派手
「さて、君。リストにも載せたがスーツは持っているのかね?」
「あ、はい。入学式に着たのがあります。自分が行こうとしていた高校、私服制だったんで」
「……そうかい。ではそれを持ってきたまえ」
「あ……でも」
「でも?」
「少し、派手なんです」
「派手?」
目の前の幼げな少年から派手なスーツのイメージが全くできなくて、チナミは首を傾げる。スーツに着られていると言った方が似合いそうな少年が派手? チナミはぱちぱちと目を瞬かせる。長いまつ毛がふるふると震えて、落ちてしまうのではないかとスクナは思った。だんだん反応が似てきている上司と部下だ。
同じ釜の飯も食っていないのに不思議だ。
どこか気まずげな様子は、入学式で何かあったのか。悪戯心の赴くまま、チナミは聞いてみた。
「入学式で何かあったのかね?」
「えーと、スーツで指名されちゃって。『薄紫のシャツを着た君』って」
「それは……しかし薄紫か。スーツ自体はどんな色なんだね?」
「紺です。あ、スーツが派手なんじゃなくてシャツが派手なんです。……買い直した方がいいですか?」
「いや、私もこの服で出席予定だからね。ちょうどいいんじゃないか」
フリルあふれる甘ロリータと薄紫のシャツの紺のスーツ。まあ相性は悪くないだろう。
目立つか目立たないかは別にして。どっちも派手だ。
うんと首を縦に振ったチナミに、スクナは安心したように胸に手を当て、ほっと息をついた。いまさらたった1回のためだけに買い直すのは面倒だ。
「よかった。ユティーが見立ててくれたんですけど、1回でもう着なくなっちゃうかと思ってました」
「それは……悪かったね」
「……? なんでチナミ班長が……あ、違います! チナミ班長は悪くないですよ! というか誰も悪くありませんし! 魔法省って私服制じゃないですか。だからもったいないなって思っただけで!」
チナミが申し訳なさそうに謝ったことに、あわててそういう意味……遠回しな嫌味のつもりはないと手を横に振る。あまりに勢い良く振りすぎて椅子がぎしぎしと鳴いた。
それに苦笑して、チナミはもう一度すまなかったねと詫びた。
いいえ! と恐縮したように返して、スクナはふにゃりと顔を崩した。
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