その36「さっし」
「さて、そろそろ私も自分の目的を達成しないと。今度こそサヨナラね」
「あ、はい。すみません、引き止めた感じになってしまって」
「大丈夫よ。また今度、機会があればゆっくりとお話しましょう」
「は、はい! それはもう、是非!」
まさかあの吉田さんと、こうしてお知り合いになれるとはなあ。
こんな可愛らしい吉田さんと色々なお話ができれば、色々と捗りそうではある。
それにしても――秋田県にエルフの隠れ里が、かあ。
お隣の県が、ファンタジーな方々の居住地になっていたとは。
改めて考えてみても、突拍子も無い話だよなあ。
『秋田美人』ってよく聞くけれどさ。
これは、あくまで私のイメージだけれどね。
彼女達って、人並外れたレベルの美人が多い気がするのよね。
大学にも秋田から来ている子がいるんだけれどさ。
確かにどこか日本人離れした雰囲気と言うか、どこか西洋の血を感じると言うか。
もしかしてそれってさ。
吉田さんみたいなエルフと、人間が交わった結果の物なんじゃあ、ないよね?
まさかの秋田美人=ハーフエルフ、クオーター説?
※くどいようですが、この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは(ry
「ああ、そうそう。良いものがあるわ」
私がこりずに壮大な妄想を脳内で繰り広げ、発展させていると。
いつの間にか吉田さんが、『何か』を私に向かって差し出していた。
「はい、これ。自作PCの組み立てマニュアル」
彼女の手に握られていた冊子。
それは、ロリ系萌えキャラ少女のイラストが表紙に大々的に描かれた何かだった。
表紙には『はじめてのくみたて ~坊やだからさ~』と言うタイトル。
妙に赤い色の背景を下地に、デフォルメされた白鳥に乗った褐色肌の少女が描かれている。イラストの少女は、この店でも見かけたパソコンのパーツらしき物を両手に掲げていた。
更に、イラストの横には「大佐!(その組み立て方は)いけません!」と言う煽り文がつづられている。
えっと。
その。吉田さん?
なにそれ。
「イラストの見た目は気にしないで頂戴」
「はあ」
吉田さんは、どこか気不味そうな顔をしていた。
早く受け取れといった感じで、冊子を『んっ』と前に突き出している。
「……これ、このショップのマスコットキャラクターなのよ」
「マスコット」
マスコットキャラクターなのにさあ。
見ただけで普通の人が離れていきそうなのはどうなのかなあ。
このお店に独特なお客さんしかいない理由が、また一つ解った気がする。
「大佐――店長の趣味なの。あの人、真性のロリコンだから」
「マジですか危険人物じゃあないですか」←無意識に自分の事は棚に上げる。
「悪い人じゃあないんだけれどね。声とか凄くシブいし」
見た目ロリっ子な吉田さん。
そんな彼女にロリコンと言わしめる程の店長とは、一体何者なんだ。
「ただ、前に私に対して『凄い
「もうそれ、事案じゃあないですかね」
「とりあえず、歯ぁ食い縛らせて、
「意外と肉体派なんですね、吉田さん」
「断末魔のセリフは、涙を流しながら『これが若さか……』だったわね」
そんな人が店長で大丈夫なのか、この店は。
私は心の奥底で、もう二度とこんな店来ねえと誓うのであった。
「メモリがいれば、たぶん何事も無く組み立ては終わるでしょうけど。念の為に持っていくと良いわよ」
「へっ? わ、わたしがですか?」
ほげーっと、私と吉田さんのやり取りを眺めていたメモリさん。
唐突に自分の名前が呼ばれた事で、少女は驚いた様に目をパチクリとさせていた。
「え。それってどう言う――?」
パソコンを『おうち』としか思っていないメモリが?
メモリ自身も、なんで吉田さんがそんな事を言うのか解ってなさそうだし。
はたして、どう言う事なのだろうか。
「メモリ。シーピュに『相談』した時に、教えてもらった通りに、ね」
「シーピュちゃんに教えて……あっ」
メモリがハッとした顔をする。どうやら何かを思い出した様だ。
「は、はい。わたし、頑張るのです!」
そして小さな妖精少女は、どこか気合の感じられる声で、勢い良くそう述べた。
「メモリ? 一体何の事なの?」
「それは、秘密なのですよっ」
「ふふっ。後で嫌でも解ると思うわ」
吉田さんとメモリは顔を見合わせ、「ねー♪」と言いあっている。
対して全く話が飲み込めていない私。
私は、二人の愛らしいやり取りを、ポカンと眺めている事しかできなかった。
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