第12話 憂の一矢


一矢は下級生から、同級生から、上級生からも人気があった。


何故、自分が一矢から好かれるのか分からない、と憂は考え、兄の友達でたまたま会う機会が多いのと、きっとわたしの足が悪いから、特別に優しくしてくれるのだわ、と今までは気にしていなかった。。。


でも。。。


もうしばらく会いたくない。。。。


あの。。。一矢様。。。。


憂は桃の林を抜ける手前で、もうここで結構です、と一矢に言い、それから、今日のことは兄には。。。言わないで下さいね、と、言った。


わかりました。。。。


一矢はそう答え、でも、いずれにせよ、来週末には高崎に会う予定がありますから、と言った。


兄が良いと言おうが、ダメだ、と言おうが、あまり変わらない。。。。憂は、一矢があまりに積極的だから、むしろ逃げ出したかった。それに、いくら一矢が自分を好いたとしても、自分と一矢は釣り合わない。周りが黙っていないだろう。


さっき。。。怖かった。。。憂は身動き出来ないのに、にじり寄って来た一矢をなんだか怖い、と感じて、早く離れたかった。


今日はお招き頂いて。。。本当にありがとうございます。。。


憂はお辞儀をして、それから、今日のような日はさぞお忙しいことでしょうから、お席の後はそのまま、わたくしは失礼させてもらいますが、また来週に。。。。と言った。


一矢は、どうぞ今日は楽しんで行って下さい。。。お琴の演奏と、お華の社中のお華会も、あちらの離れに。。。日舞の生徒さんも来ているし。。。


庵とは逆の方向、受付の奥に離れはあった。この敷地内に、満山の住まいがあるわけでもないのだろうが、離れと言うからには、どこかに本館があるのだろう。でもそれは、桃の林のまだ奥なのか、実のところ分からなかった。

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