その15「そのころのようせいさん」





 メモリです。


 ようせいです。

 

 今日は『おおやさん』と一緒に、『だいがく大学』という場所に来ているのです。


 おおやさんは今、『こうぎ講義』を受けに行っています。

 わたしは、おおやさんが『こうぎ』からもどってくるのを待っているのです。

『だいがく』のお庭のような場所で、おおやさんのお帰りを待っています。

 ちょうどいい木があったので、その上でひなたぼっこをしていました。


 ところで、『こうぎ』って、何なのでしょう?

『こうぎかつどう』の『こうぎ』のことでしょうか?

 

 バンバンバンバンバンバンバン

 バン     バンバンバン

 バン (∩`・ω・) バンバン

  _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/

    \/___/ ̄ ̄


 ↑これのことですかね?


 なぁんて。ふっふっふ。

 わたし、ちゃあんと知っているのですよ。


 かんたんに言うと、『こうぎ』はお勉強のことらしいのです。

『だいがく』に来る前に、おおやさんが教えてくれたのです。

 えっへん。ちゃんと覚えていたのですよ。 


 ひざしが、とてもキモチ良いのです。

 今日はとっても良い天気で、そこまで寒くもありません。

 でも、わたしは今、とても『あんにゅい』で『なーばす』なのです。

 なぜならば……。


「また、失敗してしまったのです……」


 わたしは、おおやさんの『おうち』をこわしてしまったのですよ。

 おおやさん、顔には出さないけれど、目に見えて落ち込んでいたのです。

 わたしがあやまると、おおやさんは「気にしないで」と言ってくれたのです。

 とても、笑顔だったのです。

 本当におおやさんは、おやさしい方なのです。


 でも、やっぱりおおやさんは落ち込んでいたのです。

 その『しょうこ証拠』に、昨日はひとばん中、『カチカチ』が続いたのです。

 わたしはおうちのベッドの中で、カチカチを聞くことになったのです。

 とちゅうから、近所のイヌさんが、合いの手のようにワンワン吠えていたのです。


 とても『くーるCool』で『ぐるーびぃGroovy』な『せっしょんSession』だったのです。

 ギャラリー界も大盛り上がりでした。まさかの三千コンボイだったのです。

 今でも少し、耳のおくでカチカチ、ワンワンなっているのです。


 そのまま、次の日の朝になりました。


 おおやさんは『カードみたいな形のなにか』をポチポチとおしていたのです。

 どうやらそれで、だれかとお話をしていたようでした。

 そのあとおおやさんは「イヤッフー!」と、おおよろこびしていたのです。

 まるで、京都生まれのイタリア系アメリカ人みたいに、大はしゃぎだったのです。


 おおやさん、『ぱそこん』が、直るかもしれないと言っていたのですよ。

 わたしにはむずかしいお話でしたが、元気が戻ったみたいで良かったのです。


 でも、わたしはあんまり元気になれないのです。

 おうちを借りる妖精のわたしが、おおやさんのおうちをこわしてしまうなんて。

 とても『くつじょく屈辱』だったのです。

 

「なにか、おおやさんのお役にたちたいのです……」


 このままでは、妖精の『めんもくまるつぶれ面目丸潰れ』なのです。

 おおやさんに苦労ばかりかけたくはないですし。

 わたしも何か、おおやさんのお役にたてれば良いのですが。


「メモリ? メモリがいる」

「はいです?」


 だれかがわたしの名前を呼んでいます。


 わたしは、キョロキョロとあたりを見回しました。

 そして少しはなれた場所に、わたしは『おともだち』のすがたを見つけたのです。


「シーピュちゃん? あれ、どうしてココに?」


 おともだちの妖精の、『シーピュちゃん』が、すぐそばにいました。


 わたしと同じ、『妖精の里』出身の妖精です。

 青い色のかみがとてもキレイな、かわいい子なのですよ。

 少しだけ『ひとみしり』なのが『たまにきず玉に瑕』なのですが、とても頭の良い子なのです。

 わたしたちの里でも、いちばんの『しゅうさい秀才』と呼ばれていたのです。

 

「マスターの、付き添い」


 シーピュちゃんは、わたしよりも先におうちを見つけていたのです。

 今は彼女が『マスター』とよんでいる、おおやさんといっしょにくらしています。


「偶然なのです。わたしもおおやさんの付き添いなのですよ」

「おおやさん?」


 シーピュちゃんが、わたしのことばを聞いて、首をかしげました。

 そう言えば、まだだれにも、おうちが見つかったことを教えていなかったのです。


「わたしの住んでいるおうちの、おおやさんなのです!」

「そう。おうち、見つかったんだね」

「はいっ」


 うれしそうに、シーピュちゃんがわたしにほほえんでくれました。

 わたしもシーピュちゃんの笑顔を見て、うれしい気持ちになったのです。 


「ボクのマスターもメモリのこと、凄く心配していたから。教えたら喜ぶと思う」

「それでは後で、マスターさんにも『ごあいさつ』しないとですねー」

「うん。でも、今は少し、時期が悪いかも」


 シーピュちゃんが、少し困った顔をします。


「マスター、今、とても大切な事の最中で」

「そうなのですか?」

「締め切りが、迫っているんだって」

「しめ、きり?」


 しめきりって、なんでしょう?


「うん。今日の朝、電話が来て、それから凄く慌ててた」


 わたしの知らないことばがどんどん出てくるのです。

 やっぱりシーピュちゃんはすごいのです。とても物知りなのですよ。


「だから、今はマスター、忙しいと思う」

「そ、そうなのですか。なら、ごあいさつはまた今度ですね」

「うん。そうして貰えると、嬉しい」


 本当は、何が何やらわかりませんでしたが、シーピュちゃんのマスターさんがいそがしそうなのはわかりました。

 わたしも、もう少し『お勉強』しないとですね。


「シーピュちゃんのマスターさんは、今何をしているのです?」

「大学で、講義を受けてくるって」

「おおやさんと同じなのですね。おおやさんも『だいがくせい大学生』だから、『こうぎ講義』を受けてくるって言っていたのです」


 人間さんたちのあいだでは、『こうぎ』が『ぽぴゅらー』なのでしょうか。


「シーピュちゃんのマスターさんも、『だいがくせい大学生』なのですか?」

「うん」


 すごい『ぐうぜん』なのですね。

 シーピュちゃんのマスターさんも、とても良い人ですので、いつかおおやさんにも紹介してあげたいのです。


 しばらく、わたしとシーピュちゃんはいっしょにひなたぼっこをしていました。


 おおやさん、今は何をしているのでしょうかね。

 がんばって『お勉強』しているのでしょうか。


「メモリ、なんだか元気、ない?」

「へっ? な、何のことなのです?」


 シーピュちゃんがとつぜん、わたしにそんなことを言ってきたのです。


 なぜでしょう。

 わたし、いつもどおりにしていたのに。


「そ、そんな事はないのですよ? 元気だけが、わたしの『とりえ』なのです!」

「そう?」

「はい! そうですよ!」


 わたしは、げんきにお返事します。

 顔も、がんばって笑顔にしました。


 でも、シーピュちゃんのお顔は、くもったままでした。


 これはもう、完全にバレちゃっていますね。


「……やっぱり、シーピュちゃんは、ごまかせないのですね」


 シーピュちゃんは、とても『かんがするどい』のです。

 わたしがなやんでいたりすると、いつもこうして気にかけてくれるのです。

 だからわたしは、シーピュちゃんには『あたまがあがらない』のですよ。


「ボクで良いなら、話、聞くよ」

「はい、なのです……」


 そしてわたしは、シーピュちゃんに『そうだん』をはじめたのでした。



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