第29話 ノックの音が

ノックの音がした。


青年は眉をひそめた。

彼はこの町に来たばかりで、知人などいない。


ノックの音がした。


彼は窓の外に目をやった。

殺風景な灰色の町。

そのあちらこちらに、みすぼらしい老人が座り込んでいた。


ノックの音がした。


ふと彼は思う。

この町にはなぜ老人しかいないのだろう?

その窓ガラスにも、うっすらと老人が映っている。

それは彼自身の姿であった。


「なんだこれは!」


彼が頭を抱えると、白い髪がごっそり抜け落ちた。

その服もまた、まるで花が萎れるようにみるみる古びていく。


ノックの音がした。


彼は慌てて部屋を飛び出した。

ドアを叩いていた老人は、彼を見ると悲しそうに首を振り去っていった。


老人となった彼はしばらく呆然と座り込んでいた。

やがて彼の部屋には新たな住人がやってきた。


「ああ、いけない」


このままでは、あの若者もまた部屋に若さを吸いとられてしまう。

彼は若者のために重い腰を上げ、そのドアを叩いた。



ノックの音がした。

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