三.

 翌日、蓮子は登校するなり早速若菜にそのカップルについて訊いてみることにした。

「え? うーん、あたしもたまたま見かけただけだから詳しいことは分かんないよ。それにしても…そんなに気になるの?」

「えっ、えーと…まあね。美男美女のカップルって滅多にお目に掛かれないし」

 蓮子は咄嗟に、若菜に不審がられるのを防ぐ為の誤魔化しの言葉を口にした。若菜は特に気にすることなく納得し、繰り返し「分からなくてごめん」と言った。

『うーん、近いような遠いような…微妙な距離感だなあ』

 一方、お紺は学校に着くなり独り言が多いので、いい加減蓮子は辟易としてしまった。

『ちょっと、静かに探してくれない? うるさくてしょうがないよ!』

『ええい、なら早くその恋人どもを発見してよ!』

『これ以上は手掛かりないよ!』

 脳内で不毛な言い争いをしていると、やがて予鈴が鳴り、淡々と学校の一日は始まった。 



 難航するかに思われた〝謎の妖気探し〟であったが、午後にあっさりとその問題は解決する。それは移動教室で、蓮子が若菜と一緒に三階の廊下を歩いているときであった。

「…あ!」

『ああーっ!?』

 若菜とお紺は同時に叫び声を発したが、お紺の方が遥かに喧しかった。いずれにせよ、蓮子は突然のことに吃驚する。

「ど、どうしたの!?」

「いたよ! あんたが気にしていたカップル!」

「えっ!?」

 若菜に言われて、蓮子は若菜の指差す方向を注視する。前方約4メートル先に、腰くらいまでの黒髪の女子生徒と、周囲から抜きん出て背が高い男子生徒が歩いている。後ろ姿なので顔までは分からないが、何やら話しているようであった。

『…やっぱりあの二人だったんだ! 蓮子、もっとあの二人に近付いてよ!』

『はあ!? 無理だよ! 今移動教室中! それより、妖気が分かるあんたが二人の妖気を逃がさないようにしてよ!』

『…分かったよ、でも、あんたもなんとか二人のことを覚えておいてよね!』

『…はいはい』

「…ちょっと、どうしたの蓮子! ぼーっとしちゃって」

 若菜の声で蓮子の意識は現に帰る。蓮子はなんとか取り繕いつつも、何とか二人の後ろ姿を目に焼き付けておいた。

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