第11話 鼻血が出たら死ぬ国

その国は、鼻血が出たら死ぬ国だった。鼻血が止まらずに、衰弱してしまう。温泉の湧き水のように鼻水が溢れ続けるのだ。とても怖い。


だから、人々は鼻血が出ないようにする。子供たちが鼻の穴に指を入れていたら、「なんてことをするんだ!!」とまるで体温計を飲み込む子供を叱るように、全力で叱る。過去にはその怒られ方が尋常じゃなさすぎてびっくりして指をそのまま鼻の奥まで突っ込んでしまって鼻血が出た子供もいる。親はとても悲しい。


できるだけ鼻プロテクターをかぶるようにという条例も出ている。日韓オリンピックの宮本選手のように黒いプロテクターを付ける人もいれば、女性はオシャレなゆるふわプロテクターを付ける。いずれにせよ、町中でぶつかる恐れは避けないといけないからだ。


お風呂でのぼせて鼻血を出してそのまま他界する人は冬に増える。モチを喉につまらせるがごとく、風呂で鼻血を出す。そのため、条例で、「風呂は40度まで。35度を超えると15分まで」ということが決められている地方もあるようだ。なお、これは10分と15分で議論したらしいが、15分派の方がかった。どうやら有権者に「風呂は10分以上はいらんと風呂といわん」という強行派がいたようだ。


しかし、これだけ気をつけていても鼻血が出ることはある。たとえば興奮した時だ。これは難しい。というのも「興奮するな」といっても興奮は止められないからだ。そのため、AVやアダルト漫画は、「順番を追って見るように」という性教育のステップが数年前から整備された。いきなり小学生はアダルトビデオを見ると鼻血を出しまくるからだ。ゆえに、最初は二次元のキスから始まり、最終的には、各々の子供が自分の性癖にたどり着くまで、親と社会が面倒を見る。これで「興奮鼻血」は減ったが、それでも、風俗では、興奮して鼻血を出す男が一定量いる。そういう人のために「興奮してきたらこれを読ませろ」という言葉にするのもおぞましいコンテンツが風俗店には用意され、それによって、「興奮度を下げる」という施策もされているようだ。


最近は「鼻血が出ても死なない国」への移民が増えている。もしあなたが鼻血がでても死なない国に生きているならば、それは神に感謝した方が良い。「興奮するな」とは、思ったより、あなたの人生を味気なくするものだから。

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