第43話 魔女狩り禁止令

 ユイニャンが普通の女の子に戻ってから数日後、ロイヤルミルクティ国を中心に、くらげ島での魔女狩りは正式に禁止されることになった。最強の魔女を見つけたこと、そして本人の意思により、薬草で魔力を完全に封じ込めることに成功したことも、同時に報告された。


 さらに、現在その薬草を量産するべく、クローンを開発中であることと、男女問わず、望む者には将来的に薬草をあたえることなどが約束された。


 これまで、狩りの的となっていた魔女たちは、魔女狩りを始めた王族を責めたが、ジョシュアさんが言っていたような最悪な事態はさけられた。元より、ジョセフ国王陛下の真摯な態度や、シャノン様が魔女であること、カナミア様が魔女をデザイナーで雇っていたこと、それに、エリオット様の恋人であるユイニャンが魔女だったことなどが噂となり、好感が持たれて大事には至らなかったのかもしれない。


 ユイニャンが普通の女の子に戻ったことで、あたし達はお城にいる理由がなくなった。


 ジョセフ国王陛下は、お城の外が落ち着くまで居ればよい、と言ってくださったけれど、晴れて恋人同士となったエリオット様は、一刻も早く、ユイニャンをレモンティ国のお城に案内したいとゆずらない。それでも、お城の厨房を借りて、ユイニャンの手料理を味わったエリオット様は、それ以上せかさなかった。


「なあ、剣の稽古でもしないか」


 突然、思い出したようにジョシュアさんに誘われた。


「これからは、エリオットの恋人ってことが理由で、ユイニャンが狙われる可能性もあるだろう?」

「その可能性はあるかな」

「半分、王族の仲間入りしたようなものだからな」

「そっかぁ。これからの方が大変なんだ……。わかった! 稽古つけて!」


 景気づけに大声で叫んだあたしに、ジョシュアさんは少し戸惑った様子を見せた。


「よし、裏庭に行こう」


 ジョシュアさんが提案した時だった。廊下の後ろからぱたぱたという可愛らしい足音が近づいて来た。


「おにいちゃま~!」

「シャノンか」


 シャノン様は、とても元気に飛び上がって、ジョシュアさんに抱きついた。


「おにいちゃま、あそぼう?」

「これから剣の稽古をするところだ」

「ミカリンと?」

「ああ、そうだ」


 何日もお城にいさせてもらっている間に、シャノン様に名前を覚えてもらえた。なんか、こそばゆい。でも、やっぱりシャノン様は可愛らしい。


「シャノンがいると、おじゃま?」

「邪魔ではないが、危ないだろう?」


 う~ん、とシャノン様が首をかしげているところに、侍女長のリリーさんが追いついた。


「申しわけありません、ジョシュア様」

「あやまることはない、リリー。おれ達はこれから、剣の稽古をするんだ」

「そうですか。それでしたら、シャノン様は危ないですね」

「そうなの?」


 リリーさんと、ジョシュアさんの顔を交互に見ていたシャノン様が、あきらめたようにリリーさんに飛び移る。


「わかったぁ。シャノンがいると、デートのおじゃまになるもんねぇ」

「なにを言うのだ、シャノン」

「もういいや。リリー、シャノンといっしょにあそぼう!」

「え? ええ、はい。そういうことでしたら、はい」

「リリー、妙なところで納得するんじゃないっ!!」


 ジョシュアさんは、必死だ。だってこれ、デートじゃないんだもんね?


「構いませんのよ。あの高潔なジョシュア様が、赤の他人と剣の稽古をするだなんて、ステキですわ」


 はぁ、とため息をつくリリーさん。だから、これはデートじゃない、んだよねぇ? ……高潔って部分がなにかひっかかるけども。


「うるさいっ。ミカリンは、赤の他人じゃないだろう!?」

「そこですか? いいえ、構いませんわ。わたくしはあえて、なにも問うたりはいたしません。それでは、失礼いたします、ジョシュア様」

「ばいばい、おにいちゃま」


 シャノン様は、リリーさんにしがみついたまま、廊下の向こうに去って行った。


「……よし、行くか」

「ええと、うん」

「誤解だからな」

「うん。わかってる」

「……なら、いい」


 あれ?誤解だって言っておきながら、なぜか機嫌が悪くなった? なんで?


 あたしに構わず、ジョシュアさんは、どんどん先を歩いて行く。


「待って」

「早く来い!」

「そんな……」


 あたしは、迷子になりそうで怖くなって走った。


「あっははっ。血相変えて走ってやがんの」


 そんなあたしを、ジョシュアさんがからかう。そういえば、二人っきりになるのって、いつも剣の稽古の時だけだよね。なんか、色気がないなぁ。


「本気で置き去りにするわけないだろ」


 さっきまで、少年のようにあどけなく笑っていたジョシュアさんが、今はもう、王子様スマイルだ。その変貌と威厳に、あたしの胸はとくりとはねた。え?どういうこと!? あたし、まさかジョシュアさんに、こ、こ、こ、恋!? なんて、してない、よねぇ。


「行くぞ」


 あきれたように微笑んで、ジョシュアさんは歩みを進めた。あたしは、動悸の理由に首をひねりながら、三歩後からついて行く。


 つづく













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