第一四夜 カケと呼ばれる山
夢の話である。
I県K市の南西部には、山カケ、という二〇〇〇メートル級の岩山がある。地元では単に「カケ」とだけ呼ばれている。
「カケ」とは、山という意味で、その字は「回」偏に「久」と書く特殊な字である。
実際、カケは文字と同じく奇妙な形状をしている。多くのカケは、縦に長い台形に、同じく縦に幾条もの筋を螺旋状に通した形になっている。そして頂上はすっぱりと横に切れており、中心に向かって落ちくぼんで湖を形成しているのだ。
この地域では「カケ」はただの山よりも崇高な霊山の意味で扱われる。山カケ以外にも何々カケ、という山がいくつかあるが、この山カケはある研究の発表を契機としてその中でも有名となった。そしてやはり異質である。
ある研究とは、このような話である。
山に関する研究をしている歴史家がK市を訪れた時に、「カケに登った」という話を異様に強調して話す住民がいたことから、その歴史家が興味を持って山カケについて調査を始めた。
すると驚くべきことが分かった。いや、既に知られているものが再発見されたというべきだろうか。
山カケの山頂にある広大な湖の南西には、その湖の面積の五分の一程度を占める『山カケ町』という町がある。
山カケ町には大きな社があり、町の半分以上はその境内である。
住んでいる者は年かさの者が多く、高齢化が進んでいるかのように見える。しかし、この町では若者は一定の年齢を迎えると町の外に出されるという通過儀礼があり、町外で結婚し、子供が産まれると山カケに戻ってくるのだという。
歴史家が調査に訪れた際、子供たちの姿を見かけることはあまりなかったが、声は聞こえることがあるので確かに住んではいるのであろう。
調査ではちょうど祭りの時期であった。
祭りといっても派手な催しもなく、壮年以上の住民が広すぎる境内に集まり、荘厳な雰囲気の中で湖を背にした社に向かって礼拝を行うものである。日に照らされて輝く湖面と青空、そして乾いた土という単純な色合いが、人々の古代からの営みを美しく彩っている。
参加している住民たちの眼は活き活きとしていて、あるいは宗教的情熱にあふれており、どこか異様な空気を纏っていた。
歴史家はその様子をこう評した。
住民たちは町の外で生きていくことはできない。カケに生まれ、カケのために生き、カケの中で死ぬことを本望としている。それを生きる喜びとしているのだ、と。
(起床)
夢の話 You @Ihatov
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