第3話「霞の向こうの記憶」5—2
今度は、植物関係の図鑑や資料の並ぶ棚へ来たはいいが、場所は三階の一番奥だった。ここ辺りは専門書の棚が並んでおり、一般客がそうそう訪れる場所ではない。当然ながら人の気配もなく、ひっそりとした雰囲気が漂っていた。
「えぇっと、どの本がいいのかな」
「また手当たり次第にやってく?」
「うん、そうしようかなって思ってるんだけど」
「うーん、何と言うか二の舞になりそうな気もしないでもないのよね」
確かにそれは断言はできない――と、そこでカレンの脳裏にあることが掠めていった。
この図書館には、一般貸し出しには並べられない本や、厳重に保管しなくてはならない本などを所蔵している階がある。図書館の地下だ。そこなら、もっと詳しく記述されている書物があるに違いない。
「地下の図書室になら、もっと詳しい本があるかもしれないね」
「私もそう思ったけど……あそこって許可証がないと入れないんじゃない?」
「ルフィー先生に頼んで……」
「頼めるわけないでしょ? それこそアルトーノにかかってるんだから」
確かに、子供の姿に変わってしまったら使えるはずもない。いくら本人だと主張したとしても、信じてもらえはしないだろう。それに、許可証の譲渡は、その権利を剥奪され、厳しく罰せられる。ルフィーに借りてきてもらうという方法も、当然違法であり、同罪とされる。
二人はため息をつきながら、どうしようかと考え込む。図書館で本が見つからないなんて、今までなかった(読める読めないは別として)。思わぬことで立ち止まってしまった。
「ルイお兄ちゃんなら、何か知ってないかな」
「そうねぇ、あの秀才なら何か良い案をくれるかもしれないわ」
とりあえず何らかの打開策を求めるために、図書館を出てはライム雑貨店へと向かっていった。
ライム雑貨店の現店長であるルイは、エリス魔法学園を主席で卒業した実績を持っている。学園至上十本指に入る程の秀才なのである。その成績ならば、学園の教師になっていてもおかしくはない。
というのも、実は教師の誘いを彼は受けていたのだ。それにも関わらず彼はその誘いを、自分の店があるからと言って断っているのである。彼はそんな性格をしていた。
「こんにちは! ルイお兄ちゃん居る?」
「……あ、あぁ、ちょっと待っててね」
雑貨店に着きざま、無人の店内にカレンは彼を呼び出す。その声はいつものように嬉しそうに弾んでいた。このごろ、ルイと会うとご機嫌が良くなるらしい。
奥で何か作業をしていたのか、ほこりだらけになったルイが、苦笑しながらのそのそと出てきた。一体何をしていたのだろうか。
「あんた、どうしたの? 何かほこりっぽいわよ?」
「あぁ、探し物をしてたんだよ」
「えっ……ちょ、ちょっと、私のこと見て驚かない?」
思わずルイの姿を見て突っ込んでしまったが、そんなティンの不満にも似た声に、ルイはまるでその状況を把握しているかのように、すぐさま答えを出してきた。
「アルトーノの効果を中和する、薬の調合が載った参考書を探してるんだよ。君、ティンちゃんだよね?」
「え? どうして知ってるの? 私とティンと、それにシエルしか知らないのに」
「うん、シエルちゃんから聞いたんだよ。さっき店に来てね、ルフィー先生とティンちゃんが大変なことになってるって言ってたからさ」
どうしてか自分がかかっていることを言わなかったようだ。何はともあれ、特に症状が酷いのはルフィーだ(ある意味でシエルもそうだが)。早く処方を見つけなければならない。
しかし、ルイも先程からずっとその参考書を探しているらしいのだが、いくら探しても見つからないという。そんな為に、ルイはこれから図書館へ行こうとしていたらしい。でも、そこの書物は既にカレン達が下調べを済ませてしまっている。かといって、ルイが地下にある図書室の許可証を持っているかというと、そうでもない。実際、許可証を持っている者は少ない。
「とにかく、僕はもう少し奥を見てみるよ。ルミには家のほうを探してもらってるから」
そう言うなりルイは奥へと戻っていく。ルイの参考書がいつ見つかるかは分からない。残されたカレンはもう少し本を探してみるかどうか、再び頭を悩ませることになってしまった。
しかしそんな中、ティンはふとあることを思い出した。
――それは、今まで深く深く埋まっていたものが、水底から
ティンは不意に浮かび上がってくるものをたぐり寄せるように、声を上げていた。
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