憩いの森公園
憩いの森公園。
魔法省と同じ四方を壁で囲まれた結界領域内にあり、樹皮や新芽の膨れ上がるような若々しい豊かな緑の香りと、野鳥のさえずりが気持ちのいい自然公園。
公園と言っても遊具などはなく、その代わりに四季折々の花が咲き乱れ豊かな自然の美しいそこ。
今の季節は散歩にするにはぴったりで、花のほかにも各地から集めた稀少な樹木も植わっている。
ブナやカシの生えた森は、春の日差しの柔らかな木漏れ日をレンガで舗装された道に落とす。その横には花壇があり、可憐に咲く花々の花弁に蜜蜂やテントウムシがとまっていた。
入り口近くには小川が流れていて、清らかな冷たい水の中で魚がぴちょんと跳ねては水面を揺らす。そよそよと風の気持ちのいい、憩いにふさわしい森の中。
レンガの道を行ったさらに奥、普段は観光客やピクニック客がよく利用する小高い丘の上に。
ゆうに3mはある大きな体は全身黒の毛並みに覆われており、小さな口から見える牙はのこぎりのようで小さな瞳は金色に輝き、太く短い手足には鋭い鉤爪。熊の形をとって、遊子はいた。
「があああああああ!!」
「くっそ、『汝が持ちたる謎を問う』!」
「おい、あいつ何度目だよ!」
「いまで3度目だ。本当に大丈夫なのか!?」
遊子の周囲はその大きな爪跡だらけで、ようやく芽生えてきたばかりの草花や芝生などの新芽は土ごと盛り返され、踏み荒らされ、無残に潰れていた。
絶叫を響かせながら爪を振り回し、暴れ回っている遊子を見ながら、例のごとく赤い鱗のドラゴン・アデルに乗ったチナミ班は現場へと到着した。
さすがに2回目ともなれば心の準備ができるのか、スクナは顔を青を通り越して真っ白にするだけで済んでいたが。
遊子の視界に入るところで着地したにもかかわらずスクナ達には目もくれず、ただその場で爪で空を裂き、怒号を発する遊子の前に立ちローブも着ずピンブローチすらつけていないまま問詩を叫ぶ青年が1人。
本来魔法師ではないものが問詩を問うことは許されない。それは悪戯に元の世界に帰れなくなる遊子を増やすことに他ならないからだ。もちろんスクナのように問詩を使わずに遊子と縁を結ぶ者もいるのだが、それはあくまで例外だ。本当なら、魔法省に入ってから先輩魔法師の下で問詩を使い謎を解くのが一般的なことなのである。
チナミがアデルに駆け寄ってきた警備隊と思われる青年に話しかける。
髪は汗で額に張り付き、荒い息をしながら駆け寄ってきた青年は遊子の鋭い爪に切り裂かれたのか、胸当てや肩当などが大きく切り裂かれていてそこから見える服も通り越し、肌に赤い線が走っているのが見えた。上着の袖やズボンも土で汚れており、全体的にボロボロだった。
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