第124話 ポケベルが残してくれたもの


2018年12月に、ポケベルが終了した。1990年代の後半に流行ったサービスで、お互い数字を送り合うことができるものだった。とはいえ、ポケベルは数字を受け取るだけの機能で送ることはできない。だから、僕たちは公衆電話からその番号を送りあった。


ポケベルはたくさんの思い出を僕たちにくれた。それまで、家には家庭の電話しかなかった。友人とコミュニケーションをする時は、そこに電話をするしかなかったのだ。家族がでることもあったし、それにそもそも家にいないとつながらないこともあった。


ポケベルはそんな問題を全部解決してくれた。外にいても受信できるし、「tel」と送れば、「今から電話するので電話でてね」という意味だった。僕たちがお互いに繋がり会えるようになった初めてのサービスだった。


1文字分を送り損なって暗号のようになった文字の羅列、笑顔マークを送れるようになった喜び、タイピング速度に負けない携帯の番号打ち。今では獅子舞やなまはげにもにた文化芸能のように思えるが、当時はそれが最先端だった。ポケベルに求められた「文章を12文字に収めるためのテクニック」に比べると、今の140文字なんて、無限のようだ。


ただ、ポケベルはなくなってしまうけれど、ポケベルの遺伝子は今でも引続がれている。そう、バイブ機能。メッセージが着信すると震えたポケベル。


あれから、PHSになっても、携帯になっても、スマートフォンになってもバイブが僕たちの着信の合図だった。もはや、お尻のポケットはそのバイブに敏感に気づくようになってしまった。あのバイブレーション機能を開発したのは、ポケベルの手柄だろう。


まるで車のエンジニアが、エンジンの音に敏感になるように、僕たちは、あのささやかな震えを手で、お尻で、ポケットでキャッチする。


まるで東京スカイツリーの耐震構造に、奈良の五重塔を感じるように、僕たちはあの震えの中にポケベルを思い出すのだ。

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