第16話 寄生虫
「偽って言うと三人のディー?」
「そうにゃ、間違いないにゃ、あいつら全員HR以下にゃ」
ランクにオリオンが反応しかかったが手で制する。俺達もソファーに座り、やる気なさげなリリィを見る。あまり気づいてなかったが顔色が悪く、痩せた印象を受ける。
「だから何度も言わせるな、僕たちが指揮権をもつって言ってるだろ。君たちみたいな雑魚どもをまとめてやるって言ってるんだ、感謝されることはあっても非難されるいわれはないね!」
唐突に隣の部屋から声が響いて驚く。
「隣で同盟軍の会議をしてるにゃ」
「俺達に聞こえちゃってるけどいいの?」
「別にいいにゃ、グダグダな内容で隠さなきゃいけないことは何もないにゃ」
どうやらリリィは意図的にこの会議室の隣に連れてきたようだった。
「あのさ、こっちにはEXが四人もいるわけ、いい加減それでこっちとのパワーバランス理解してくんない?初めからこの同盟軍って対等じゃないの、僕たちが君たちに力を貸してあげてるわけ」
「ダーリンカッコイイ~」
乾の声の後に、以前聞いた女ディーの声が聞こえる。
「あの女は口とセックスだけにゃ。でくの坊はご飯食うだけで、ツンツン頭は金のことしか考えてないにゃ」
皮肉たっぷりのリリィは恐らく既にトラブルをおこした後なのだろう、もう私は知らんと言いたげに投げやりな雰囲気だった。
「これでは同盟軍ではなく、お前の支配下に入っただけではないか!」
「今気づいたの? 遅くない?」
「もういい、貴様とは連携をとらん別の王と話あいを行う!」
「ふざけんなよ、そんなこと許すわけねーだろうが。金だよ金、お前んとこの金持ってこい。そうしたら俺達が戦ってやる」
ナイフ男も同じ部屋にいるようで、話し合いにきた相手を恫喝しているようだ。
「よその国からお金をもらっても全部あのツンツン頭がポケットにいれちゃうから意味ないにゃ」
「それ他の国怒ってるんじゃないの?」
「もうカンカンにゃ。多分ここが攻められても誰も助けてくれないにゃ。戦士達も半分くらい辞めちゃったにゃ」
「そりゃついていけなくなるだろうな」
「辞めた戦士は賢いにゃ。今残ってるのは召喚でしばられている戦士か、いつ辞めるかタイミングを計ってる戦士のどっちかにゃ。忠誠を誓ってる戦士なんか一人もいないにゃ」
それくらいボロボロにゃと悲しげな目で言うリリィ。
確かに彼女達の忠誠度は今酷いことになっていることだろう。
「エーリカさんは?」
「外で見たと思うけど、領地の税率を五十まであげたから領民はもうやっていけなくなってるにゃ。エーちゃんは他の王に援助を求めて駆けまわってるにゃ。でもここから遠い王にはドロテアのことは他人事だし、近い王には悪評が広まってうまくいってないにゃ。こんな状態でドロテアが攻めてきたら戦う前に終わりにゃ」
「畜生二度と来るか!」
「毎度あり~」
隣の部屋で、恐らくカツアゲされた王が泣きべそかきながら城の外に走って出て行った。
「あ~あ、また敵作ったにゃ、そのうちドロテア王じゃなくて同盟軍に襲われるにゃ」
リリィは冗談めかして言っているが、ちっとも笑えない状況だった。
もはやそんな風にしないとやってられないのかもしれない。
「これは言わないとダメだろ、それにあいつの抱えてる三人のディーはEXじゃないんだろ? 本当に襲われたら危ないぞ」
「言ってきくならエーちゃんが死ぬほど言ったにゃ、危険だって。でもご主人ほぼ全財産をはたいてあの三人を手に入れたから、全部偽物だって認めたくないだけで多分王もほんとは気づいてると思うにゃ」
「そうなのか……。でもやっぱり言った方がいいと思う」
「やめた方がいいにゃ」
リリィはそう言うが、俺はソファーを立つ。
「あたしもやめといた方がいいと思うぞ、あいつ既に詰んでる感じするし」
「そう言うな、これでも知り合いだ」
そう言うとオリオンはしぶしぶ立ち上がり、俺の後ろをついてくる。
「くそくそくそっ! どいつもこいつもなめやがって! 僕以上にうまく指揮をとれるやつなんているわけないだろうが」
隣の部屋に入ると、乾は苛立ちながら近くにあった小さな机を蹴り飛ばしていた。
隣の部屋とは比べ物にならないほど豪奢な装飾が施された部屋で、煌びやかなシャンデリアに獣の皮の絨毯。金に困ってるとは到底思えない造りだった。
部屋には乾が蹴り飛ばした机と、対面になったソファー、奥に執務用のデスクがありナイフ男は執務用デスクに足をかけてナイフを手の中でくるくると弄んでいる。女ディーは露出の激しい服でソファーに横になっていた。
「乾」
俺が声をかけると、ようやく俺の事を認識したようで、さっきまでの苛立ち顔から一変して余裕のある笑みを顔に作った。
「よぉ咲じゃんか、なに勝手に入ってきてんだよ」
「入れてもらった。それよりお前、この逼迫してる状態でなにやってんだよ」
「お前には関係ないだろ、何しにきたんだよ」
「戦争が始まりそうだから心配してきたんだろ」
「はぁ? 心配? お前が僕に?」
「そうだ、心配しちゃ悪いかよ」
「あのさ、心配ってのはさ、出来る奴ができない奴を見ることを言うのよ。お前は僕が出来ないやつだと思ってるわけ?」
「現にうまくいってないだろ」
「ぐっ」
正論を言われて、顔をしかめつつ一瞬言いよどむ乾。
「ダーリン誰こいつ?」
「王だよ。お前もスカウトされただろ」
「こんなのいたっけ?」
女ディーがこちらを見ると、予想以上にケバかった。おかめばりに白くて最早ホラーに近い。
「あぁ、そういえばいたわ! 顔が好みじゃなくて振ったけどさ!」
「そいつはいい、傑作だ! お前顔面偏差値で振られてるじゃねーか!」
全員が傑作だと大笑いする。俺は後ろに控えているオリオンが飛び出さないように手で制するが、彼女の姿は既に後ろにはなかった。
「あんま調子にのんなよ雌豚、テメーらが全員EXじゃねーことくらいバレてんだよ」
オリオンは一瞬で沸点が限界突破すると、ソファーで寝ている女ディーに馬乗りになり結晶剣を突きつける。
「なによこの女!」
女ディーが声を上げると、オリオンに向かってナイフが投擲される。それを全て切り払うと、オリオンはアクロバットな動きで後方宙返りしながら俺の隣に戻ってきた。
「やっぱこいつら雑魚だ。本物なら無様にマウントとられねーし、しけたナイフもとばさない」
「お前心配しにきたんじゃなくて喧嘩売りにきたのかよ!」
乾の怒りが爆発すると同時に、乾軍の重要戦力である人物が帰ってきた。
「マスター戻りました」
「エーリカ、ちょうどいい、そこにいる奴を城から追い出せ!」
エーリカさんは見下ろす形で扉のすぐ前にいた俺とオリオンを見る。
エーリカさんは間近で見ると背高い。
高いヒールをはいてるのもあるけど、本人自体の身長が高い。そしておっぱいでかい。
わりと高校生男子としては平均くらいのはずなのだが、ヒールを入れたら余裕の180超えのエーリカさんを見上げる。
「こんにちは」
「こんにちは」
両者で会釈する、ちょっと和んだ。
「なにやってんだよ、追いだせって言ってんだろ! それとブロンテス王の融資の話どうなったんだよ!」
「すみません、頼みごとをするときに本人がいないのは話にならないと門前払いをくらってしまった」
「はぁっ!? あのクソ野郎、どうでもいい時にはほいほいきてやがったのに、いきなり手の平返しやがって!」
乾は怒り心頭しながら、今度はソファーを蹴りとばす。
「ダーリンあんまカッカしないで」
「くそくそくそブロンテスがダメなら後がないじゃないか、くそ、エーリカお前ほんと使えないな! それでもEXかよ!」
「すみません」
「すみませんじゃないんだよ! 何がEXだ、僕の役に立たないEXなんてゴミといっしょなんだよ!」
「すみません」
エーリカさんはただすみませんと八つ当たりする乾に耐えるだけだった。
「お前いい加減に……」
俺が口を挟もうとすると、エーリカさんは俺の服の袖をつかみ頭を振った。
くそっ、そんなことされたら何も言えないじゃないか。
「とにかく出てけ! お前の顔なんて二度と見たくない!」
俺達は怒り心頭の乾に城の外に追い出され、腕組みしながらどうしたもんかと考える。
「もういいじゃん、ここ勝手に滅びるよ」
「俺もそう思うが、知り合いがむざむざ死ぬのを放置するのはな」
「人良すぎ、あたしは帰る。あんなの助けても何の得にもならない」
仕方ないと、俺もオリオンを追って今日のところは自城へと帰ることにした。
その様子を見送るエーリカの姿があった。
彼女の網膜には自分のバイタルや、残存魔力、鎧の各部ステータスが映し出されており、ターゲットにされている勇咲にはグリーンの円が彼の体をロックしている。
エーリカは小さくため息をついて視線を動かす。すると昔の写真が映し出されるのだった。
彼女にカメラなどは必要なく、自分の目で見た情報を保存したいと思えばそのまま保存することが可能だった。
思い出なんてものに特に興味のないエーリカだったが、一つだけ自分の脳内に設定されたアルバムフォルダを開くと、そこにはずらっと並ぶ咲の画像が並んでいた。
「はぁっ……」
エーリカのため息は深く、どこかしら悩まし気だ。
そんな様子をリリィが隣で観察する。
「あんな王捨てて、さっさとあっちの王に鞍替えするにゃ。今なら誰も怒らないにゃ」
「いえ、私はあくまでマスターのもの。この命はマスター為に使うと召喚された時から決めているのです」
「難儀な性格にゃ。このままここにいても滅ぶのを待つだけにゃ」
「そうかもしれません……もし私が……いえ、もしの話はやめましょう」
「エーちゃん死ぬつもりにゃ。リリ知ってるにゃエーちゃんは自分の動力を暴走させて自爆することができるって」
「…………それしか選択肢がないときは、選ばざるをえないでしょう」
「馬鹿の為に命はるエーちゃんはもっとバカにゃ。命は軽くふっとばすもんじゃないにゃ」
「すいません」
しゅんと頭を垂れるエーリカの隣で腕を組むリリィ。そしてふぅっと大きめのため息を吐く。
「エーちゃんはなんであいつのこと好きなんだにゃ? エーちゃんの趣味をとやかく言うつもりはないけど、エーちゃんのスペックからしたらもっといい王がいるにゃ」
「えっ、す、好きってそんなんじゃ」
エーリカの網膜に映し出されている体温が急激に上昇し、不自然な体の変化にチェック機能が警告のメッセージを表示する。
「こんな時にそんな……」
「こんな時だからこそ話すにゃ」
リリィに促され、動揺からどもりながらも今でも深く覚えている彼との出会いをゆっくりと語るのだった。
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