昼休憩

 そこからまた、本を棚に戻す作業を再開する。

 本を床に積み上げながら、見るからに重そうな本、広辞苑の類のものを両手で数冊抱えながら階段を昇るスクナを見る。頑張っているのはわかるが、その両腕はぷるぷると震えているのが見えて、チナミは思わず光のさんさんと降る天窓を見上げた。


「明日は筋肉痛かな?」

「え? なにか言いましたー?」

「いや、別に。何でもないさ」


 思ったよりも独り言をつぶやく声は大きかったらしい。スクナの靴音とチナミとスクナの衣ずれの音、本棚へ戻すときの音以外は静かな図書館だ。響いたのかもしれない。いや、ただたんにスクナの耳が良すぎるという案も捨てきれはしないが。

 別に。何でもないというようにひらひら手を振ると、了解と言わんばかりにこっくりと頷いて、元の作業に戻っていったスクナだった。


 返し続けて本棚の1/4が埋まった時、昼休憩を告げる鐘が鳴った。

 持っていた最後の一冊を本棚にしまい、チナミの側へと歩いて戻って来たスクナは両手足が悲鳴を上げるままに椅子に腰かけ、長机の上に両腕を伸ばした。


「お、終わったぁ」

「まだ昼だがな。君、どうする。私は弁当屋に行くが」

「あ、自分お弁当忘れちゃったんでご一緒してもいいですか?」

「構わんよ。珍しいな、君が忘れ物なんて」

「朝まで気絶してて……」

「ああ、なるほど」


 身体を長テーブルに預けながら遠い目で明後日の方向を向いたスクナに、チナミは納得したように、手をぽんっと打ってみせた。

 とんだ災難である。

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