#008 あたしが一生守ってあげるっ♡

#008-第1話「やっぱり、生えてる……」

 ネコミミ娘と遭遇した俺たちは、ともかく家へと車を飛ばし、家の中へと駆け込んだ。


 一も二もなく、玄関にある鏡を見る。


「やっぱり、生えてる……」


 抱いていたわずかな希望は、その瞬間にアッサリと打ち砕かれた。俺の頭には無駄に白いウサミミが燦然と輝いており、本来俺の耳のあるべき位置には、何食わぬ顔で髪の毛が生えていた。俺の後ろに立っている姉の視線は、俺のウサミミ周辺をふわふわと泳いでいた。


「そうだ……。ハルちゃん、イナちぃの声聞こえるんだよね?」

「あ、ああ。この時間なら……」

「何かわかるかもしれない!」


 姉に手を引かれながら(というより引きられながら)、居間にいるイナバウアーさんのところへと向かう。イナバウアーさんは俺の顔を見るなり、両手をクロスして立ち上がった。そして鼻をムフムフさせながら、例のダンディな声で語りかけてくる。


『よう、小僧、遅かったな。とりあえず、そこのカリカリスティックを取ってくれねぇか』


 俺は言われるがままにカリカリスティックを取り出して、イナバウアーさんに差し出す。


「ちょっと、カリカリスティックなんて後でいいでしょ!」

「あ、いや、ついクセで……」


 このダンディな声で頼まれたら、どうにも断れないんですよ、姉ちゃん。


『で、どうしたんだい、二人とも。そんなに鬼気迫る表情で』

「どうしたもこうしたもないですよ、イナバウアーさん」

「さん付け……」


 姉が俺の横で呟いた。だって、「さん」つけないと怒られるんだもん。


 姉はイナバウアーの額を人差し指で撫でながら言った。


「イナちぃ、ハルちゃんの頭を見て」

『おい、小僧。この娘は何を言ってるんだ?』


 どうやら姉の言葉はわからないらしい。


「俺の頭を見てください、イナバウアーさん」

『ふむ……』


 イナバウアーは両手を床につけた。そして、その見てるのか見てないのかよくわからない草食動物的な眼差しで、俺の頭を見た(のだと思う)。


『その耳は、恐らくフレミッシュジャイアントの耳だな』

「フレミッシュジャイアント?」


 聞きなれない単語に、俺は首を捻る。姉はバッグからスマホを取り出して、その単語を検索し始めた。すぐに検索結果が出る。


 姉のスマホの画面には、でっかい白いウサギの画像がたくさん表示されていた。それらは小学校にいたウサギたちによく似ていた。


『俺たちの種族の一つにフレミッシュジャイアントというのがいるそうだ。会った事はないがな。お前の親父さんが見ていたテレビ番組に出ていた』

「テレビで言ってることは理解できるんだ?」

『ニュアンスは分かるようになったが、具体的にはさっぱりだ』


 イナバウアーさんはおもむろに立ち上がり、自慢の短い耳を掃除し始めた。これが可愛い。実に可愛いのだ。


『人間の言葉はまだ半分程度しかわからねぇが、テレビに出てたウサギ自身がそう言っていた』

「テレパシーか何かか!」

「あの、ハルちゃん? どういう会話してるの?」


 お互いの唇がくっつきそうなほどの極至近距離で、姉は尋ねてきた。当然のようにキョドる俺である。姉は微笑みながら俺の頬を両手で挟むと、今度はおでこにキスをしてきた。姉の白い喉元に、自然と目が行く。そしてTシャツから覗く鎖骨にも。緩やかな胸のラインは……見えるような見えないような、そんな微妙なところだ。


「ね、姉ちゃんってば……!」

「んふ♡」


 姉は満足そうに息を吐きながら、微笑んだ。

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