第166話 アルタイル
「ザドキエル……彼は魔人の中でも覚醒して長い。君が先日あった
アルタイルは絶対的強者が浮かべる不敵な笑みをこちらに向ける。
やばい、マジでやばい。ふざけんなよ、あの館で出会った魔人より遙かに強いとか頭おかしいってレベルじゃないぞ。
はったりの可能性を考えたが、剣神解放しているのにこの体の震えはまともじゃない。
奴が発する強力なプレッシャーに心がくじけかけてるんだ。
背中を巨大な手のひらで無理やり押さえつけられているような、重圧と息苦しさを感じる。
くそ、段々プレッシャーで気持ち悪くなってきた。
「さて、話を戻すが別に私は君をいじめたいわけじゃない。お願いがあるんだよ」
「こんな状況でお願いもくそもないだろ。完全にただの脅迫じゃねーか」
「確かに、では少しだけこちらからも誠意を見せよう」
アルタイルはずっと被りっぱなしだった帽子をとる。
するとそこには側頭部に二本、折れた角が伸びている。
「それは……」
「私はクルト族でね。聖十字騎士団団長アンネローゼの弟にあたる」
「なっ!?」
「言いたいこと聞きたいことはあるかもしれないが、私に話せるのはここまでだ。そしてここからが本題だ、君に私の調査を手伝ってほしい」
「調査?」
「ああ、現在聖十字騎士団の実権が教会によって完全に掌握されている。その理由は本来円卓議会で強大な発言権を持つ騎士団長アンネローゼが欠席を続けているからだ。その為、政を行う円卓議会では大教皇レッドラムの無茶な政策がまかり通り、現在聖十字騎士団は暴走していると言っても過言ではない」
「…………」
「姉が議会を欠席している表向きの理由は体調不良ということになっているが、真実は不浄監獄と呼ばれる魔牢に閉じ込められているからだ。私は姉をそこから助け出したいのだ」
「そんなことできるのか?」
「可能だ。だが、気づいていると思うが私は身分を隠して今まで行動してきたが、それも限界をきたしている。私はなんとか大教皇であるレッドラムを失脚させ、姉を解放したい」
確かにアルタイルの言っていることが本当なら、この男は聖十字騎士団のナンバー2にあたる男になるのか? ってことはアンネローゼが姫ならこいつは王子になるってことだろう。
なぜそんな男がここで貴族をやっているのか、折れた角の意味とは。
わからないことだらけだが、今のところこの男がこれ以上の素性を明かすつもりはないようだ。
「なぜそれを俺に言う」
「単純に君は動かしやすいし、EXクラスの兵力を持っている。そして足がついたとしてもすぐに切り離せる」
「…………」
なんか引っかかるんだよな、協力してほしいっていうやつが、お前はすぐ切り離せるから便利だなんて言うか?
「何をやらせたいんだ」
「私が掴んだ情報で、レッドラムは
「なんだその反吐が出るような内容は」
「奴の目的は恐らく騎士団を解体し、聖十字騎士団の権力を完全に自分のものにすることだ。その為には騎士団を凌ぐ力が必要になる」
「それで怪しげな実験をして兵器を開発中と」
「騎士団の持つアークエンジェルは非常に強力だ、それを上回る兵器を開発しているとなると完成されると非常に厄介になる」
「アークエンジェル……」
「騎士団は
「強すぎるだろ」
「しかし強いのはクルト族団長クラスが使用するセラフ級のみで、下位の天使兵装なら我々でも対処できるくらいだ」
「でも、そんな強い騎士団を超える兵器を作り出そうとしてるってことなんだろ?」
「その通りだ。君には
ガルディアアカデミーって確かアリスやマルコの出身校だったはず。
「なんでそこを?」
「あそこは元は教会の総本山があった場所だ。今はモンサンロードに本拠地を移しているが、あの学園にはなにかある」
「それは学園の関係者がきな臭いってことなのか?」
「いや、学園関係者は何も知らされていない可能性が高い。私が調べたところポートフという学園長は数年前まで別の領土にいて、こちら側の政治に疎い」
「何も知らないまま土地を買ってアカデミーを建てたってわけか。でも、それなら工事のときに昔の物は全部破棄しちまうだろうし、そもそも移転するとき証拠を残さないようにするんじゃないのか?」
「恐らく実験したエーテル残滓は消せないはずだ。あの場で兵器の研究がおこなわれていたならほぼ確実に通常とは異なった魔力が計測されるだろう」
そう言ってアルタイルは俺にストップウォッチみたいな機械を放り投げる。
「それは通常とは異なる魔力を計測してくれる装置だ。何か不審なものがあれば発見してくれる。欠点としてかなり近づかないと反応しないから注意してほしい」
「ふむ」
「実験している物や資料などの物的証拠があれば一番いいが、そこまではさすがに望めないだろう。アカデミーとなんの関わりもない私が調べに行くと、不審でしかないからな。君に頼みたい」
こいつ今日俺がポートフ学園長に声かけられてたのも見てたってことか。
なんかやる流れになっているが、俺はこの胡散臭いイケメン貴族のことを信じてもいいものだろうか?
でも断ったらグリフォンとかいう魔人が力づくでも従わせようとしてくるんだろうな。
「とりあえず重要なことだけ聞いておく」
「なんだ? 報酬のことか、それなら」
「違う。お前、姉ちゃん好きか?」
俺の質問にアルタイルは面食らっているようだった。
どうやら予想した質問と全く違う質問がきたようだ。
アルタイルは瞳を閉じる、一瞬の沈黙と共に真摯な目をこちらに向ける。
「ああ……たった一人の肉親として愛している。私は彼女に命を救われた身だ。この命姉の為に使っていいと思っている」
真剣な眼差しに、俺は嘘はついていないと判断した。
「いいだろう、協力してやる」
「…………そんな理由でいいのか?」
「姉ちゃん助けたくて困ってんだろ。理由なんかそれで十分だろ」
「……感謝しよう。では報酬は」
「たかだか学園のこと調べるくらいでいらねーよ、貸しにしといてやるから姉ちゃん助かったら俺の事アピールしといてくれ。お前イケメンだから姉ちゃんは相当美人だろう」
アルタイルはまた虚を突かれたような表情になり、ようやくここでこの男はこういう男なのだろうと理解したのだった。
「ああ、しかと伝えておこう」
襟章を返したアルタイルとグリフォンは既に小さくなった王の後ろ姿を見守っていた。
「何を笑っているアルタイル」
「王とは領土戦争が最優先であり利己的で自身の利にならないことはしない。そのことに納得はしていたが好感はもてなかった。だが、あのような
アルタイルは帽子を被りなおす。
「こちらもロメロ侯爵の依頼をこなすとしよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます