暗闇の中には......
永生達の後に付いて歩いていると、左手に広範囲に広がる林が見えてきた。右手はマンションや一軒家が並び、時折住民の笑い声や話し声が聞こえてくる。
街灯や部屋の明かりで一帯を照らしているのに対し、左の林には人工の光が一切ない。今日は雲が少ない天候なので、月の光に照らされ輪郭はある程度は見えるが、それでも暗い部分が多く、林は闇を纏っていた。田舎なのか都会なのかよく分からない場所だ。
ちょうど今自分達が歩いている道路一本で区切ったように、左右の違いは一目瞭然だった。まるで意図的に残した、あるいは避けたかのようだ。
「ずいぶん風景が違いますね」
左右を見比べながら狭山が俺と同じ感想を言った。
「向こう側は地盤の関係とかで建設に不向きだったみたいだよ。だからこんな左右非対称みたいになったんだ」
相澤が狭山の疑問に答えた。
「へ~、そうなんですか」
「というか狭山さん、事前に調査してないんですか?」
「神社のことならともかく、その周辺の建設事情まで調べませんよ、北村さん」
まだまだですね、と言う北村に狭山が突っかかる様子を見ながら先へ進む。
しばらく歩くと途中に脇道が見え、永生が地図を確認する。どうやらその脇道を通るみたいだ。人一人しか歩けない幅で、尚且つボコボコしており、注意しながら歩かないと簡単に足を取られそうだった。月明かりがあるが正確に見えるほどではないので、永生を先頭に各自持参した懐中電灯で足元を照らしながら俺達は一列で歩いていった。そして少し開けた場所に出た。
何だ、ここ......?
どうやらここが林への入り口のようだが、俺は立ち尽くしていた。
目前には壁のような林が立ちはだかり、俺達を見下ろしていた。奥を見ても何も見えず、何もかも飲み込むのではないかという程の真っ暗な世界が広がっている。正に暗黒と表現するに相応しいほどの黒い空間が目の前にあった。
巨大な建造物といったモノに圧倒されることはあったが、雰囲気というか目に見えないモノに圧倒されるのは初めての経験だった。
他のみんなも同様なのか一言も口にせず、じっと林に目を向けたまま動かなかった。
「すごいな......」
しばらくして感嘆の声を発したのは相澤だった。その声で俺はハッ、として我に還り、他のみんなも同じだったようだった。
ほんの数秒だっただろうが、まるで長い時間立ち尽くしたかのような錯覚を覚えた。
「いやいや、これは予想を遥かに越えているな」
「そうですね。まさかここまでとは......」
「噂以上じゃないですか?」
「というより、全く別物のような感じがするな」
「たしかに、そうですね」
「この雰囲気......すごく神秘的ですね」
「ああ。これは大当たりだ」
「期待して良さそうですね」
「過去最高の場所なのは間違いないですね」
「やばい、テンション上がってきた」
相澤達がそれぞれ感想を言い合い、徐々に興奮してきているのがはっきりと目にできた。だが、俺だけは興奮することはなかった。
何だ? この感じ......。
相澤達の様子を見たあと、俺はもう一度林に目を向けた。
何か変だ。
そう語りかけている自分がいた。
どこが変かと聞かれても答えることはできない。直感でそう感じたので、具体的にどこがとは指摘できない。だが林を見ると何か悪寒のようなものを感じた。
これまで見たこともないくらいの暗闇を目にし、恐怖を抱いているのだろうか。たしかにその通りかもしれない。ずっと見ていると、暗闇が意思を持ったように俺に襲ってくる。触手のように伸びた何本もの暗闇が俺に向かってくる。そんなイメージが頭に浮かんだ。
それが恐怖と言うかもしれないが、俺はその表現に違和感があった。暗闇が怖い。いや、そうではない。暗闇の中にある何かに恐怖しているのだ。まるで暗闇に紛れ込んでいる別の何かに、俺の感覚が警告しているようだった。
気付いたら横にレイが姿を現しており、自分の身体を抱きしめ、瞳には恐怖の色が濃く出ていた。レイも何か感じているのだろう。
レイの様子からもこの林、もしくは暗闇に何か危険な匂いみたいなものを受けている。
一方の相澤達はこういったオカルトに興味がある人間だ。俺と同じような感覚を受けたかもしれないが、逆にそれが嬉しくて興奮し、顔が綻び、警戒心など持ち合わせていないように見えた。
何も起こらなければいい。
そう思いながら身体からの警戒反応に従い注意を抱く。そして興奮の治まった相澤達から声をかけられ、俺は彼らに近付いた。
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