第134話 剣神解放

「こちらが与えられる最大の力だ。一つ持っていくがいい」

「いいのか?」

「恐らくこの力をもってしても天地眞一に勝つことは難しいだろう」


 俺は突き刺さった剣を見る。どれも強そうなものばかりだ。


「この剣は全て空想より生み出されし架空の剣。しかし、架空のものであっても人々がそれがあると信じれば存在しない伝説も存在しえる」

「エクスカリバーなんて存在しないけど、あると信じ続ければ本物になるってことか。これで目の前にいるのがけったいな神ドラゴンじゃなくて美少女だったら、俺が持っていくのは君だ。とか主人公ぽいことができるんだがな」


 俺が悩んでいると、リアルドラゴンはポンっと音をたてて元のミニドラゴンへと姿を戻す。


「久しぶりにあれになったから疲れた」

「台無しか」

「先に言っておくが、その剣はどれも強力な力ではあるが、世界を改変したり概念を捻じ曲げるようないわゆるチートではない。ただの純粋な力だ。クソザコなめくじのお前がなめくじになる程度のものだ」

「俺としてはなめくじの方をとってほしかった」


 突き刺さった剣の中で唯一刀タイプの剣をとる。


「黒鉄か。武器が決まったら次はこれを回せ」


 突如足元から現れたのは、随分と久しく見ていないガチャマシーンである。

 気のせいか筐体に東方限定ガチャと書かれている。


「回していいのか?」

「いい。この中に魂が入ってるから。できるだけいいの引き当てろよ」

「魂ってあれか、黒乃のマサムネや、揚羽のユキムラみたいな」

「そうだ。中に入っているのは架空の英雄魂であるが、お前みたいなクソザコのステータスを上げる大事なものだ。一応確率上げてるけどスカも入ってるから引くなよ」

「お前、確か俺に世界の命運託してるんだよな?」

「一応神だから。そういうとこ公平にしないといけないの。タダで渡すといろんなとこから文句くるから」

「……世界滅んだらお前のせいだからな」


 俺はガリガリとガチャマシーンを回すと、落ちてきたのはガチャカプセルではなく、どす黒い光を放つ魂だった。


「おぉ、大丈夫かコレ、なんかダークマターみたいなのでてきたぞ……」

「はい、じゃあその魂とお前の駒貸して」


 言われて俺は駒と黒い人魂を渡す。

 ドラゴンはそれをそれぞれの手に持つ。


「行くぞ、駒と魂を融合させる。おっほん……ティスイズザピース! ディスイズザソウル! ウーン! ディスイズザソウルピー……」

「やめろやめろ! もうブームすぎかけてんだぞ!」


 ドラゴンは危うい歌を歌いながら新たな王のソウルピースが完成する。


「で、この駒誰の魂が入ってんの?」

「知らん。でも色からして多分怨霊系」

「えぇ……ここは正義の力が覚醒するとこじゃないの……」

「残念だったな、実はあの魂最初に選んだ武器に引っ張られるから、最初にあのカッコイイ西洋剣とか選んどけばアホ毛のアーサー王とか、そっちのなら美少女ジャンヌダルクだったのに」

「やり直しを要求する!」

「ダメだ。やり直したらお前スカ引くからな。それと、こいつは餞別だ」


 そう言って手渡されたのは何かの錠剤だった。


「なにこれ?」

「精神安定剤」

「嘘だろ恐いんだけど! お前実はあの黒い魂の正体知ってるんだろ!」

「まぁ冗談はさておき。お前アホだから多分一人だと天地眞一の真相にはたどりつかんと思うから先に言っておく。まず奴が試した門の開け方は間違っている。あれでは門は開かんし閉じもしない。場所が重要だ。そして天地眞一は造られしものだ。ならそれを造ったものがいる」

「つまり奴の黒幕がいるってことか」

「病院に入院しているお前たちが最初の被害者だと思っていた女」

「山田弘子か?」

「あの辺は良い線をいっている。お前がチャンスを作れるとしたら、あの女を助けることだな。あの女のスキルは正直やりすぎたかなと思ってる……時間がなくなったようだ。さっさと行って世界を救って来い」


 まさかそんなRPGみたいなこと言われると思ってなかったので面食らってしまった。

 気づくと視界が段々白くなっていく。

 毎度無茶ぶりしてくれる。




 目が覚めると、そこは先ほどまでいた路地裏だった。

 飢えた鬼の怪物は突如俺が起き上がった事に驚いているようだった。


「いった……」


 胸に強い痛みを感じて触れてみると、未だ血が流れ続けている。

 どうやら揚羽の時のように完治して戻してくれたわけではなかった。


「何から何まで対応が雑なんだよ、あの神……」

「ギギギギ」


 気味の悪い歯ぎしりをする餓鬼、その奥で首を傾げる馬頭の矢代。

 奴がいなくなってないってことは、恐らく時間はほぼ経っていないと見ていいのだろう。

 俺の手にはスマホと王の駒がそれぞれ握られている。

 駒の下部が変形し、鍵の形へ、俺はその鍵をスマホの画面に突き刺した。


剣神解放ビルドアップ 総司ソウジ

[MATERIALIZE《マテリアライズ》 START《スタート》]


 眩い光が円状に広がり、自身の体に剣神の魂が取り込まれる。

 思考とステータスが書き換えられ、鞘に入った日本刀が具現化し俺はそれを手に取る。


「菊一文字黒鉄」


 鞘から刀身を抜き放つと白銀の光が漏れ、辺りに満ちた霧を吹き飛ばす。


「お、お前、その姿……」


 矢代がわななきながらこちらを指さしてくる。

 ふと見た窓ガラスに今の自身の姿が写し出される。

 それは以前ゲームセンターで変身した時、茂木が適当に名前をつけた、美少女と見まがってしまうような美少年、ランスロット・アーサー・パーシヴァルの姿だった。


「これパー君ですね……んっ」


 口調が勝手に変わり、喉をおさえる。


「喋り方はやっぱり敬語になるんですか。特に支障はないので構いませんが」


 囲まれていると言うのに悠長に自分の姿を確認していると、当然それを待っている敵達ではない。

 うめき声と共に背後から餓鬼が飛びつくが、逆に転がったのは奴らの首だ。


「な、なんだ!?」

「具合は悪くないですね」


 いつの間に振るわれたのか、白銀の刀紋がゆらりと煌めいている。


「あんまり斬った感じしませんね。皆さんカルシウム足りてないんじゃないですか?」

「お前……なんでそんな笑顔なんだ!?」


 矢代に言われて初めて気づく。仮にも人のなれの果てを斬っているのに実に気分がいい。

 刀を振っていると、とても楽しいのだ。いや違うな、刀で何かを斬っていると楽しいのだ。


「なんだよ、なんなんだよその後ろの奴は」

「後ろですか?」


 言われて後ろを振り返ると、子供くらいの大きさをした小さなガイコツがこちらを見上げている。


「どうやら分身みたいなもののようですね剣影ソウルイーターとでも呼んでください。大丈夫ですよ、今のこの子には何の力もありませんから人畜無害です」

「何言ってやがるんだ」

「ただ、こうするとそうでもなくなりますが」


 周囲の餓鬼の頭が一瞬で全て飛ぶ。


「ひっ!?」


 そして殺した餓鬼の魂を小さなガイコツが口を開いて懸命に吸い込んでいるのだ。

 ソウルイーターは魂を吸い込めば吸い込むほど、その体が大きくなりやがては俺と同じくらいの人間サイズにまで膨れ上がる。

 ガイコツだった体には肉が戻り、人の頭蓋で出来た仮面を被った人型を形作る。


「ほら、これでカッコイイお侍さんになりましたよ。剣影弐式とでも呼びましょうか」

「お前、そ、それ侍なんかじゃなくて、ただの死神じゃねぇか!!」


 言われてみて確かに。青白い炎の塊にガイコツ面がついている為、それを無理やり顔と認識できる程度であり、真っ黒な和装も喪服のように見えなくもない。彼の言う通り和風版死神と言われた方がしっくりとくる。


「失礼な、あなたの馬面ほどのビジュアル的インパクトはありませんよ」

「はったりだ、はったりに決まってる!」


 矢代はこちらにズンズンと近づいてくると、間に割って入って来た剣影の胸をその剛腕で刺し貫く。

 だが、剣影は矢代の顔を見返すだけだ。

 

「はっ、やっぱりただのこけおどしじゃねぇか!」

[Re LOAD《リロード》]

「はっ!?」


 機械音声が響いたと同時に、刺し貫かれたはずの剣影の胸が、何事もなかったかのように完全に復元しているのだった。


「どうなってんだこの野郎は!」


 矢代が殴り、突き刺し、毒を吹きかけ、魔法をあびせかけても剣影は[Re LOAD]と音声が鳴った瞬間元に戻っているのだ。


「軽くタネを明かしますと、その剣影には自身のステータスを記憶するセーブ機能みたいなのがありまして、状態をセーブしロードをすると元の状態に戻るんですよ」

「はっ?」


 矢代が、それってすなわち不死身ってことじゃんと小さな目を丸くする。


「ただし蓄積した魂を使用してロードを繰り返していますので、いつかは魂の残量スタックが切れるかもしれません。安心して下さい、魂の残量はセーブできませんから、ロードして魂の残量まで元に戻るということはありませんよ? ただ幸いなことに、ここは魂には不自由しなさそうですよね」


 俺は新たにやってきた餓鬼の群れを見てニヤリと笑う。

 これが知能のある敵ならこちらを自己強化させない為に安易な雑魚モンスターを投入なんてしない。

 だが、知能のない本能だけのモンスターが徘徊しているなら、それはもう強化し放題ということで。


「他人の魂を喰って自己強化なんぞ、まんま死神じゃねぇか……」

「というわけで僕の能力を話してしまったので、あなたには死んでもらいます。まぁ生きてても僕が倒したい人とは無関係そうなんで構わないと言えば構わないんですが、どうですか? やめときますか?」

「ふざけんじゃねぇぞ! 天地ぃ、お前なんかに負けてたま--」


 矢代が叫びをあげようとした瞬間、彼の頭は宙に待っていた。

 剣影が手にした刀を振り切っており、矢代は一瞬遅れて自分の首が斬り落とされたことに気づく。


「はっ?」

「僕は天地じゃないんですよ。不愉快ですから間違わないで下さい」


 馬頭はぼたりと地面に転がり、雨に濡れる剣影とこちらを本物の死神を見るような怯えた目で見る。

 俺はその頭を拾い上げると、にこやかな笑みを浮かべる。


「良かった、まだ生きてますね。あなたは実にいいチュートリアルキャラだと思います」


 美しい少年が血まみれの馬の頭を持ち上げてにっこりと笑っているところは狂気的に見えるだろう。


「僕の力はセーブとロードだけじゃなくて、この刀で魂を引きずり出して、新たな新選組を作り上げると言う、まぁ僕専用の兵隊をつくるみたいな力があるんです。それを試そうと思うのですが、ただ記念すべき一人目があなたというのはいささか不満であることは間違いな--」

「ああああぁ、許して、許してくれ! ごめんなさい天地君」

「だから天地じゃないって言ってんだろうが……」


 美少年の可愛らしい笑顔から、つい本気の低い声が出てしまった。


「ひぃぃぃぃっ!!」


 放置していた頭のない矢代の体の方が、突如動き出し全力で逃げ出していく


「あっ、逃げられてしまいましたね。まさか頭じゃなくて体の方が本体とは思いませんでした」


 逃げられたという焦りは全くなく、むしろ感謝の気持ちすらあった。

 俺は手に持った馬の生首を放り捨てる。


「これは困りました、すぐにでも探し出して殺すしかないですね」


 ケタケタと壊れた人形のような笑みが路地裏に木霊する。

 実際わざと逃がしたと言っても違いない。なぜならまだ楽しめる。あわよくば仲間エサを連れて来てくれるかもしれないと思ったからだ。

 窓ガラスに映る悪魔じみた自分の顔を見て、俺は唐突に自分を取り戻す。

 頬に返り血を付着させ三日月のように口元を歪め、笑みを作っている自分は完全に殺人鬼ではないかと。


「くっ……これ、やべぇぞ……」


 俺は頭をおさえながら、総司の魂を無理やり引きはがす。

 すると俺の体は美少年姿から元のフツメン(自称)へと戻る。


「こいつは間違いなく強いが、強力な呪いみたいなのがかかってる」


 そう、それは言わなくてもわかる。

 【快楽殺人】だ。

 とにかく人を斬りたい衝動に襲われる。

 俺は魂は引きはがしたというのに、未だ消えることのないソウルイーターを見据える。

 そのシルエットは俺の意思とは無関係に笑みを浮かべているようにも見えた。


「あのクソ神め、狂戦士バーサーカーみたいなの渡しやがって……」




剣神総司

史実の沖田総司をイメージした架空の魂。

神ドラゴンがあくまで史実の沖田総司を参考にして作り出した魂であり、本物とは無関係である。

カテゴリーは強力な悪霊系に分類され、力を与える代わりに自身の欲求を宿主に要求する。

梶勇咲が剣神解放することで、彼の優しさの部分を抑制し、死生観を狂わせる。

また後述する剣影に性別はなく、宿主の意思、または剣影の意思によって姿を変えることができる。


剣影ソウルイーター 剣神総司の影であり、敵味方問わず魂を吸収、スタックすることで強化成長する。壱式形態はデフォルメされた間の抜けたドクロ姿。この形態での戦闘力はない。弐式は人型の侍形態で剣影での攻撃が可能になる。参式形態 ???

魔力と感覚のパスを任意で繋ぐ繋がないの選択ができ、パスを繋がない状態だと剣影は自動オートで動き、勝手に魂採集を始める。パスをつなぐと手動操作マニュアルになり精密な動きを命令することができる。ただし痛み等の感覚がフィードバックする。


輪廻停止・遡行 自身の現在の状況をセーブし、致命的なダメージを受けた際ロードして記憶した状態に戻る。ただしロードには魔力とスタックした魂を消費する為、使用し続けると剣影が弱体化し、強化段階が戻ることもある。


天剣 戦闘した相手の能力を解析し自身の能力として保存する。任意で発動せず、剣影が自動で発動させている。強力なものほど長く戦闘を続けなければ習得できない。また天剣が発動しない固有技ユニークスキルも存在する。天剣の習得状況はファンタジーシフトのアプリで確認が可能。


集気陣 天剣で習得した相手の能力を保存しておくことができるスタック領域。スキルは一つしか保存しておくことができずロックをかけておかないと、勝手に次の天剣が発動したスキルが上書きされて消える。


魂縛 死にかけ、もしくは死んだ直後の魂を変質させ隷属魔サーヴァント化を促し、霊、またはモンスター化させ、自身の支配下におく。従わない魂を無理やり従わせることも可能であり、その場合対象に首輪と鎖が現れる。隷属魔の力は剣影から分配される為、調子に乗って増やすと魂が足りなくなり消滅することになる。消滅した魂は再召喚および蘇生はできない。

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