第145話 エピローグ
俺がもう一度目をあけると、そこは真っ白な部屋の中だった。
「またここか……」
確か前現実世界に戻ってきた時、キャラクタークリエイトをやらされたところだ。
しかし、今度は前回と違い、自分で自分の姿を確認できているし、コントローラーもモニターもない。
「やぁ」
「うぉ、びっくりした」
不意をついて現れたのは神ドラゴンである。
小さなドラゴンはふよふよと浮かびながら、満足げにこちらを見ている。
「なかなかいい働きだったよ。正直こいつもダメかなと思って、次の奴を見繕ってたところだ」
「黒鉄とスキルがいい働きをした。薬で抑えてたけど、あの殺人欲求だけはなんとかしてくれ」
「んー、まぁそれくらいならいいか。それじゃあ……アブラカタブラビビデバビデブー」
ドラゴンが適当な呪文を唱えると、俺の周囲を白い光が包んだ。
「これで治ったのか?」
「殺したいっていう欲求は低くなったけど、残虐性はあんまりかわってないから」
「意味あんのかそれ……。まぁいいマシになったんだったら」
「それでさ、正直並行世界にいるバグを倒してくれると思ってなかったんだよね。こっちもあいつの場所がわかってなかったからさ、アバターだけでも倒してくれれば十分だと思ってたんだ」
「あの侵食者ってのは一体なんだったんだ?」
「名前通りバグだよ。世界のバランスを破壊する、チートを使うものたち」
「たちってことは他にもいるのか?」
「いるよ。潰しても潰してもわいてきて迷惑してるんだけどね。悪人と同じで一定数の
「プレイヤー?」
「それは君には関係のない話だ。バグを締め出すバリアみたいなのを作ってるんだけどね、侵入されてしまったのものに関しては内側で対処するしかない」
「これから行く異世界にもバグは存在するのか?」
「多分いるよ。奴らはこちらの監視を恐れてるから表立って出てはこないけど。もしかしたら君の知ってる人間が侵食者になる可能性もある」
「なるっていうのはどういうことだ? 元の世界の人間がバグに変化するのか?」
「それに近い。侵食者は相手のキャラクター情報をハックするんだ。今回君が戦った天地芳美。彼女はとある人間のドッペルゲンガーだ」
「ドッペルゲンガーって、涼子さんしかいないだろ」
「今回の侵食者はドッペルゲンガーのキャラクター情報を奪い、意のままにコントロールし、その世界で活動する為のキャラクターを作り上げた」
「待て、つまり天地芳美は元は涼子さんのドッペルゲンガーだったってことなのか?」
「そういうことだね。君も不自然だと思っただろ? なぜ彼女が病院に隠されていたのか。不都合があるなら殺してしまうのが一番手っ取り早いのにも関わらず」
「分身であるドッペルゲンガーにオリジナルは殺せなかったってことか……」
「侵食者が乗っ取るキャラクターにはある程度法則がある。一、その世界で活動するのに支障のない姿。二、その世界である程度の地位や強さを持っている。三、ハッキングしやすいもの。意識のない霊体や、記憶のない人間なんかは彼らにとってデータを非常に書き換えやすい存在だ」
「そんなもんなんとかしてくれよ」
「こっちが管理してる世界もここだけじゃないからね。あぁ本題だけど、バグを倒してくれたお礼として一応褒美的なモノをあげようと思うんだけど、何が良い?」
「えっ、なんでもいいのか?」
「バランスをぶっ壊しかねないもの以外なら。どうする召喚石10個とか」
「…………」
「何その目、けち臭いとか思ってんの? じゃあいいよ奮発して石30個とSRキャラ以上確定チケットつけたげよう。優しー」
「あの……」
「何、まだ文句あるの?」
「違う、石とかいいから、白銀の爺と茂木を生き返らせてくれないか?」
「…………………」
ドラゴンは苦い顔をしながら器用に後頭部をかく。
「はぁ……無欲だねぇ」
「生き返らせてくれっていってんだから欲は深いと思うぞ」
「まぁそうなんだけど。……心配しなくていいよ。君の友達と源三はバグにステータスを書き換えられた。それを元に戻すのもこちらの仕事だ。だから彼らが死ぬ間際にステータスを元に戻したから生きてる」
「そうか……よかった。本当によかった」
これで揚羽たちも悲しまずに済む。
「当の本人たちは君のことをもう忘れてるっていうのに……見てみるかい? 君の世界の様子」
「見れるのか?」
ドラゴンがパンっと手を叩くと、真っ白い部屋の中に巨大な液晶モニターが現れる。
「えーっと何チャンだったけな」
ドラゴンがリモコンで操作すると、見たことのない世界がいくつも映し出される。
「あれぇ、お気に入り登録してたっけな?」
ドラゴンが適当に操作すると、画面全体にアダルトビデオが映し出される。
[ええか、ええのんか、最高か?]
[あああああ~~~ん]
「………………」
「違うから、調査資料だから」
「さいでっか」
俺が白い眼をしていると、画面に揚羽たちの姿が映った。
彼女たちは城の屋上で、キョロキョロと辺りを見渡している。
「おぉ、もっさんも、爺も、皆生きてる……」
こんなに嬉しいことはない。
つい涙が零れ落ちる。
異界門が閉じたことにより霧は消え去り、白銀ランドの美しくライトアップされた施設が見える。
「あれ、揚羽たち何してたんだっけ?」
「揚羽ちゃん、それウェディングドレスちゃうの?」
「えっ? ほんとだ、なんで?」
「あれ、確か今日結婚式なんじゃなかったっけ?」
「そう言われてみれば」
「そうそう俺たち白銀家の結婚式に招待されたんだよ。揚羽、黒乃二人の同時結婚式って」
「そんなわけあるかーい! 揚羽ちゃんも黒乃ちゃんも結婚式なんてまだまだ先じゃわい!」
「いや、そんなこと言われても」
全員何が起きたか理解できておらず困惑する。
その時揚羽のスマホが鳴り、電話に出る。
「あっ、パパ? うん、そう。揚羽もよくわかんない。お城の上にいるよ。すぐ降りる」
父親からの電話を切ると、揚羽は画面に写っているものを見て固まる。
それは自分のキス顔であり、カラオケ店で撮られたと見られるが、なぜか自分で自分のキス顔を待ち受けにしていることに驚く。
「なにこれ、キモっ揚羽なんで自分のキス顔なんて待ち受けにしてんの。かえよ」
そう思い壁紙用の写真を表示すると、違和感は更に強くなる。
そこには真ん中だけ変に空間があいた構図で、何枚もの写真が撮られている。
映っているのは、自分、黒乃、真凛、ザマス姉さんであり、なぜこのメンバーでカラオケに行ったのかわからないのだ。
「…………あれ、なにこれ」
揚羽は自身の頬を伝うものに驚く。
「どうしたんじゃ揚羽ちゅわ~ん。このクソメガネにいじめられたのかい? ワシが亡き者にしてやろうか?」
「いじめに対する報復がえぐすぎる」
「なんで……えっ、なにこれ?」
揚羽は零れ落ちる涙が全く止められず困惑する。
だが、それは彼女だけではなかった。
「誰か……ここに……いた」
黒乃も同じように涙を流す。
「黒乃ちゃんどうしたんじゃ、ポンポンでも痛いんか? 爺ちゃんがナデナデしてあげ……あれ? おいクソメガネ、お主じゃなかったか? この辺でやめんかエロ爺って遠慮なく蹴り入れてくるの?」
「いや、さすがにそんなことしねぇって、なぁ?」
茂木はなぁ〇? と誰かに言いかけて、その名前が出てこない。
確か絶対忘れてはいけない名前だったはず。それなのに思い出せない。
「オイオイクソメガネ、お前もか」
「えっ、なんだこれ、涙が止まらん」
「黒乃さんが言ったように、ここに誰かいたんよ……」
「誰かって誰じゃ?」
「わかれへん! わかれへんけど大事な人やった。だから皆泣いてるんやと思う」
真凛は顔を覆い隠し、今にも大声で泣きわめいてしまいそうな心を押さえつける。
「これは驚きだ。まさか全員が君のことを思い出しかかっている」
「それは凄いのか?」
「普通ありえないよ……本来こういったイレギュラーは手動で記憶を消すんだけどね、君の仲間に関してはそのままにしておいてあげるよ」
「別にいいぞ、俺の記憶なんかさっくり消しちまって。どのみち記憶を取り戻したところで、俺が異世界から帰って来ない限りあえないんだから」
「そうとは限らない。君はガチャの存在を忘れている。あのガチャっていうのはエデンにいる人間だけじゃなく力の強い人間を他世界から呼び寄せることがあるんだ」
「つまりガチャで召喚される可能性があるってことか?」
「そうだね。しかもこの世界と深くかかわり合いのある、君に召喚される可能性が非常に高い」
「嫌だよ、俺こいつら呼び出したくねぇ。せっかく悲しく別れたってのに」
「それは君側の意見だろ? 召喚される側は君に会いたいと思うかもしれない」
「それはそうなんだが」
「君のガチャラインナップにこの子たちが追加されたわけだ。引けるかどうかは君の運命力次第ってところか」
「いつかまた帰るからその時でいいっての」
「あぁ、それで思い出した。君異界門閉じたから帰れないよ」
「えっ? マジで?」
「うっそー」
ぶっ殺してやろうか、このトカゲ。XVIDE〇見やがって。
「はい、これあげるよ」
ドラゴンから手渡されたのは何かの種だった。
「なにこれ?」
「ユグドラシルの種。育てるとすんごい高くまで伸びる。その樹が完全に成長を終えれば、元の世界に帰れるかもしれない」
「おぉ、凄い。ちなみにこれどれくらいで成長するんだ?」
「1000年くらいじゃない?」
俺は黒鉄に手をかける。
「あー嘘嘘、ユグドラシルの樹は人々の幸福度をさすんだ。君の守った人々が幸福に暮らしていれば成長は早いし、逆に不幸なら成長しない。むしろ枯れてしまうこともあるから気をつけるんだ」
「なるほどな。ありがと」
「さて褒美だけど」
「いや、これだけで十分だ。いつかまた帰れるって希望もあるし」
「そう? じゃあそろそろ君の体を異世界に移すよ」
「ああ頼む」
俺が目をつむると、光が体中を包み込む。
次の瞬間真っ白な部屋の中に俺の姿はなかった。
「ほんの少しだけご褒美は忍ばせておいたから、有効に使うといい」
[エルドラゴンからの褒美を取得しました]
プレゼントボックス(スキル)
プレゼントボックス(武器)
プレゼントボックス(資源)
プレゼントボックス(その他)
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長く続いた12章、お読みいただきありがとうございます。
またここまででPV数約16万、評価も232(5/31現在)を達成いたしました。合わせて感謝申し上げます。
更に総合ランキング100位以内をキープしているようで、ご支援の方ありがたく思います。
文庫本で言うと12章だけで約2冊半ほどのボリュームがありました。それを長く支えていただけたのは評価や感想、フォローだと思っています。
まだ評価等されていない方もお気軽にしていただければ幸いです。
終章と書いたのでこれで終わるのではないかと思われた方もいらっしゃったのですが、現在13章のお話を書いております。
次章以降は章を細かく区切り、ショートストーリーを増やしながら長編に触れていく形をとろうと思っています。
書きだめを作ってからアップしようと思っているので、次回更新まで少しお時間がかかるかもしれませんが、今度は異世界に戻ってオリオン達と依頼をこなしたりする異世界冒険モノとして再びお届けする予定です。
それではここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
それではまた次章でお会いいたしましょう。
12章のあとがきを後ほど近況報告欄にアップする予定です。
ありんす
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