最終話 冒険のおしまい

「みんな、入ったわねっ」


 全員が部屋に入ったのを確認すると、アイシアさんが震える体で前に出て来た。


「それで? シャノン様にでもドアを開けてもらうの?」


 もったいぶったやりとりがもどかしいのか、アイシアさんがしきり出した。


「そうですね。前に説明したのですが、もう一度お話しましょう。この部屋には特別な魔法がかけられております。わたし以外の魔法使いはこのドアを開けることができないのです。反対に、魔力のない者には簡単に開けることができます。……では、お手数ですがシャノン様、ドアを開けてみてください」

「あかないよ?」


 どうやらシャノン様は、この部屋の仕組みをわかっているらしい。


「そうなのですが、ものはためしです。さぁ、シャノン様、ドアが開いたらアイスクリームをさしあげますよっ」

「あけてみるぅ~!」


 アイスクリームにつられたシャノン様は、とことことドアまで歩いて行った。そして、小さくて可愛らしい手をドアにそえると、一生懸命回そうとした。けど、やっぱり、開かなかった。


「あかないよぉ」

「はい、シャノン様、ごほうびにアイスクリームをどうぞ」

「やったぁ! いちごのアイスクリームだぁ」


 シャノン様は、素直にアイスクリームを食べ始めた。ジェインさん、アイスでシャノン様をコントロールするとは、恐ろしい人……。


「それでは、次に、リリー様、ドアを開けてください」

「はい。わたくしでよろしければ」


 シャノン様が可愛らしくアイスを食べているのを穏やかに見守っていたリリーさんが、ドアノブを握る。がちゃりという音がして、ドアが開いた。


「それではお待ちかね、アイシアさん。どうぞ、ドアノブを回してください」

「まったく、余興が長いのよね」


 文句を言いながらも、嬉々としてドアへ向かうアイシアさん。袖をまくりあげると、ドアノブへ手をかける。がちゃり、という音がして、ドアが開いた。成功だ‼


「やったぁ。これであたしも一般人」

「どうやら、そのようね。アイシア、なんだか複雑な気持ちだけど、おめでとう」


 アイシアさんは、ルーさんと抱きあった。


「クローンは成功したようだな。ジョシュア、それにジェイン。後程報告書をまとめておくこと。この結果を待ちわびている者がたくさんいるのだ」

「はい、父上」

「承知いたしました、陛下」


 国王陛下に報告書をまとめるように命じられたジョシュアさんとジェインさんは、意気揚々とかしずいた。


「よかったですね、アイシアさん」

「ありがとう、ユイニャン」

「おめでとうございます、アイシアさん」

「ありがとう、ミカリン」


 そして、この時をアイシアさんとおなじくらい待ち望んでいたカナミア様が、目を赤く充血させて、アイシアさんに抱きついた。


「おめでとう、アイシア。これからも、わたくしのドレスを作ってね」

「もちろんです、カナミア様。だって、この人、ギャンブル依存症なんですよっ」

「え? 知ってたの?」

「やっぱり、みんな知ってたんだ」

「……おめでとうございます、アイシアさん」


 ギャンブル依存症なことをばらされてしまったジェインさんは、トゲのない真っ赤なバラを一本、アイシアさんにプレゼントした。うわぁ、ロマンチック。


「ありがとう。……いい? こんなのでだまされたりしないんだからねっ」

「わかってますよ」


 なごやかな空気に包まれている中で、あたしはジョシュアさんに肩を叩かれた。


「剣の稽古に行こうぜ」

「今?」

「ああ。この騒ぎ、いつまでも続きそうだ」


 よく見れば、とっくの昔にユイニャンとエリオット様はいちゃついているし、みんなそれぞれで騒ぎ出していた。それなら、あたし達がいなくてもかまわないかな?


「わかった」


 あたしは、ジョシュアさんの後について部屋を出た。


「成功してよかったね」


 あたしは興奮冷めやらぬまま、ジョシュアさんに言った。


「ああ。これからは、あの不気味な液体をどうやって飲みやすくするかを考えるんだ」

「まだまだやることがいっぱいあるんだ?」

「ああ。……だが、剣の稽古をする時間ぐらいなら、ある」

「……あたしも、あるよ」

「本当か? また、すっぽかしたりしないか?」

「しないよ。でも……、はっきり言ってくれなきゃ、あたしの冒険は終わらないよ」


 ジョシュアさんは、あたしの肩に手を置いた。


「どこにも行くな。おれの側にいてくれ。おまえが近くにいると、すべてがうまくいく気がするんだ」

「……どういうこと? もっと、はっきり言ってよ」


 ふわりと風にのって、ジョシュアさんの香りが鼻をくすぐる。ちょっと、意地悪だったかな?


「……他に気になる人がいると言ったろ? あれは、おまえのことだ、ミカリン」

「ウソ……」


 驚いて、頬が熱いよ。


「いつから?」

「おまえに、剣の稽古をした時から」

「そんなに前から?」


 しかも、よりによって、剣の稽古とは。


「ああ。で、おまえの答えは?」


 あたしははずかしくって、唇をかみしめた。ちゃんと、言わなきゃ。


「あ、あたしも。ずっとジョシュアさんのこと気になってた。でも、ジョシュアさんは、カナミア様を好きだと思っていたから、気持ちを押さえていたの」


 あたしが、正直な気持ちを言うと、ジョシュアさんはまぶしそうにはにかむ。


「そんな頃もあったからな。でも、今はちがう。なぁ、ミカリン。城にいてくれないか? そうすれば、いつでも会える」


 あたしは、よく考えて、首を左右にふった。


「なぜだ? 城がイヤなのか?」

「そうじゃないけど、なんか怖いよ。今までとちがう関係になりそうで……」

「ただ、側にいてくれればいいんだが」

「でもあたし、学校あるし」

「……そうだったな」

「だから、だから、ジョシュアさんが迎えに来て! ユイニャンをデートに誘うエリオット様みたいに」


 精一杯の勇気。もう、しぼり出せないよっ。


「……わかった。それならば、迎えに行く。バラの花束なんて、キザなことはしないからな」

「あと、剣の稽古なんて、ヤボな誘い方もしないで」


 ジョシュアさんがムッとして口をを閉ざす。やばい、怒ったかなぁ。


「ちゃんとデートに誘う。それならいいんだろう?」

「……うんっ」


 うれしさを満面の笑顔にたたえた。しあわせで胸がおしつぶされそう。




 あたしの冒険は、これで終わり。だけど、あたしの初恋は、まだ始まったばかり。


 どうなるのかわからないけど、今はしあわせで一杯だよ……。



 おしまい



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ミカリン・アールグレイの冒険 春川晴人 @haru-to

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