ヘル ~奇妙な三竦み
様々な思惑を含む戦いだが、共通しているのはヘルの生死である。ヘル本人以外はその
故にその矛先はまずヘルに向く。敵の能力を把握することは、どのような戦いにおいても重要だ。故に
ヘルが指揮する
「『ニブルヘイムの風』……。面倒な能力だな」
「
「失敗すればヘルから
輝彦、光正、そして則夫がヘルの第二の能力を前に偵察を躊躇する。軍勢の能力看破は重要だが、失敗すれば戦い前に傷を負う。それはあと後に響いてくるかもしれないのだ。
「……任せろ。俺が灯りを作る」
京一が指先に炎をともす。それはかすかな光。大雪の中に点る小さなマッチの火。その火が生む陽炎の中に、そのものが見たい幻影が写る。今神子たちが見たいヘルの軍勢の情報が。
「この灯があれば、皆も何かを知ることも容易いはずだ」
「……ほう。親神の
「ああ、望み通りにな」
輝彦の笑みに、変わらぬ口調で答える京一。輝彦の腹の中は読めているのだ。そして輝彦も、そうと分かっていてなお余裕を崩さない。
「『死爪の船』……あの
「その『屍者の軍勢』は……ふむ、
「『冷たき吐息』は……戦場全てに響き渡るんだな。まともに喰らうと
「拙者はやめておこう。ヘル以外に興味はない」
詳細な作戦を練る時間はない。ヘルに憑依された草間が手を振り上げる。その手に従うように、死者達が動き始めたのだ。
そして闘いが始まる。ヘルと、神統主義者と、そして『アテナの執行者』の三竦みの戦いが。
戦いの目的を個人別に書き出せばこんな所だ。
ヘルは『世界を死に染めたい』。神子達を排除するか、軍勢を進行させて死を振りまけばいい。
詩織は『怪物を排除したい』。ヘルと、そして京一を倒す。京一が怪物化するかどうかはまだわからないが、可能性は排除したい。
京一は『ヘルを倒し、草間を救いたい』。世界が死に染まるか、
輝彦は『京一を怪物化したい』。京一を生存させて、自分でヘルを倒して草間にトドメをさせばいい。そうすれば絶望し、怪物となるだろう。
光正は『世界を死に染めず、ヘルを倒したい』。草間の生死は関係ない。攻撃の際に手が狂えば、
そして則夫は――
「へっへっへ。ようやく会えたんだな、神山詩織たん」
「へ……? な、なに?」
則夫は詩織の方を向いて、指をさす。その先には――詩織の
「ブレザーに隠れてるけど僕にはわかるんだな。上から87-56-86の隠れ巨乳! 戦闘では激しく動くたびに胸が揺れるから、少しきつめにブラで押さえてるみたいなんだな。だから前の
「な、なに!? ちょっと、何を言い出すのよこの人!? 前の話とかなに!? エジプトってこんな人ばっかりなの!?」
胸を押さえてうろたえる詩織。
「ぐへへへへ! 執行者の神おっぱいゲットー! ひゃほーい!」
「きゃー! こ、こっち来ないで―!」
則夫に飛びかかられて、混乱する詩織。混乱に陥ったのはは
則夫の目的は『アテナの執行者の巨乳を堪能すること』。執行者を倒せればそれでよし。
(僕が『アテナの執行者』を押さえておくから……皆はそれぞれの目的を果たすんだな!)
などと目線で合図する則夫であった。
「……成程、飛山殿の目的は『アテナの執行者』でござったか。委細承知」
「うむ。どうあれ執行者の動きが止まっているのは僥倖。今のうちに動くぞ」
「すまん、神山さん。悪い人じゃないのはわかってるしすごく不憫とは思うが、今は助ける理由はない」
合図を受けた神統主義者は言ってヘルに向き直る。時間が経てば有利になるのは数の優位性を持つヘルなのだ。
死者達の雄叫びを合図に、戦いは幕を開けた。
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