第67話 独り

雑踏の中を歩いていると、家族連れや学生たちが目に入る。あるいは、居酒屋のメニューを見る会社帰りの男たち、どこを目指すのかわからないけど小走りでかけていく少年たち、夜がきただけでも笑える青春真っ只中の女子高生たち。


そんな中でひとりで歩いていると、孤独が増幅される。「孤独は人の中にいる時こそ強く感じられる」というのは本当だ。独りでいる時の孤独なんて可愛いものだ。忙しくしていたらどこかにいく。


ただ町中の孤独は辛い。逃げようがない。


インターネットがない時代は、孤独の友はテレビだった。部屋で電気を消してテレビを見ていても、その狂騒が孤独をかき消してくれた。1995年には、「孤独の人たちに語りかけるテレビ」というモチーフのCM「フジテレビが、いるよ」がACC賞を受賞した時代だ。


「いまはインターネットができて、寂しくなくなった」という。しかし、それは嘘だ。インターネットでの繋がりは、結局、ネットワークを介した繋がりでしかない。そこにリアルのぬくもりがあるかどうかは、雲泥の差だ。


まさかインターネット中毒といえるほどもインターネットを生業にしてきた自分がこんな思いを持つなんて1年前までは想像もしていなかった。


しかし、恋人が去り、親が死んだ後で残ったのは、ただ孤独だった。


ただ、と男は考える。


- ただ、孤独は悪いものなのか。俺は孤独を恐れているだけではないのか。


週末の人が溢れる渋谷で歩幅の小さい男が歩をすすめる。


- 自分が孤独にしか生きれられないなら、この孤独をなんとか飼いならしてやる。


独りで道玄坂の焼肉屋を見上げる男。少し右手をこすりながら暖簾をくぐる。「独り」と人差し指を1本さして、男は店の中に消えていく。

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