オーラ
「へ~、今日でもう七回目なんですか」
「そう。こうして集まって心霊巡りをするのはね」
相澤達とはすぐに打ち解け、相澤がこの集まりの活動を話してくれながら俺達は目的地である林に向かっていた。
「普段はネットで会話と情報交換をしているんだけど、たまに実際に会って食事しながら話すこともするよ」
「なんか、ネットゲームのオフ会みたいですね」
「そんな感じだね。一回目の時なんかみんな緊張しっぱなしさ。どんな人が来るかなんて分からないからね。人見知りはしない性格なんだが、僕もその時はドキドキしたよ」
「あっ、私もそうでした。心臓爆発しそうなくらいドキドキしました」
「わ、私も」
横にいる唐澤と狭山が答えてきた。
「僕なんかみんなの存在に気付かずに周りをぐるぐる廻ってましたよ」
北村が恥ずかしそうに言ってきた。
「そうそう。僕と唐澤さん、狭山さんはすぐお互いに気付いたけど、君は最初気付かなかったよ。なにせ一人でウロウロしていたから」
「しょうがないじゃないですか。三人とも目印の十字架をしまっていたんですから」
集合場所を決め、相澤達はお互いが分かるようにネットで共通の十字架を購入し、それを目印にしていたそうだ。
「ごめん、ごめん。あの時は初めてだったから仲間の彼女達に会えて、ホッとしてついポケットにしまっちゃったんだ」
「全然見つからないから僕はあの時、本気で騙されたと思いましたよ」
「でも、君が何度も僕達の周りを行き来してくれてたから気付いたってのもあるんだけどね」
「最初に気付いたのはたしか狭山さんだったよね?」
「えっと、気付いたというか、さっきからグルグル廻っている変な人がいるなって」
「変!? そんな風に思ってたの!?」
「たしかに、北村さん挙動がおかしかったですよ」
「君らが十字架を見せていれば問題なかったんですよ!」
「まあまあ」
肩を叩きながら相澤が北村をなだめる。
「というか、僕よりも永生さんの方が変人じゃなかったでしたか?」
永生は少し先で、手元の地図を見ながら歩いていた。どうやらこちらの話は聞こえていないようだ。
「ああ、たしかにね」
「第一印象は悪かったですね」
「今はそんなことないですけど」
思い出すように遠い目をする四人。ずいぶん永生は最初の時は評判が悪かったようだ。
「何かしたんですか?」
「いや、何もしなかったのかな」
「.......はい?」
「いや、今言った集合場所に永生さんだけが中々来なくてね。集合時間の一時間近く経っても現れなかったんだ」
「一時間も......。よく待ちましたね」
「まあ、初めての集まりだし、気長に待とうとしたんだよ。でも......」
ああ、これはあれだろう。おもいっきり遅刻しといて謝るわけでもなく、さも当然のように登場したパターンなのだろう。
「永生さんは時間にルーズなんですね」
俺は自分の考えを伝えた。
「いや、その逆だよ」
「逆?」
「永生さんは既に集合場所に来ていたんですよ」
北村が呆れたように言った。
どうやら永生は集合時間一時間前から足を運び、みんなが来るのを待っていたらしい。
「しかも、僕達がネット仲間だと既に分かっていたらしいんです。でも僕達に声をかけず、じっと見ていたと」
「何でそんなことを?」
「見定めるため、だってさ」
「はい?」
「何でも自分は特別な力があり、僕達が会うに相応しい人間か観察していた、と言ってましたよね?」
「うん、そう言ってた」
北村の問いに相澤が答えた。
「超能力とかですか?」
「う~ん、彼が言うには......」
「霊視ですよ」
狭山が相澤の途中から割り込んだ。
「永生さんはその力が自分にあると言っていました」
「霊視って、霊を視るって字の?」
「はい。霊視は形のないものや視界に入らないものを視る能力と言われているので、幽霊を見れるのもその一種ですね」
「でも、彼の力は霊を見るのではなく、オーラを視ると言っていたよ」
「オーラ?」
相澤の言葉に疑問を浮かべる。
「彼が言うにはオーラというか、身体を覆う靄というか、それを視ることができるらしい。そのオーラは誰にでもある、と」
相澤が続けて説明した。
「僕も完璧に理解しているわけではないから何とも言えないけど、そのオーラは人によって色、質、量、形もバラバラで、同じオーラを持つ人はいないらしい。そのオーラからその人がどんな生活をしているか判断できるそうだ。例えば、明るい色なら幸せな生活、暗い色なら苦労がある、とかね」
「そこまで分かるんですか?」
「いや、全部とはいかないらしい。今のは例えで、実際はそのオーラからある程度の性格が判断できるぐらいだ。でも一つ確かなことは、過去に何かトラウマを抱えているかどうかは分かるらしい」
「トラウマ?」
「うん。トラウマを抱えている人間のオーラは共通した部分がある。永生さんはそれがあるかどうか僕達を観察していたそうだ。そして観察した結果問題ないと判断し、ようやく声をかけてきたんだ」
ちなみに、相澤は青、北村は黄色、唐澤は茶色、狭山は橙色に視えたそうだ。
「それがあったらどうなんですか?」
「彼が言うには、稀にそのトラウマを持った人のオーラが周りの人に悪影響を与えてしまうことがあるらしいんだ。そのせいで穏やかだった人が急に怒りっぽくなったりすることがあるんだとか」
人の性格は内部から形成されるのだが、今みたいにオーラが侵食され、持ち主の性格を変えてしまう。外部から影響を受け変化することもあるようだ。
「へ~、すごいですね」
「君は信じられるかい?」
「そうですね。ぶっちゃけるなら信じられませんね。でも......」
「でも?」
「今日初めて会ったから確証はありませんが、永生さんは冗談を言うような人には見えません」
「僕達も同じだよ。軽い冗談なら言うことはあるが、ここまで真剣に語る彼は嘘を言っているとは思えないんだ」
「そうですよね。永生さん、そんな性格じゃないですよね」
「私も、最近は信じ始めています」
唐澤と狭山が相澤に賛成する。
「それに、否定しようにもこちらも否定材料がないから完全否定もできませんしね」
北村が肩を透かす。
「北村さんは信じてないんですか?」
「何とも言えませんね。心から信じてはいませんが、今言ったみたいに完全に否定するつもりもありません。鵜呑みにはしないが頭に入れておく、といった所ですかね」
どちらとも言わない、中立の位置で留めているということか。
「お~い、みんな歩くの遅くないか~? 早く来いよ~」
話の本人である永生が前方から声をかけてきた。
「そうだ、森繁さんも視てもらったらどうですか?」
「え?」
「あっ、いいね。そうしよう」
唐澤の提案に相澤が同意した。
「で、でもいいんですか?」
「大丈夫、大丈夫。お~い、永生さ~ん」
背中を押されながら小走りで永生に追い付き、俺のオーラを視てくれと唐澤がお願いした。
「ああ、それならもう視たよ」
「えっ、もう視たんですか? それならそうと早く言ってくださいよ」
唐澤が永生を軽く小突く。
「でも、視たんなら何で教えてくれなかったんですか?」
「う~ん」
永生は狭山の問いにはすぐに答えず、顎に手をやり考え始めた。
「あの、永生さん?」
「もしかして、森繁さんにトラウマのオーラがあると?」
相澤の問いに場が一瞬緊張した。
俺、トラウマなんかあったっけ?
トラウマとは心に深く根付き、忘れたくても忘れられないものだったはずだ。記憶を探るがそれらしい思い出は浮かばなかった。
「いや、森繁さんにトラウマの類いはなかったよ。それは安心してくれ」
「なんだ。それならよかった」
俺も含め全員がホッと胸を撫で下ろした。しかし、永生はいまだに眉間に皺を寄せている。
「じゃあ、何がそんなに気になるんですか?」
永生の様子に唐澤が尋ねた。
「いや、こういったケースは初めてだからよく分からないんだけどね」
次いで永生の口からこう放たれた。
「森繁さんのオーラは二つあるんだよ」
「二つ?」
「普通一人につき一つのオーラを纏っているんだが、彼にはそのオーラが二つ存在しているんだ」
「どういうことですか?」
「どう言えばいいかな。彼のオーラの色は緑色なんだけど、全部じゃないんだ。九割は緑だけど、一割別の色があるんだよ。こう、白っぽい色がね」
「混ざっているだけじゃないんですか? ほら、永生さん言ってたじゃないですか。オーラは周りから影響を受けるって。他人のオーラが混ざったとかじゃ?」
「いや、これは外からじゃなくて内、つまり森繁さんの身体から出ているんだ。だけど混ざり合うわけでもなく、緑と白独自で存在しているんだ。この白は侵食するわけでも広がるわけでもなく、ひっそりとそこにいるんだよ。さらに白の方は緑に比べて極端に薄い。今にも消えそうなんだが、存在は大きく感じる」
「危なくないんですか?」
「それは大丈夫。この白からは全くと言っていいほど悪意が感じられない。むしろ守っているような印象を受けたよ」
「どういうことですか?」
「よく分からない。まあ、悪意が感じられないからほっといても平気だろうし、僕の勘違いかもしれないから気にしないでくれ。最近はこの力を使っていなかったから鈍っているんだと思う」
そう言って永生はまた先に歩き出した。今度は離れないように俺達も彼のペースで付いていき、オーラの話は終わり別の話をしながら歩いていった。
永生は分からないと言っていたが、俺には一つ心当たりがあった。
白のオーラ......。間違いなくレイのものだ。
俺に憑りつき、さらには一度身体にまで憑依されたことがある。それにより緑と白の二つが存在する、そんな現象が起きたのではないだろうか。
そして、白のオーラは俺を守っていると言っていた。それはつまり、レイが俺のことを守ってくれているということだ。
その事実に俺は嬉しくなり、同時に情けなくもなった。
俺は今日までほとんどレイの力になれていない気がしていた。いつまでも分からないレイの事件の犯人。警察ですら手掛かりが見つからない状態なのだから落ち込むことはないのかもしれないが、自分から力になると言っていながらその言葉通りの結果がいまだに見出だせていないことに、どこか後ろめたさがあった。
レイとは今日までよく喧嘩をしてきた。些細なことでよく反発しあっているが、事件のことでレイから文句を言われることはなかった。もちろん、早く調べに行けと急き立てられたりはするが、進展しないことに文句を言われたり罵られたことは一度もなかった。
もっと頑張らないと。レイの行為に見合うだけのことをしないと。
レイは俺の力の無さに文句も言わず、ましてや守ってくれていた。その事実を知り、俺はレイに反省をしながら感謝の気持ちを抱いた。
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