第34話 走馬灯

しまった!

そう思ったときは遅かった。


ビルの建設現場。

男は作業中に足を滑らせ、墜落してしまったのだ。


ゴオッという風の音とともに周囲が猛スピードで流れていく。

死にたくない!

男はギュッと目をつぶった。


その脳裏を、これまでの人生がよぎる。

幼児の頃、小学生の頃、中学の頃、高校を中退してからのこと……。

ひとつひとつがとてもリアルな回想であった。


……我ながら、つまらない人生だな。

それが男の感想である。

死ぬ前に退屈な映画を長々と見せられても、腹が減るばかりで嬉しくもない。


それにしてもまだ落ちないのか?

男が恐る恐る薄目を開けてみると、落下していく先にはネットが張られているではないか。


助かるかもしれない!


男は運命に感謝した。

そして落下の衝撃に備えてギュッと目をつぶった。

その脳裏を、これまでの人生がよぎる……。


二階下のセーフティネットに落ちた彼はすぐに病院に搬送され、そこで死亡が確認された。



死因は餓死であった。

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