――拝啓、前世の両親、兄と妹、そして今までかかわってきた全ての人へ
――拝啓、親愛なる我が両親、そして兄と妹……否、この表現では色々と混ざってしまうので改めたほうがいいのかもしれないなぁ
では、改めて――拝啓”前世の”両親、そして”前の世界の”兄と妹、俺が新しくこの世界の生まれ落ちて、早くも三年の月日が経ちました。
いきなり三年も月日をすっ飛ばしてしまいましたが、はっきり言ってこの三年間において報告できることが殆どなかったというか……首もすわらぬ赤子の時期に自我が芽生えていても出来ることなどほとんどないわけで……むしろこれは何の羞恥プレイだと声を大にして叫びたいことは色々有りましたが、そこはまぁ、できれば聞かないでくれると俺の精神衛生上助かります――いやほんとマジで。
えふんっ……えー、それでは気を取り直して、前とは違うこの世界『イリオス』に父『ロニキス・ウェッジウッド』、母『イリス・ウェッジウッド』の子供として生まれ落ちて早三年。
もうなんというか、いきなりアメリカに――つまりいきなり違う言語体型の地域に――放り出されたような、感覚としてはそんな感じです。
いや、前の世界では日本で普通に生活をしていれば、中学高校と六年間も英語の授業を受けているわけですから、まだアメリカに放り出されたほうが優しいのかもしれませんが、あくまで心情としてはということで納得してくれると嬉しいです。
まぁ当たり前といえば当たり前なのでしょうが、生前に習得していた言語がこの世界で使えるはずも無く、はじめはこちらの世界の両親が何を言っているのか、本当に理解できませんでした。
ですが流石に三年と言う月日が流れて、かつ子供の柔らかい脳みそがあるというこの状況、さらにおまけで一応以前の世界で成人するまでの間に得たなけなしの知識が有りましたから――なんとか最近この世界の両親や街の人たちが何を言っているのかわかるようになってきました。
そんな中、今更ながらに分かったことがあります。
結論から言いますと――俺が新しく生まれ落ちたこの世界は、剣と魔法の世界みたいです。
この言葉を聞けば、何故そうだと言い切れるのか――そんなふうに問われるのかもしれません。
理由は勿論説明します。
まずは”剣”の部分。
これは割と早い段階で気がついていました。原因は、他でもないこの世界の父さんです。
なにせ、うちの父さんはほぼ毎日のように鞣した皮と局部を金属で仕立てた鎧を身にまとい、片手で扱える長さの直剣を腰につけて家を後にするのですから。
最近理解できるようになった両親の会話から、どうも父さんは街の兵士で、門番をしていることもわかりました。
兵士に門番、鎧に片手直剣――これだけの単語があれば見なくても、ここが剣の世界であることが容易に想像出来るでしょう?
そしてそして、要素のもう一つ”魔法”について。
これも実は労せず情報を得ることが出来ています。というかほぼ毎日のように目にしています。
使っている人はなんと、うちの母さんです。
――その様子にはじめは目を疑ったものです。
料理をするのに手から炎を出して薪に着火するは、なにやら言葉を紡いだと思ったらみるみるうちに鍋が水で満たされるは――もう訳が分かりません。
ですが、どうもこれは特別我が家で行われていることではないみたい――母さんに連れられて回った街中でも実は同じような光景があちこちで繰り広げられていました。
どうもこの世界では、魔法という物は誰しもが使うことのできる力であるようです。
そしてそして、そして――今だ使ったことはないけれど、どうやらこの力は俺にも使うことが出来るみたいです。
この世界の住人は一年に三回、決まった日にちを定期魔導属性測定日と定め、満三才をになる子供の魔導属性を測定するのだとか。
――そして来る明日はというと、先週で満三才になった俺の魔導属性の測定日。
魔導属性とは人が扱える魔法の種類のことをみたいで、下位の四属性、火、水、風、土から始まり、上位属性の雷、氷、空、金、変異種属性の剣、音など様々。
どれほどの属性が存在するかは未だに解明されていないみたいだけど、その中で普通の人は平均して三種類位の属性を宿しているとか。
参考としてうちの両親は、母さんが火、水、土の三種類、父さんが火、風、雷の三種類。
どれだけ多くの種類の魔導属性を持っているかがその人のステータスとなり、さらに上位属性や変異種属性があればあるほど、そのステータスは高くなるのだとか。
だから、この世界の人にとってしてみれば、魔導属性の測定はとてつもない重要な行事であると言い切ってしまっても、別段間違いじゃないのです。
まぁ、実際は魔導の属性以外にも色々なことを測定するみたいですけど、詳細は明日になってからのお楽しみ。
自分という人間にどんな可能性が眠っているのか――正直なところ気になって仕方がありません。
そのせいもあって、就寝時間だというのに俺の目は冴に冴えていて――実はちょっと困っています。
お前は遠足前の小学生かってツッコミを思わず入れてしまいそうになったけど、その表現でもあながち間違っていないのだからしょうがないのかもしれません。
事実今の俺は3歳児ですしね。
否否、例え3歳児でなかったとしても、未知なるモノであり、心躍るモノを目の前に置かれたら誰だってこんな心境になるんじゃないでしょうか?
と、とにかく、明日に差し支えてもいけないですし、そろそろ眠りに就こうと思います。
羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……羊が……おやすみなさーい。
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