#001-第2話「食い込む布地、その色は、白」

 さて、と。


 状況を思い出そうと思案するが、何故だか全てがぼんやりとしていた。記憶の断片化が著しい上に、どれもこれもが劣化している……そんな感じだ。寝起きにしても思い出せないにもほどがある、という具合だ。


 俺の頭にが生えた事から物事が始まっているということだけは、確かだ。


 だが、今はもう頭の上には何もなかった。……予想通りだ。


 ええい、分かる所から整理しようか。


 とりあえず、俺に密着して眠っているこの女性、犬神いぬがみ万梨阿まりあ先輩は、美人だ。


 ほんのり茶色いロングヘアに、切れ長の目(今は閉じてるけど)、長い睫毛、小さめで整った形の鼻、そしてなまめかしいほど瑞々みずみずしい唇。輝くばかりの白い肌。これで耳が長ければ、まさにエルフ。否、ハイエルフである――なんとなく。


 そして鎖骨から肩甲骨に至るラインも、実にイイ。


 ……って肩甲骨ですか?


 ところで何故なにゆえこの万梨阿先輩は、肩甲骨が丸見えなお姿でお眠りになっていらっしゃるのですか?


 何故なにゆえ、俺に絡まっておられるのですか?


 しかも俺の布団で。


 ……せぬ。


 俺の大脳と脊髄とが、若干の混乱を来たす。


 そして。


 ところで。


 腹の上のこの圧迫感は、なに?


 万梨阿先輩のお美しいご尊顔(と肩甲骨)から視線を無理矢理引き剥がし、自分の腹部へと移動させる。


 そこには、程よく肉感的な二本の足が、ぱっくりと開かれた状態で転がっていた。当然、その延長上には足のというなかなかにロマンあふれるものが存在する。そしてそこには布きれが存在していた。(半分ばかり食い込んではいたが)燦然さんぜんと輝くその色は白だ。繰り返す。白である。


「重いな……」


 と言いながらも、一分近くはその白い布を凝視した。だが、その持ち主――具体的にはお尻だ――がぴくりと動いたのを見て、俺は我に返る。返らざるをえない。何故かは……男の事情を察してくれ。


「あらぁ♡ ハルちゃん……いけない子ねぇ、ふんふん……♡」

「ちょ、こら、姉ちゃん! だめだってば!」


 そう、お尻の肉に半分食い込んだ白い布切れの持ち主は、俺のである。男にまつわる数々の悲劇的な伝説を打ち立ててからは、見事ににクラスチェンジした二十四歳のOL(事務職)である。


 だがまぁ、俺と姉ちゃんには、ほんとうに色々あったんだ、ここに至るまで。それはおいおい説明していくので、気長に待っていて欲しい。


 あー……、せっかちな人は、ここから第七話(エピソード2)まで飛ばしてくれても構わない。構わないが、本当に、良いんだな?

 

「もうっ、ハルちゃんてば、乱暴なんだから♡」

「まだ酔っ払ってるでしょ、姉ちゃん!」


 その絶妙な重量感を持つしっとりなめらかな足をむんずと掴んで強引に引きずり落ろし、何とか視界を確保する。その際、うっかり、もとい、しっかりと太ももを触ってしまったが、これは不可抗力である。


 不可抗力……実に便利で甘美な表現ではないか。俺は大好きだ。


 で――。


 よかった、パジャマのズボンはそれなりにまだ穿いていた。一安心である。


 どうやら昨夜のあの混迷の中でも、俺の貞操までは奪われなかったようだ、と。


 あれ……?


 うーん……?


 やはり昨夜のことが鮮明にならない。が、代わりに意識の中にが浮かんできた気がする。あいつ、いたっけ……?


 と、とりあえず、現在に至った経緯を、今度こそきちんと確認しなくてはなるまい。


 俺は大きな溜息をひとついて、エロスなオーラを放っている姉の方を窺った。


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