#007-第2話「時速4冊!」

「ハルちゃんも読んでみたら? なかなか面白かったわよ」


 現役の文学部の学生である姉が、頬杖をつきながら言った。


「姉ちゃんも読んだの?」

「うん。凛凰ちゃんのお宅で。ちらちらっとだけどね」


 姉はなんせH大の文学部だ。書籍というものには強いのだろう。冴羅が言う。


「先生、本読むの速過ぎですよね。一冊十五分くらいでしたっけ」

「そうなの、姉ちゃん?」

「ラノベなら、そんなもん、かな? 学部の中には、あたしより速い人なんていっぱいいるわよ」


 姉は冷蔵庫から麦茶を取り出しながら答える。姉はグラスも四個持ってきて、俺たちに麦茶を注いで回ってくれた。


「さ、今日はもう十分勉強したし、明日の計画立てたら解散ね。家まで送るから安心してね」

「は、はい。ありがとうございます」


 リオは小さく頭を下げた。

 

 それから一時間ほど、俺たちは明日の勉強プランを考えた。計画的に進めてこそ、最大の効率が出るのだという姉の教えに則ったものだ。俺を含めてこの場の三人は、誰もが姉の「先生」ぶりを信頼していたし、その実績もあった。だから無条件で従うようになっていたのだ。


 姉は文学部とはいえ、理系教科にも強かった――それもそのはず、姉は高校のときは理系選択だったのだ。センター試験の数学でも、得点率は九割を超えていたというのだからやっぱり驚きである。


「さて、明日のプランはこんなもんでいいかな」


 俺は伸びをしながら、隣にいる天使ことリオを見た。リオもシャープペンシルを置きながら、俺の方を見た。


「明日も頑張ろうね、ハルくん」

「お、おう」


 天使に微笑まれ、俺は唾を飲み込んだ。向かいの席で、姉が軽く咳払いをした。その隣に座る冴羅は、ニヤニヤしながら俺たちを見ていた。姉は俺とリオが書いた学習計画の紙を受け取ると、目を細めて読んでいく。


「おっけ。いいんじゃない? 相談しながら書いたんじゃないかってくらい、シンクロしてるわよ♡」


 なんだと。


 俺は姉から紙を受け取ると、リオのと俺のを見比べる。


「ほんとだ」

「わぁ……偶然、だよね……?」


 九割以上一致。偶然にしては出来すぎではないかと、俺とリオは顔を見合わせた。リオは天使のような微笑ほほえみを、俺に向けてくれていた。


「これって、以心伝心ってヤツかしら?」


 姉はなぜか弾んだ口調で、そんなことを言ったのだった。

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