第34章 椿百鬼夜行
第331話 戦国ガチャ姫 プロローグ
深夜――デンジャラス足利城内
「おのれ賊め、一体どこに行った……。貴様らはあっちを探せ!」
「「はっ!」」
殺気立った数人の侍が、手分けして城内に忍び込んだ侵入者を探す。
背中に『足』と書かれた和装にちょんまげ、腰に刀を挿した男たちが鶯張りの床を踏み鳴らす。
俺たちはその様子を、忍者のごとく天井に張り付いて伺っていた。
「咲、行ったぞ」
「あぁ、だが、もう少し待て」
「一人ずつ殺すか?」
「まだだ、まだ殺すな。ステイだ」
「そ、そんなことより、もうダメです。わたし腕が震え……」
天井の梁に手足を突っ張って、必死に落ちないように堪えているソフィー。内股になった脚がプルプルと震えている。
「耐えろ、もうちょっとだ」
「ムリムリムリ……背中のタヌキさんが重いんです」
ソフィーの背にはまるまる太ったタヌキが乗っかっている。俺とオリオンの背にも狐とタヌキが乗っかっていた。
このタヌキと狐は、椿国特有のモンスター【妖怪】である。今しがた、この城の牢に閉じ込められていたのを救出したのだ。
「も、もう手が……あっ」
「「あっ」」
筋力の足りてないソフィーが天井からボタッと落下すると、下にあった机をゴシャァっと音を立てて豪快に踏み潰す。
「いったぁ、この机軟すぎません?」
「バカ、お前がデブなだけだ!」
「違います! このタヌキさんが重いんですぅ!」
「ソフィー、このタヌキとキツネ霊体だから重さないよ」
オリオンに冷静に突っ込まれ、眉を寄せるソフィー。
「ち、違います! 確かに重さがあったんです!」
「言い訳はいいから早く隠れろデブ、あいつらが帰ってくるぞ!」
「またデブって言いました! 王様わたしのことデブって!」
「うるせー! 城でゴロゴロ座敷豚してるから肥えるんだよ!」
「豚!? 今豚って言いました!? こんなに可愛いのに!?」
ソフィーは両腕で胸を寄せて、あざといポーズをとった。
「いいから早く身を隠せエースコック!」
「それがなにかわからないけどバカにされてることだけはわかりますぅ!」
下で喚いていると、先程の侍たちが帰ってきた。
「何奴だ!」
「キサマ! さっきの
「やっべぇ! 逃げんぞ!」
「王様、わたしさっき腰打って走れません」
「オリオンそのデブ担げ!」
「がってん」
オリオンは米俵のようにソフィーを肩に担ぐ。
「やっばソフィーマジで重い。腰に来る」
「重くありません! この担ぎ方嫌です。離して! 離して!」
「うるせーな!」
俺はジタバタ脚をふるソフィーのケツをパーンと叩く。
「いたぁぁぁぁい!! 変態! 変態! 変態! 神は言っております、死ねと!」
神言葉きつすぎでは?
俺たち三人は城内を抜け出し、石畳の庭園を走り抜ける。
「いたぞ、ここだ!」
『ブォォォォー! ブォォォォ!』 ←法螺貝の音
「おのれ盗人め!」
「どこだどこだ!」
「
提灯を持った大量の侍が俺たちを追いかけてくる。
「咲、数がすごい! あとソフィーがすごい重い! 多分70クロ(キロ)はある」
「そんなにありません! 43クロです!」
「しれっとバレバレの嘘ついてんじゃねーよ! とりさえずソフィーは後で全員の前で体重計に乗せる刑に処す」
「嫌です嫌です! そんなことされるくらいならここで死にます!」
神官が自分の体重晒されるくらいで自殺をほのめかさないでほしい。
「どうする断空剣一発いっとく?」
「城ごとふっ飛ばしそうだからやめろ。それにあいつらには通用しない」
俺が夜空を見上げると、そこにいたのは黒い影。
真っ黒い忍び装束を着た
奴らは冷静に獲物を包囲し、研ぎ澄まされた武技で殺しに来る。暗殺に特化した、その冷徹な瞳に手加減の一切はない。
「…………!」
夜空に火花が跳ねた、オリオンの結晶剣が夜鳥の鉤爪と鍔迫り合いを行う。
「むぎっ、コイツほっそいくせにめちゃくちゃ力ある!」
「奴らは身体強化の鬼だ! まともに斬り合ったら死ぬぞ!」
「なめんな! あたしがこんな奴らに負けるか!」
オリオンは鉤爪を弾き飛ばすと、夜鳥の右肩から左脇腹にかけてズバッと袈裟斬りにする。
「オラァ!! 見たか!!」
「さすがチビオーガ! タイマンなら負けねぇな!」
「誰がチビオーガだ!」
頭にツノを生やした(※イメージ)オリオンが憤っていると、倒れた夜鳥がむくりと起き上がり手印を結び始めた。
「やめとけ、お前その傷でそれ以上なんかしたら死ぬよ」
「――子、火、雲、風、烈!!」
「離れろオリオン! そいつ自爆する気だ!」
魔力で体を赤化させた夜烏は、オリオンに飛びかかるとカッと光を纏った。
直後目を開けていられない爆破が目の前で起こり、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
真っ黒い煙が周囲を覆い、肉の焦げる嫌な臭いが漂う。
奴ら自分の死すら恐れないのか!?
「オリオン、ソフィー!!」
ほぼゼロ距離で爆発を受けた彼女たちに叫ぶ。
「何?」
黒煙が晴れると、ソフィーの
半透明の天使の羽の装飾が施されたシールドが、神々しく輝いている。
「わたしがギリギリでシールドを展開しました。褒めていいですよ」
Vとピースサインのソフィー。
「よくやった」
ほっと安堵する。忘れているかもしれないが、一応これでもソフィーは最高ランクEX級の神官である。
ヘヴンズソードのシールドは、至近距離で大砲をぶちかまされてもビクともしない硬度を誇る。
そんな最強の盾を持つソフィーだが、オリオンの肩に担がれている為、ケツから絶対守護領域が展開されているように見える。
爆風を防ぐソフィーの尻を見て、侍たちも驚いていた。
「なんだあれは!? ケツが光っているぞ!?」
「ええい南蛮人め、面妖な技を使いおって!」
ただのシールドとは言いにくい。
「よしオリオン、ソフィーのケツ担いだまま奴らに突っ込むぞ!」
「うらぁぁぁぁソフィーのケツだぞー!!」
「「「「うぉぉぉぉ!」」」」
強そうな侍たちが、ソフィーのケツを避けて左右に離れる。
「オラ、この尻に轢かれたくなかったら道開けろや!」
「ケツで轢いちゃうぞー!!」
「やめて下さい! これなんかいじめられっ子の気分になります!」
「「「うぉぉぉぉぉ!」」」
オリオンがソフィーのケツで侍たちを追い回していると、城の中から
でっぷりと肥えた偉そうな男は、筆で塗ったような麻呂眉をひくつかせて俺たちを睨む。
「貴様ら何をやってるも! 早く朕の狸たちを取り返すも!」
「すみません、デンジャラス足利様!」
この城の城主デンジャラス足利。
民を税で苦しめ、私服を肥やす悪党領主。更に妖怪退治を名目に、弱い妖怪を捕らえ拷問にかけるクズでもある。(銀河調べ)
「こんな弱そうなガキに不甲斐ない。お前たちにいくら払っていると思っているも!」
「す、すみません」
「
「はっ!」
侍は懐から背面にリンゴのマークが書かれた電子端末を取り出す。
「絡繰甲冑出撃せよ!」
「やべぇ、またあのメンドクセーのが来るのか」
俺たちがこの城に侵入するまでに、既に絡繰とは何回か戦闘している。
見た目は木で出来たロボットと言って間違いないが、木製のくせに超頑丈で、攻撃力も半端ではない。
ルナリアたちが使うアーマーナイツが西洋甲冑を巨大化させたものなら、こちらは和製アーマーナイツと言っていいだろう。
そんなことを考えているうちに、夜空を切り裂いて一騎の力士が飛行してきた。
『ドッコイ!!』
俺たちの前に着陸したのは絡繰力士。全長約6メートルくらいで、中に人が乗っている。
背中には油と書かれた木樽を2つ装備しており、これがブースターとなって空を飛ぶ。
攻撃する度にドッコイ! と声を上げるので、俺はこいつのことをドッコイダーと勝手に名付けた。
「やれ! 空圧張り手も!」
『ドッコイ!』
木製の絡繰力士が俺たちに向かって張り手を行うと、目に見えぬ空気圧が俺たちを襲う。
「うぉあっ!」
「わー!」
「キャアッ!」
見た目はかなり頭の悪そうなのだが、それに反して攻撃力はバカみたいに高い。
空圧張り手は直撃しなかったものの、俺達の背面にある石垣に巨大な手形をつけた。
風圧でふっとばされたせいで、ソフィーが伸びてしまいケツの壁も解除されてしまった。
「ククク、ハハハ! やれ山ノ海
『ン~……ドッコイ!!』
ドッコイダーは右腕を名一杯後ろに引っ張ると、力を溜めて俺たちに突き出した。
空圧張り手が地面を割りながら、凄まじい速度で迫る。
あっ、ダメだコレと思った瞬間、俺たちの間に何かが割って入った。
「はぁっ!!」
金の光が一閃。
不可視の空圧を切り裂いたのは、輝くビキニアーマーを纏ったグラマラスな女性。
我が宰相兼財務省兼外務省兼戦闘隊長兼秘書兼嫁最有力候補。本物のEX級騎士――
「ディー! やっぱ頼れんのはほんまお前だけやで!」
「王よ、私は陽動をお願いしたつもりはありませんが」
「仕方ないだろ、牢屋の中でタヌキとキツネ見つけちゃったんだから!」
「ほんとにあなたは……」
呆れるディーの尻に俺は顔をすりつける。すると間髪入れず彼女の肘鉄が落ちてきた。
「ぐえっ」
「あ、後にしてください!」
後からならOKなディーさんほんとすこ。
「エーリカ! 王たちを頼む!」
「了解」
頭上から女性の声が響く。
キーンとジェットエンジンの音が轟き、G-13とドッキングした航空戦仕様のエーリカが俺たちの元へと降りてくる。
体の約半分を機械と融合した融機人のエーリカは、伸びているソフィーとオリオンを軽々と両脇に抱える。
「王はバックパックの上に」
「わかった」
俺は無視してエーリカの胴体に抱きついた。
「お、王よ、できれば背面のバックパックの上に乗っていただけると助かりますが」
「嫌じゃ嫌じゃ、ワイはここがええのんじゃ」
俺はエーリカの胸に顔を埋める。
すると背面ブースターから機械音声が響く。
『イケメン王、ソレデハコナキジジィデス』
誰がこなき爺だ、相変わらず口の悪いAIめ。
一体どこにスピーカーがあるのか、背面ブースターと化しているG13の音声が聞こえてくる。
「エーリカ早く離脱しろ!」
「りょ、了解」
エーリカは両脇にオリオンとソフィー、正面に俺を抱きつかせたままジェットエンジンを吹かせて宙空に飛翔する。
「あばよ! 顔白いおっさん!」
「に、逃げるも! 山ノ海MKⅢ逃がすなも!」
『ドッコイ!』
絡繰力士が再度空圧張り手を見舞おうとすると、その腕が切り飛ばされた。
「あれでもウチの王でな。指一本触れさせるわけにはいかんのだよ」
金色に輝く剣を振るうディーは不敵に笑う。
「ぐぐぐぐ、生意気な女も! 山ノ海、まず奴から殺すも!」
◇
俺はエーリカにしがみつきながらデンジャラス足利城を見下ろす。しばらくすると大きな爆発が起きた。
恐らくディーさんがドッコイダーに勝ったのだろう。
「ディーが絡繰甲冑を撃破、撤退も成功したようです」
「そりゃ良かった」
エーリカが戦況報告を行うと、俺はほっと胸をなでおろす。
「しかし、この国は本当に不思議な場所ですね」
エーリカが【椿国】を上空から見下ろす。
眼下には田んぼや畑、瓦屋根の民家など時代劇で見るような景色が広がっている。
タイムスリップした京都を彷彿とさせるが、大きな街になると魔力電気を送る送電線が整備されていたり、スマホを使っている侍がいたりと文明レベルがよくわからない。
「江戸だな」
「江戸とは?」
「俺が前いた世界の歴史年号。大名っていう領主がいて、多数の侍を従えて戦争を繰り返していた時期があるんだよ」
「なるほど、領土戦争に似ていますね」
「似てるっていうかまんまだけどな。さてこのタヌキとキツネどうすっかな」
俺は首に巻き付いた小狐と、背中にしがみつく小タヌキを見やる。
「やはり【鬼ヶ島】ですか?」
「しかないよなぁ」
エーリカと話していると伸びていたソフィーが目を覚ました。
「ん~、王様ほんとにこの国が聖十字騎士団と繋がってるんですか?」
「パッと見ウチより酷いよね」
オリオンが下を見下ろすと、餓死したと思われる男の死体が街道に転がっていた。
「田んぼとか全部枯れてますよね……」
「今この国は大飢饉らしいからな。地方だけじゃなく椿の首都も金が無い。そのせいで聖十字騎士団に金を借りている。ここまでは裏がとれてる」
「お金のかわりに聖十字騎士団に協力しているんですか?」
「表向きは独立しているが、もうここは半植民地化されているらしい」
『黄金ノ国椿ガ、今ヤ聖十字騎士団ノ下請ケ工場トハ嘆カワシイ。椿大和魂ヲ見セテイタダキタイ』
と
「逆を言えば、この国がなんとかなりゃ聖十字騎士団を傾かせることも可能だ」
「椿の政府は腐敗が進んでいると聞きます。政府の指導力不足のせいで国は混乱し、飢饉も放置状態。小国の領主達が小競り合いを繰り広げ、国民は度々一揆を起こし、鬼ヶ島には妖怪が住んでいると」
「ウフフ、ウチより終わってる国ってあるんですね」
自分より下を見て嬉しそうに笑うソフィー。
「エーリカ、ソフィーの体重いくつ?」
「55.6クロです」
「なんで今言うんですか!?」
コイツ10キロもサバ読んでたのか。
「全部おっぱいですから! わたしのおっぱい1個10クロありますから!」
お前の乳は岩でできてきんのか。
「咲、この国どうすんの?」
「とりあえず調査が優先だ。いくつか気になる点もある」
「了解しました。諜報部の銀河に連絡しておきます」
俺の頭にアホのメイド忍者が浮かぶ。
「あいつが諜報部というのが不安しかないな」
――――――――――
※お久しぶりです。
様々諸事情があり休載しておりましたが再開します。
お待たせした読者の方々にはご迷惑をおかけしました。
再開を喜んでくれる方もいてくれるかなと思うのですが、先にお断りを
他作品の連載も行っておりますので、更新速度に関しては期待しないで下さい。
あくまで私が完結に向かって再開したというだけなので、リアルの事情や他作品の進行具合、新規作品の執筆によっては途中で更新が止まることもあります。
ガチャ姫の優先度はあまり上げず、ぬるく書いていこうと思っています。
また何分一年以上止まっていたものを動かすので、設定漏れとかあるかと思いますが、生暖かい目で御覧ください。
今後は思い出す意味をこめて、キャラクターそれぞれにスポットを当てていこうかなと思っています。
不安要素はあるものの、何はともあれ奴らが帰ってきました。
また異世界コントやりたいと思います。
キャラ忘れちまった人用のキャラ設定
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