第29章 雪山SOS

第252話 雪山SOS 前編

「さっぶ……」


 凍り付きそうな、というか俺の前髪既に凍っているのだが。

 そんな頭おかしいくらい寒い雪山に俺たちは来ていた。

 事の始まりは、ラーの鏡の魔力チャージにはまだしばらく時間がかかるので、その間にファラオたち砂漠の民の為に氷の魔法石を調達しようということになったのだ。

 その時の俺たちは雪山に行けば氷の魔法石取り放題だろ。ついでにゲレンデでスキーでもして遊んで帰ろうぜ、ウェーイと軽いレジャー気分で向かった。


 ほんと雪山なめててすまんかった。


 今、俺の目の前には見渡す限り一面銀世界。山を真っ白に染め上げる美しい雪はある種の神々しさを感じさせる。

 そのしんしんと降り積もっていた雪はやがて横薙ぎのブリザードとなり、俺の体の約半分を凍結させていた。


「極端なんだよアホかーーーー!!」


 砂漠行ったと思ったらこれか! 振れ幅が極端すぎるんだよ! 50度の灼熱の次はマイナス50度とか肉体の限界に挑戦してんのか!

 そんな怒りを天に向かって叫ぶが、氷雪吹雪によって完全にかき消されている。

 ロマンチックな銀世界なんて生易しいものではない。最早寒さを通り越して痛いの領域に踏み込んでおり、常時氷魔法が体に突き刺さってるようなものだ。

 もう真っ白すぎて視界0、なんにも見えん。自分が登ってんのか下ってんのかさえわからん。


「咲、ここどこー!?」

「知るかー! あのG-13ポンコツが地図データ入力して、コッチニ魔石反応ヲ検知シマシタとか言って突っ走ったあげく、二つの意味で凍結フリーズして動かなくなったのが悪い!」


 あのポンコツ[ワタシガタカダカマイナス4、50度デ凍結スルワケガアリマセン。大キナ脆弱性ヲ抱エル人間ト同ジニシナイデ下サイ]とか言って真っ先に凍りやがったからな。あいつ砂漠と全く同じこと雪山でもやってやがる。

 今自分がいる場所もわからず、仲間とも散りじりになってしまった。どこにだしても恥ずかしくない、The遭難をしていた。


フレイアはどこいった!?」

「わかんない。さっきまで隣にいたのにいなくなった」

「なに!? フレイアどこだ!」

「あっ、咲、足元から凍ったフレイアが出てきた!」


 地獄かよ。

 オリオンは冷凍サンマみたいにカチンコチンになったフレイアを小脇に抱える。


「咲、凍ったフレイアこれを使って雪山を滑り下りれないかな?」

「フレイアさんスノボーにしたら後が怖いぞ」


 俺たちが何も見えない雪山を必死に歩き続けると、前方に木製のコテージを見つけた。

 これは幸いと思い、今ついてきている全員に合図してコテージの中へと避難することにした。

 全員が凍えそうになりながら勢いよく中へと入ると、ホッと息を吐く。

 コテージの中は広くないが、吹雪の影響を受けない為外に比べれば天国と言ってもいいほど暖かい。


「ひー寒いー」

「よかったこれで助かるぞ。とりあえず人数確認するぞ!」


 寒さでひーひー言ってるチャリオットメンバーたちを俺は一人ずつ数えていく。


「25……とりあえず俺のチームは全員いるな」


 オリオン、ソフィー(凍結)、フレイア(凍結)、サクヤ、カリン、竜騎士隊といるが、ディーをリーダーとする別チームとははぐれてしまった。ディーが指揮とって安全なところに行ってくれてればいいが。

 あっちにはエーリカがいるからなんとかなると思うが、問題は俺たちの方だな。

 ウサギの竜騎士隊たちがサムサムと体をガチガチと震わせている。これはまずい、早く暖をとらなくては。

 そう思いこのコテージに暖炉でもないだろうかと、奥の方を探索しようとする。


「誰だ!」


 急に怒鳴られて驚くと、貴族らしき若い男女がこちらを睨んでいた。

 男の手には猟銃が握られているが、寒さからか手は震えている。全員を威嚇するように銃口をつきつけるが銃を使ったことがないのか安全装置が外れていない。

 俺は両手を上げ刺激しないように相手を伺う。


「まさか先客がいるとは」

「お前は誰だと聞いている!」


 声をかけてきた男は気がたっているのか語気が荒い。


「あっ、えっとすまない。俺は地方で王をやってる――」

「チャリオットか……」

「やだトマス様、恐いです」

「大丈夫だよシンシア。君は僕が守って見せる」


 男女の貴族は俺たちを前にしてひしっと抱き合っている。恐らく夫婦……にしては歳が若いので恋人同士といったところだろうか。


「嬉しい。お願いトマス様、早くこいつらを追い払って。こんなにも人がいっぱいいるなんて耐えられないわ」

「わかってるよシンシア。おい聞いただろ。ここは我々のものだ、早く出て行け!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。こんな状況だ、お互い協力しよう! 君らも遭難したんじゃないのか?」

「違うわ! ちょっと道に迷って帰れなくなっただけよ!」

「そうだ。貴様ら貧乏王と一緒にするな!」


 人、それを遭難という。


「えーっと、俺たちは君らに危害を加えるつもりは全くないから、ここにいさせてく――」

「君たちですって!? 貧乏王が私たちと対等でいるつもりなの!?」

「そうだ、対等でいるつもりか!」


 女がヒステリックな声をあげ、お前たちと一緒にするなと憤る。どうやら相当プライドが高いらしい。

 俺はめんどくさいタイプだと察した。


「私たちは貴族よ! 対等な口をきかないで! このチンパン野郎!」

「ウホウホウホウキー!!」

 

 男の方がこちらをバカにしてやたらリアルなサル真似をするが、クオリティが高くてちょっと笑ってしまった。


「なに笑ってるのよ!」

「す、すまない。ここで追い出されると、俺たちチャリオットは全滅してしまうんだ」

「知らないわよ! 勝手に全滅でもしなさい! 私たちは選ばれた人間なの、家畜と一緒だなんて耐えられないわ! 臭いわ!」

「そうだ、全滅しろ!」


 くそ、殴りてぇ。貴族の典型的な選民思想タイプのクズだな。


「あの、貴族貴族っていうが、俺も貴族で」

「嘘おっしゃい、あなたみたいなブサイクが貴族になれるわけないわ!」


 この女マジでこの雪をお前の血で赤く染めてやろうかと思う。


「貴族だと言うなら襟章はどうした!?」

「こんなとこにつけてくるわけないだろ! 君らだってつけてないじゃないか」

「こんなとこにつけてきて落としたら大変じゃない!」

「それと全く同じ理由だよ!」


 貴族の女性はここから出て行けの一点張りだ。男の方は壊れたスピーカーみたいに女の言ってる言葉を繰り返してるだけだし、これは困ったぞ。


「何か分けられるものがあれば分けるから。どうかそれで手を打ってくれないだろうか?」

「……わけられるものって何よ」


 一応食料は各々に持たせてるから、それを集めればかなりの量になると思うが。


「食料がある。それを少し――」

「半分よ、半分渡しなさい。そしたら近くの洞窟に留まることを許してあげる」

「はっ? 半分?」


 なめてんのかお前。それに近くの洞窟ってどういうことだ?

 女貴族が指をさす先を見ると、窓の外に洞穴らしきものが霞んで見えるのだ。


「はっ?(威圧) ふざけんなよ」


 つい素の声が出てしまった。

 いくら温厚とちまたで評判な俺でもさすがにキレるぞ。


「いいから食料を置いて早く出て行って! 早く!」


 女貴族は「キーーッ!!」とヒステリックな声を上げながら、こちらに向かってその辺の物を投げつけてくる。

 もはや手のつけようがなく発狂に近い。今の格好を見せてどっちがチンパンか聞きなおしたいところである。


「これだからバカ女は……。咲、この女殺そう」

「ダメだって。わかった。俺たちは出ていくから暴れるな」


 しょうがない。コテージを手放すのはおしいが、先にいたのは彼らだ。

 一瞬俺の頭にこいつらを縛って占拠してやろうかと浮かぶが、これだけ発狂する奴を無理やり捕縛なんてしたら殺されかねないし、それに助かったら助かったで後でなにされるかわからないのが怖い。

 バカに刃物は恐ろしいというが、この世界ではバカな貴族ほど恐ろしいものはない。


「食料を渡して!」

「それは断る……というか」


 俺は辺りを見渡して思った。このコテージ缶詰などがその辺に転がっていて、食料で不自由してそうに見えなかったのだ。


「すぐに食べられる食料を置いて出て行って!!」

「俺たちは出て行く。食料はその辺に転がってるものを食え」


 なんでそんなに俺たちの食料を狙うのかわけがわからん。

 俺は具合悪そうな兎軍団とオリオン達をつれてコテージの外へと出た。

 出た瞬間突き刺すような寒さを感じて、このコテージが使えないなら盛大に燃やしてキャンプファイヤーみたいにしてやろうかと思ったが、女貴族がまだ睨んでるので離れることにした。


「うぃー寒いーー!!」

「咲、やっぱあの女殺して雪の中に埋めよう!」

「ダメに決まってんだろ。あれはあんまりコケにすると本気で報復してくるタイプだ」

「谷底に落とせばバレない」

「バレないけどめーなの」


 俺たちは大急ぎで洞窟の方へと走り込んだ。

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