天ノ章

08/04/10:30――決めきれない何か

「よくわからんのだが――」

 と、おれされた珈琲コーヒーみながら、椅子いすすわるのでもなく、ショウケースにうつった無愛想ぶあいそうともおもえる自分じぶんかおかららし、カウンターにすわってキーをたたくすずへと視線しせんけた。

「つまり、どういうことだ?」

法律上ほうりつじょう、いろいろな面倒めんどうがあるらしいってことです」

「それはわかる。だが、これは関係かんけいがあるのか?」

「あたしは法律ほうりつくわしくないですから、なんともえないっスよ。ただ、夏休なつやすみもなかばってところで、生活せいかつやらなにやらの報告ほうこく義務ぎむ……といいますか、状況じょうきょう確認かくにんといいますか、そういう面談めんだん必要ひつようになるってことです」

 そのながれは理解りかいできる――。

 夏休なつやすちゅうだというのに、学校がっこうされているおれは、ひまつぶしもねて、すずのみせかおしていた。今日きょう個別こべつ面談めんだんとやらがあるらしく、学校がっこうでは教員きょういんとしての金代かなしろっており、おれはこれからかってはなしをするわけで。

儀礼的ぎれいてき部分ぶぶんもあるのだろうし、日常的にちじょうてきおなりょう生活せいかつしているおれが、わざわざ学校がっこうへとおもむいて金代かなしろわなくてはならない――という現状げんじょうについての理解りかいは、まあ、できている。しかし、天来てんらいむかっているらしいじゃないか。そこがよくわからん」

保護者ほごしゃわりってことじゃないんですかね?」

保護者ほごしゃだから……? そこへの理解りかいらんのか。どうも、ああなんだったか、そう、授業じゅぎょう参観さんかんだったか? 日本にっぽんにはそうした特有とくゆう行事ぎょうじもあるんだったな。おやよこからくちすのはどこでもあるはなしだが、保護者ほごしゃ同伴どうはんなんてのは、それこそ刑務所けいむしょからときむかえくらいなものじゃないのか……? 小学生ジュニアまでだぞ、おくむかえをしてくれるのは」

 小学生ジュニアだとて、アメリカじゃそんな現場げんばられたものならば、わらわれる。まだ親離おやばなれができていないのかと。

「あれじゃないですかね、自己申告じこしんこくてにならないから、とか」

「そんなものか……まあ、苦労くろうするのは天来てんらいだから、おれにすることでもないんだろうが」

「ちょっとはにしてあげたらどうっスか……?」

何故なぜだ?」

「なんでって……お世話せわになっているし?」

「――なるほど。おれがすずの世話せわけば、にするわけだな?」

「あー……」

「なんだその返事へんじは」

「なんでもないっス」

「まあいい、どうもおれ最後さいごまわされたらしくてな、まだ時間じかんはあるのだが――」

「ええ、でしょうね、おにいさんが一番いちばん面倒めんどうだとおもって、最後さいごまわしたんだとおもいます」

面倒めんどうなにもないだろうに。というか、すずもこの、なんだ、報告ほうこくとやらはもうえているのか?」

「あ、はい。昨日きのうわらせました。あたしの場合ばあいは、ほかのたちとちがって一人ひとりんでるじゃないですか」

「そういえば、そうだな。寮生りょうせいとはちがい、共同きょうどう生活せいかつおくっていない。……ん? 頻繁ひんぱんにこっちのりょうとまりにるのも、そういうことなのか?」

「はい、そうです。一人ひとりれることも必要ひつようですけど、だれもいないのとは意味合いみあいがわってきますから。だからわたし保護者ほごしゃ穂乃花ほのかさんになります。ただ、あたしはそういう理由りゆうもあって、みせ経営けいえい状況じょうきょうふくめ、つき一度いちど報告ほうこくしてますから」

苦労くろうしているのだな。おれにできることはない」

同情どうじょうもしてないっスね!」

がるな、いいから作業さぎょうつづけろ。ただの雑談ざつだんだろう」

「おにいさんがきっぱりうからですって……」

おれはいつもこんなものだ。というか、黒字くろじになっているか?」

「あー、一応いちおう宣伝せんでんねて、インストラクターなんかもやってるので、おおきなあかかかえてないですよ。一緒いっしょにやってた先輩せんぱいも、そこらはきっちりおしえてくれたんで」

「そういえば、二人ふたりでやっていたんだったな」

「はい、去年きょねんまではそうです。といっても、ボードが配備はいびされた二年前にねんまえから、ですけどね」

 それは当然とうぜんだろう――が。

いてはいなかったが、その先輩せんぱいとやらは卒業そつぎょうしたんだろう? 名前なまえは?」

「あ、はい。卒業後そつぎょうごなにしてんのか、あたしはらないんですけどね。フルネームはちょっとわかんないんですけど、キサラギさんってんでました」

「そうか」

 ……そうか、やはり、そうなんだろうな。

いたいとおもうものか?」

「どうでしょうねえ。いまはいないので、たよれないし、あたしがやんなくちゃいけないんで」

前向まえむきで結構けっこうだが、おれはそう簡単かんたんかねとさんぞ」

「あたしがなんか悪徳あくとく商人しょうにんみたいにこえるんですけど?」

「その証明しょうめいは、非常ひじょう困難こんなんで、おれには無理むりだ。すまん……」

「なんであやまられるのかがわかんないですけど⁉」

「だから、つな。つづけろ」

「はあ……」

「ま、そろそろ時間じかんになるだろう。はなしわせてわるかったな。それと珈琲コーヒーをありがとう」

「いえいえ、あたしもそんなにいそがしくなかったんで。またてください」

「ああ、いたらな」

 カウンターのよこにカップをき、おれはそのままそとた。今日きょう晴天せいてん日差ひざしもあってなかなかあつい。こんなとき待機たいき時間じかんはパンツ一丁いっちょう寝転ねころがっていたものだが、あれはいつのころだったろう。さすがにすべてをおぼえているわけでもなし、だ。

 おぼえていないからこそ、おれ毎晩まいばんうなされるわけだが。

 まちからなら、学校がっこうはすぐそこだ。正面しょうめんからはいって、下駄箱げたばこにある便所べんじょスリッパのような上履うわばきにえてなかへ。夏休なつやすみということもあって、ひと気配けはいがなく、シンとしずまりかえったこの場所ばしょは、忠犬ちゅうけんころ使つかっていた宿舎しゅくしゃ彷彿ほうふつとさせられる。さすがにこれだけのひろさはなかったが、人気ひとけがないのは共通きょうつうしていた。

 おれ配属はいぞくされた教室きょうしつかえば、廊下ろうかには椅子いすふたつあるだけで、だれもいない。さてとのぞいてみれば、なかには金代かなしろ天来てんらい雑談ざつだんをしていた。

「――おう、たか不知火しらぬい

「ご苦労くろうだな金代かなしろ。それで?」

「それなんだが、校長こうちょうがおまえをご指名しめいだ。そっちにってくれ」

「……なんだと?」

 いつからここは、指名制しめいせいになった?

実際じっさい、おまえのことはだいたいわかってるし、わたしとの面談めんだんなんて必要ひつようないだろ。それでも形式的けいしきてきなものはすべきだ、とおもってんだんだが、どうせわたし報告ほうこく校長こうちょうとおす。だったら直接ちょくせつやったってかまわないだろうと、そうわれてな」

適当てきとう理由りゆうをでっちげか……」

「わかるか。まあ、そういうことだ」

うえ命令めいれい従順じゅうじゅん中間ちゅうかん管理かんりしょくつらいところだな、金代かなしろおれはまったく理解りかいしめさないが。それにまわされるのはいつだってしただ」

「そううなって。穂乃花ほのか、ついてけ」

「――へ⁉ わたしもなんですか!」

「そうだけど、ってなかったっけ、わたし

ってませんよ!」

「それはつまり、いやいや仕方しかたがないので、辞退じたいしますと、おれからつたえておけばいいのか?」

きますけど!」

「そうか。……、まあいい。文句もんくはあのたぬきう。くぞ天来てんらい

「あ、はい」

 普段ふだんとはちがってエプロンもしておらず、外行そといきの服装ふくそうをしている天来てんらいるのは、なんというかめずらしいので、それなりにおもうところもあるが、それをくちしたらけのようながする。なんだろう、スーツを選択せんたくしなかったことに理由ワケがあるのか、このおんなは。

 どうせわりだと、職員室しょくいんしつまでは金代かなしろもついてきた。そのとなりにある校長室こうちょうしつまえけば、自然しぜん天来てんらい周囲しゅうい配置はいちされているだろう監視かんしカメラの位置いち確認かくにんするのをて、苦笑くしょうひとつ。

廊下ろうかにはついていない」

「え? あ、はい、そうですか」

とびらひらくと上部じょうぶひとつ。内部ないぶはいった背中せなかがわひとつだ」

「……やっぱり確認かくにんみなんですね」

「たしなみだ」

 ノックをしてなかはいる。正面しょうめん事務じむづくえすわっているおとこ校長こうちょう前崎まえざきで、そのとなりには――。

「クソ鬱陶うっとうしいブロンドおんなか……」

「んなっ⁉」

「ふん。――おい前崎まえざきたぞ。そういうおんな趣味しゅみなのはよくわかったから、とっととみせかえしたらどうなんだ?」

「ははは、面白おもしろいね、不知火しらぬいくん」

「イラつくものをまえかれれば、だれだってこういう態度たいどになる。それともなにか、おれもこのおんなりない胸元むなもとみながらはなしをしろとでも?」

「ちょっ、なんでわたしにまたが⁉」

 がりがりとあたまいて、おれはソファへすわる。あしみ、ためいきとし、かたまわし、にらむように視線しせんげ、そして。

「……前崎まえざき煙草たばこいいか」

「どうぞ、かまわないよ。――そんなにメイリスがきらいなのか?」

きらいじゃない。むかしった上官じょうかん再会さいかいしたとき、かつてやられたことが脳裏のうりをよぎれば、こういうツラになる。――ひさしぶりだな、メイリス。まだきてたかクソッタレ」

 えば、ブロンドおんなことメイファル・イーク・リスコットンは仕方しかたなさそうに苦笑くしょうする。

「ほんとにあんたは……まあ、きてたみたいで、ちょっと安心あんしんしたけどね」

「おまえ心配しんぱいされるようなことはなにひとつとしてない。おい天来てんらいはやとなりすわれ。胸元むなもとけなくてもいい」

「はあ……あ、失礼しつれいしました。はじめまして、天来てんらい穂乃花ほのかです」

「よろしく。メイリスよ」

「はい。お名前なまえだけはいています」

「あらそう。んー……ま、いっか。ルイはどう? ちゃんとやってる?」

「はい、うちでは問題もんだいなくやっています。もかかりませんし、風呂場ふろばのぞきません」

おれはいっているのに乱入らんにゅうしてくるのは金代かなしろくらいなものだ。そんなはなしをしにたのか? おい前崎まえざき前回ぜんかいけんならおれ上官じょうかんがすべてかたづけたはずだが?」

「ああ、そちらのけんかんしては、片付かたづいているよ。といっても、おれなにもしていないし、掃除そうじまできちんとわらせたから、表向おもてむきは〝なにもなかった〟でんだはなしだね」

「……すまなかったな。あんたがせば、もっとはやくにわっただろう」

かまわないよ、結果的けっかてき被害ひがいていないからね。こういうことがつづかなければ、いとはおもう」

同感どうかんだな。なんのために、こんなところまであしはこんで、のんびりと生活せいかつしているのか、わからなくなる」

「できているか?」

一応いちおうな」

りないものは、あるかな」

つねに、なにかがりないほうが、ひとにとってはい」

「なるほど」

「……あんたって、本当ほんとうにそういうところ、わらないわねえ」

 おまえすこわったらどうなんだ、とおもったが、おれ煙草たばこける。あたまがらない相手あいてだとはおもっていないが、現実げんじつおれ彼女かのじょから狙撃スナイプのイロハをまなんだのだ。弟子でしとはわずとも、まあ、なんというか――複雑ふくざつである。できればいたくなかった。

「そういうあんたは、なにをしにたんだ」

「え? そりゃ……かんなぎさんにいに。もちろん、ルイのことも心配しんぱいして」

最後さいご部分ぶぶんがついていなけりゃ、おれもハッピーなんだけどな」

「なによう」

「そろそろ、あんたとやった訓練くんれん交代こうたいして、おれねらってやってもいいんだが?」

可愛かわいくないわねえ、あんたは」

ってろ。……前崎まえざき、いくつか確認かくにんしたい」

「どうした?」

「このナナネからったもの把握はあくしているはずだが、進路しんろ関連かんれんしたつながりもあるのか?」

「あるにはあるが、そちらはうすいよ。どちらかといえば、まねほうつながりがつよい。もしかして、きみやカゴメくんをここへさそったことにかんする情報じょうほうが?」

「いや、そのあたりはいい。ただ特定とくてい人数にんずう以上いじょうかかまないのは、処理しょり問題もんだいがあるからか?」

「――づいたか」

日本にっぽんにはどれだけの孤児こじがいるとおもっている。あんたが各地かくち孤児院こじいんってることくらいは調しらべてあるし、その全員ぜんいんがここへきているわけではない。選別せんべつ基準きじゅんなにかしらあるかと考察こうさつもしたが、まあ、そこはいいだろう」

「そうだね。実際じっさい基準きじゅんも、それなりにはある」

「あんたの意図いとこころざし否定ひていはしない。――、いや、やめておく」

「どうした」

たいしたことじゃない。むかしからのくせでな、まえされた情報じょうほうにはびつけないんだ」

なに勘繰かんぐっているのかはらないが、それならおれこたえることもないね。それとも、ここから算段さんだんでも?」

「まだ――それも、かなわない」

「そうか」

 そうだ、まだゆるされていない。

 おれのぞみは、かなわないものばかりだ。

正直しょうじきえば、きみのようなは、おれにはあまる」

「あんたの世話せわけてるはない。それは天来てんらい同様どうようだ。面倒めんどうだとおもうのならばればいい」

「さすがに、そういうわけにもいかないよ」

「だろうな。苦労くろうさっしてやるが――だとして? おれがこんな場所ばしょにまであしはこんだことを、さっしてくれてもいいものだが?」

「ははは、それもそうか。おれからは以上いじょうだ」

「そうか」

 だったらいいだろうと、煙草たばこしてがる。

今後こんごひかえてくれ」

「……ルイは、かんなぎさんのこと苦手にがて?」

「こうしておなにいるだけで、呼吸こきゅうのように内心ないしんさぐられるような相手あいてまえにして、どう警戒けいかいすればいいのか錯誤さくごしながら、適時てきじ対応たいうおうするおれ労力ろうりょくすこしはかんがえたらどうなんだ、クソおんな。――ESPエスパーへの対処たいしょは、現場げんばれとおそわってる」

「へえ……? 最初さいしょからガードがかたいとはおもっていたけれど、わかったのか?」

てわかるほどのものじゃないが、間近まぢかでやられればいぬならだれだってづく。以降いこう、やらなくなったとはいえ、それは、できないことと同義どうぎじゃない」

「まるで狩人ハンターのようなかただね、不知火しらぬいくん」

連中れんちゅうほどの錬度れんどはないさ。おい天来てんらい

「あ、はい。じゃあ、これで失礼しつれいします。またおりうかがいますね」

「ああうん、そうだね」

「じゃあなメイリス。現場げんば以外いがいじゃツラをたくないから、おぼえておけ」

「はいはい」

 本当ほんとうにわかってんのか、このクソおんなは。

 廊下ろうかてから、深呼吸しんこきゅうひとつして、おれ上半身じょうはんしんばす。あえてかたちからいてやれば、自然体しぜんたいもどった。

 まったく、不意打ふいうちでツラをせるなよ……。いまだに狙撃そげきうでいていないんだ、どんなツラでえばいいのかもわからない。本当ほんとうわるいんだ、あのブロンドは。

「ちっ、いまから装備そうびりにってあたまでもブチくか……?」

「あのう」

「ん、ああ、そういえばいたな、天来てんらいいまのはかなかったことにしてくれ、面倒めんどうだ」

「はあ……メイリスさんのことをきらってるわけじゃないんですよね?」

「どうだかな」

 ならんであるきだすが、一旦いったんわかれて下駄箱げたばこけ、そとでまたそろってあるく。

「まあいい、ご苦労くろうだったな天来てんらい

「いえいえー。……不知火しらぬいくんが一番いちばんつかれましたけどね、ええ、時間的じかんてきなものではなく」

「その文句もんく前崎まえざきたぬきえばかっただろうに」

えませんって。……あれ、ボードはってないんですね?」

「おまえ徒歩とほであることはいていたからな」

 そのくらいの気遣きづかいはするし、そもそも登校時とうこうじにボードを使つかったおぼえはない。

「……ん、ああ、そうか。天来てんらい、おまえ野雨のざめについてなにっているか?」

「はい、愛知県あいちけん野雨市のざめしですね。こちらへまえ数ヶ月すうかげつだけ滞在たいざいしましたが、ちょっとむずかしい場所ばしょです」

むずかしい?」

わたしかんじたものを一言ひとことあらわせば、――乱雑らんざつという整理せいりされている場所ばしょです」

「ほう……表現ひょうげんだな」

 矛盾むじゅんのようにもおもえるが、それがっているという状況じょうきょう想定そうていできるし、それが想定そうていでしかなく、実現じつげんおれには不可能ふかのうであることも理解りかいできた。

「ところで天来てんらい貴様きさま夏休なつやすみをったらどうなんだ?」

「はい? 普段ふだんからそれなりにやすんでますし、これもわたしのお仕事しごとですからね」

「ふん、かんおんなだとわれたことはないか?」

「えっと……あの、どういう意味いみでしょう」

十四日じゅうよっかから数日間すうじつかん時間じかんつくれ。軍曹殿ぐんそうどのより野雨のざめにある温泉おんせん旅館りょかんへの招待状しょうたいじょうとどいている。一緒いっしょい」

「……――はい⁉ わたしですか⁉」

「そうっている。たまにはいいだろう、自助じじょ努力どりょくうながせるとでもおもえば寮生りょうせいにとってもい。そして、――おれにとっても都合つごうい。いくつか調しらべたいこともある」

「はあ……えっと、おとまりですよね」

「そうだ。ああ、着替きがえなどの準備じゅんびはいらんぞ、現地げんち調達ちょうたつすればいいし、かねくらいおれしてやる」

「……ちょっとかんがえさせてもらってもかまわないですか?」

今夜こんやには返答へんとう寄越よこせ」

はやいですねえ」

覚悟かくごめなくてはならん、なんて先延さきのばしのわけきたくないからな」

「ちなみに、なに調しらべるんですか?」

「ん? ああ……〝かっこう〟の介入かいにゅうについてと、このナナネについて、すこ外側そとがわから俯瞰ふかんしたい。さらえば、おれもと同僚どうりょう野雨のざめにいるらしい情報じょうほういているからな。連中れんちゅううにしても、さすがにけいれてあるくわけにもいくまい。天来てんらいならば問題もんだいもなかろう。――おれのことについても、ることができるやもしれんぞ?」

「うーん……ナナネについて、ですか」

「そうだ。なに、さぐりをれているわけじゃない。この比較的ひかくてき安全あんぜんなのはっているし、それがどうつくられているかも、だいたいはわかっている。それでもいくつか確認かくにんはしておきたい。いざとなれば、別行動べつこうどうになっても、天来てんらいなら問題もんだいないだろう?」

「それはそうですけど」

「……なんだ貴様きさまなに不満ふまんだというんだ⁉」

「いきなり怒鳴どなられてもこまります!」

「ではなに問題もんだいだと?」

問題もんだいというか……どうして、いえ。――わたしでいいんですか?」

最初さいしょからそうっているが……?」

「あー、そういう意味いみじゃないんですけどね……」

 なんだこのおんなは、よくわからんな。まあいい、保険ほけんのようにほかのだれかをめておく、なんてのはおれ流儀りゅうぎにもはんするし、返事へんじちとしておこう。

 というか。

 どういうわけか、ことわ理由りゆうさがしているようにしかおもえないんだが、いやならいやで、どうしてこいつは、とっととことわらないんだ……?


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