第33話 残影②

『ホントだってば!もうッ』


夢の中の妹はなぜかいつも小学生だ。

そこにはママがいて、パパがいた。

私はとても幸せなはずなのに、胸が苦しくなって目が覚めてしまう。


でも私はカラッポニンゲンだから涙は流れない。

ただ布団の中で丸まって朝を待つだけだ。


四十九日の法要が終わると、私はバスを乗り継いでここへ来た。

遠い昔に家族で来た海。

妹がずっと来たがっていた海。

あの日みんなが来るはずだった海……。


冷たい海水に首まで浸かると、私は海の底で魚に突つかれる死体を想像してみた。

海面がキラキラと眩しかった。

その光の上を大きな影が横切り、私は思わず空を見上げた。


そしてはっきり思い出した。

あのときの妹の言葉。


『ホントだってば、おっきな鯨がアタシの上を飛んでたのッ!』


その姿は鯨よりも古代の巨大魚に似ていた。

蒼穹をゆっくり泳ぐ彼女を、やがて雲が隠した。



その雲が赤くなり紫に変わっても、私のバカ涙はいっこうに止まってくれなかった。

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