第66話 しなくちゃいけないこと


三軒茶屋の三角地帯では平日というのに、多くのサラリーマンたちが酒を飲んでいる。


ある焼き鳥屋のテーブルでは、3人が赤ら顔で楽しそうに話をする。20代の女性が1人。30代の男性が2人。テーブルの上にはつくねとキャベツ。


会話は仕事の話から恋愛の話、そして、最近、熱中していることに話が続く。


「最近、筋トレ始めたんですよ。そしてビジネス書を毎日読むようにしたんですよ。するとそれだけで毎日2時間くらいかかっちゃって」


「わー。毎日、筋トレしてるですか。えらーい」


「サトシ。違う。お前は、それら以外に仕事もしてるだろ。すると、その日、こなさないといけないのがたくさん増える。そうすると、きりがないんだよ。終わらない。『あれもしなきゃ、これもしなきゃ』と、精神も休まらない。


明日からこうしろ。朝起きて、その日、1つだけやりとげることを決めるんだ。そして寝る前にそれがちゃんとできたかを思い返す。それができていたら安心して眠ればいい。きっと今までよりぐっすり眠れる」


「なるほど。シンプルでわかりやすいですが、他にしないといけないことはどうするんですかね?」


「その考え方が違うんだよ。世の中に、しなければいけないことなんてほとんどない。しなければいけないことなんて、恋をすることと人を大切にすることくらいだ。それ以外のことはほぼ誤差だ。


お前がしなきゃと思っているのは、勘違いだよ。だから、それが1個であろうと100個であろうと世の中はそんなに変わらないんだよ」


そうかもな、とサトシは思った。アケミも「なるほど」と思うと同時に「恋をしなきゃな」と思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る