第42話 開かないドア

 ジェインさんがお城に勤めていることで、給料に不安はないと決めつけたアイシアさんは、意気揚々とユイニャンをかつぎあげた。反対側は、ルーさんがかついでいる。


「それでは、参りましょう」


 生涯の伴侶を射止めることが決定的になったジェインさんは、たのしそうに先頭を歩いて行く。その次をジョセフ国王、ユイニャンをかついだルーさんとアイシアさん、続いて心配そうなエリオット様、カナミア様。最後にあたしとジョシュアさんが並んだ。


「なぁ、アイシアに助言するべきだろうか?」


 唐突にジョシュアさんがあたしにささやいた。うわっ、この距離でジョシュアさん見ちゃったら、かなりの目の保養だわ。


「なにを?」

「ここだけの話、ジェインのギャンブル好きは、城の者全員が知っているんだ」


 それって……!?


「借金があるってこと?」

「シイッ! しかも、かなりの額だ」

「うわっ。あたし、それ、聞かなかったことにするっ」

「いいじゃない。アイシアは、あたしのドレスを作り続けなきゃならない理由になるもの」


 こそっと振り向いたカナミア様が、静かに言った。そんな、無慈悲な。


「それより、レモンティ国のおじ様が、ユイニャンとの交際を許したことについてなのだけれど」

「ああ。やはり、レモンティ国は魔女に対してやさしい、というアピールだろうな。エリオットは以前から魔女狩りに反対していたし、魔女の恋人がいるというのは、クリーンなイメージ戦略になるし」

「そんなっ。それじゃまるで、ユイニャンが利用されてるみたいじゃないっ!?」


 あたしの声は、つい大きくなって、カナミア様に、シーっと人差し指を向けられる。


「それでも、交際が認められたのだから、いいんじゃないの?」

「おれも、そう思う。こんなことでもなかったら、二人は引き離されていた。そんな姿をミカリンは見たいのか?」

「それは、困るけど……」


 認められたのはいいけど、複雑な気持ちだな。それにもう、ユイニャンは魔女じゃないかもしれないのに……。


「ともあれ、ユイニャンがレモンティ国の広告塔にされることぐらいは、覚悟しておいた方がいい。といっても、あの二人のことだ。なにも気づかない可能性があるから、水をささないようにな」

「わかりました」


 納得できないけど、しあわせそうなユイニャンに、本当のことを知らせる義務はない。ここは、大人しく見守るに限る。うん、レモンティ国の王様だって、そんなにムリさせたりしないよね。


「この部屋です。どうぞみなさん、お入りください」


 ジェインさんに導かれて、全員が部屋に入って行く。なんか、紫色が一杯で、ここってルーさんの占いの館に似てる。


「やだ、なんかおちつくわ~」


 ユイニャンをかついで部屋に入ってきたルーさんは、しみじみとつぶやいた。


「やだ、本当。ママの部屋に似てる」


 どうやらアイシアさんも、おなじ考えのようだ。


 全員が部屋に入ったところで、ジェインさんはドアを閉めた。


「この部屋は、部屋の所有者であるわたくし以外、魔力がある者は開けることができません」

「それって、閉じ込められたってこと?」


 さっそくアイシアさんが異論を唱える。


「魔力がある人には、そうなります。ですが、魔力がない者にはなんの抵抗もなく開けることができます。つまり、ユイニャンさんに魔力が微量にでも残っていたら、開けることはできません。試しに、わが愛しのアイシアさん、開けてください。ちなみに、この部屋の中では、魔力が半減します」


 魔法でドアを開けようと息巻いていたアイシアさんは、ずっこけた。


「それを早く言ってよね。まぁ、いっか」


 今度は普通にドアを開けに行くアイシアさん。ドアノブを手にしたまま、あれっと首をかしげる。


「やだ、本当に開かない」


 アイシアさんは、すごく乱暴にドアノブを回そうとするけれど、がちゃりとも音がしない。


「これで、アイシアさんが魔女だと証明されました。ありがとう、さがってください。続きまして、ミカリンさん、ドアを開けてみてください」

「え? あたし?」


 まさか、自分が呼ばれるとは思ってなかったあたしは、取り乱しながら、ドアを開けに行く。


 おそるおそるドアノブに触れた。がちゃっと軽い音がして、ドアは簡単に開いた。


「え? あれ?」

「はい、ありがとうございます。このように、魔力のない者には簡単に開けることができるのです。それでは、ユイニャンさん、ドアを開けてみてください」

「はい」


 ユイニャンは、ふらつく体をだれの支えもなしにドアへ向かう。あたしも、みんなも、ただ見守ることしかできない。


「開けます」


 ユイニャンは、宣告して、ドアノブへ細い手を伸ばす。お願い、開いてっ。……がちゃりと音がした。次に、ドアが開いた。


「……開きました」


 呆然と結果を告げた。やったっ! これって、もうユイニャンは魔女じゃない、ってことだよねぇ。


「どうやら。薬草の効果は本物のようですね。おめでとうございます、ユイニャンさん。これであなたは一般人です」

「やったっ! ユイニャン、すごいじゃないか」


 エリオット様は、ユイニャンの手を取るなり、踊り出しそうな雰囲気だ。


「これも、みなさんのおかげですっ」


 ユイニャンは、今にも泣き出しそうだ。


「よかった……」


 声に出してつぶやいちゃったのを、ジョシュアさんに聞かれてた。


「本当に、よかったな。これで、島の消滅は防げたわけだし」


 少年のように、くったくなく笑うジョシュアさんを前に、なぜか胸が高鳴る。ダメ。ジョシュアさんはずっと前から、カナミア様が好きなんだからっ。


「では、次は、薬草のクローンを開発すればよいのだな」


 国王陛下は、すでに先を見ている。


「その前に、ちょっといいですか?父上」

「どうした? ジョシュア?」

「実は、今ここで、たこ焼きを食べたいのですが、よろしいでしょうか」

「そうなのか? うむ、では、ジェイン、たのむぞ」

「はっ! ……たこ焼き9人分、テイクアウトで!」


 こうして、あたしたちは、ブジにおいしいたこ焼きを食べることができた。


 つづく







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