもしれない。


「あたしね」


 俺を見据えたまま、姉は呟く。


「嫉妬してる。すごく。すごく」


 俺には何も言えない。


「ハルちゃん、そんなお姉ちゃんでも、好き?」

「うん」


 自然と即答していた。その瞬間、姉の唇が、俺の唇に触れた。しかし、すぐに離れていく。


「姉ちゃん……?」

「だめ、だよね」


 姉の表情が影に隠れる。その手が俺の肩から離れる。


 俺は落ちかけたその手を捕まえる。姉は目を見開いて俺を見た。俺は姉の両掌を握り、身体を乗り出してキスをした。触れる程度の口付け……のつもりだったのに、俺の舌はなぜか姉の唇を押し開いていた。姉は目を閉じて、俺を抱き締めて、ゆっくりと舌を絡めてきた。


 姉との初めてのディープキスだった。


 それは一分にも満たない時間だったと思う。


「ごめん」


 唇を離すと、俺と姉は同時に言った。姉は目を細めて、尋ねてきた。


「そのごめんは、凛凰ちゃんへのごめん?」

「……わからない」

「わかってなくないでしょ、ハルちゃん」


 見透かされている。観念した俺は、それでも曖昧に肯いた。


 この「ごめん」は、リオへの罪悪感と、姉への懺悔の念から生み出されたものだった。


「凛凰ちゃんとのキスを思い出しちゃった?」

「それは……」


 図星である。それ故の罪悪感と懺悔だった。


「今は、ちょっとだけ、忘れてほしいな。だってハルちゃん、あたしの彼氏、なんだよね?」


 姉はそう言うと、俺の頭を自分の方へと引き寄せ、キスをした。


 俺は逃げなかった。逃げるだなんて、これっぽっちも思い付かなかった。

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