第29話 ノックの音が
ノックの音がした。
青年は眉をひそめた。
彼はこの町に来たばかりで、知人などいない。
ノックの音がした。
彼は窓の外に目をやった。
殺風景な灰色の町。
そのあちらこちらに、みすぼらしい老人が座り込んでいた。
ノックの音がした。
ふと彼は思う。
この町にはなぜ老人しかいないのだろう?
その窓ガラスにも、うっすらと老人が映っている。
それは彼自身の姿であった。
「なんだこれは!」
彼が頭を抱えると、白い髪がごっそり抜け落ちた。
その服もまた、まるで花が萎れるようにみるみる古びていく。
ノックの音がした。
彼は慌てて部屋を飛び出した。
ドアを叩いていた老人は、彼を見ると悲しそうに首を振り去っていった。
老人となった彼はしばらく呆然と座り込んでいた。
やがて彼の部屋には新たな住人がやってきた。
「ああ、いけない」
このままでは、あの若者もまた部屋に若さを吸いとられてしまう。
彼は若者のために重い腰を上げ、そのドアを叩いた。
ノックの音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます