大丈夫だよ
「行け、スクナ」
「う……行ってくるね」
「ああ」
そろそろとスニーカーでぺきぺきとガラス片を踏みながら、遊子に近づく。白銀の騎士たちはスクナに向かって軽く頭を下げていた。彼らの主はユティーであるが、ユティーの主はスクナなので、そのためだろう。
遊子の前まで来ると、すっかり大人しくならざるをえない遊子に目を合わせ、スクナは問うた。
「汝の持ちたる謎を問う」
遊子の身体がかたかたと小刻みに震えだす。苦し気に身をくねらそうとするものの、剣に阻まれて身動きは出来ない。
やがて、びくんとひときわ大きく震え。耐えきれなくなったかのように、瞳孔の細い、金の目を見開いてスクナ脳裏に言葉を伝えた。
『頭は魚、身体は動物、でも本当は花。この花なあに?』
幼い少女の声で、スクナの頭越しに遊子は問うた。
あきらめたような響きの中に、本当に微かに期待を持って、スクナに語り掛けた。それに優しく笑って、考えるためにスクナは目を閉じた。だからスクナは、笑いかけられた遊子が目を見開いたのを知らない。
(頭は魚、身体は動物。でも花。花……薔薇とか? 水仙とか? ひまわり、ハイビスカス。……違うな。考えて、ヒントはいつも日常の中に転がってるじゃないか。そう、今日見た花があっただろ。朝は受付で花束を見て、昼は……そう。「絆」、チナミ班長の、蔵書印が……)
ぱちりと目を開く。今までの中で一番早かったと思う。よかった、これで遊子を長く苦しめなくて済むとスクナはほっと息を吐き出した。そんなスクナを、遊子は瞳孔の細い瞳を不安に揺らしながら見ていた。それにもう一度スクナは笑いかける。大丈夫だよ、と意味を込めて。
「紫陽花!」
『正解』
ふわりと甘くていい匂いがスクナの鼻をかすめる。
白く視界を染め上げる光が、遊子の身体からあふれ出る。それでもスクナとユティーの目を焼かないその光の中。黒いしがらみがほどけるように光の下に溶けていくのをスクナはしっかりと見ていた。
そこに残ったのは、5、6歳の小さな女の子だった。頭には白い紫陽花をさして、肩までしかない髪を揺らしながら。真っ白のフリルのたくさん入った可愛らしいドレスを身に着けた少女。その子は不安そうにスクナを見上げながら、問いかけた。
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